奴隷の行方 30~酔った2人・ファルとムル
アキーの実。その木箱を用意したのはフランス人船員。サールはあの船員とも結託していた。バンジャマンが、軍事用のアキーを容易く手に入れる事ができたのもサールの仕業。しかもそれは、アキーではなく、すり替えた劇物のアコンカンテラ。軍警察が来る事など予想だにしなかった木箱にはドクロの印字が付いたままであった。
サールのフランス人に対する恨みや敵対心はそれを徹底的に施した。
(サールの奴め。フランス人船員まで丸め込んでおったのか、、仕返しをしたいが、もうダカールには戻りたくても戻れん。くっそー!)
「腕を出せ。手錠だ。」
ガチャリ
「覚えとけ。バンジャマン。軍警察なくして平和なしだ。」
警官はやんわりとバンジャマンに言った。
両腕をシカと掴まれたバンジャマンはその幅広の肩をガクと落とした。
しかし彼の金色の髪だけは、アランの農園のワインの薫りと共に木立の風にススと靡いていた
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『どうだ? オレの造った酒は? ほら、ハラ。うまいであろう?』
「んん~ん。まだ、シオンの爺にはかないませんな!ハハッ!」
『お前、オレの婚儀になにを申す!ひっ捕らえてディオマンシと一緒の檻にぶち込むぞ!ハハッ!』
「死んでもそれだけはご勘弁を。ハハッ!』
ファルが王の座についてからというもの、ジョラの村は至極ご機嫌であった。
抑制や抑圧のない平和な日々が訪れていた。
「警察なくても平和あり!だな!」
ムルのお爺がカジュの酒を片手にヨロヨロと、上座の前に寄って来た。
「やっぱりファル様にはお似合いであったろう? わしの見立て通り。なっ、マンサ姫。」
ムルは酔っぱらっていた。
「ところで。こんな席で恐縮であるが、後でちょいとわしの話を聞いてもらえぬか?」
『なんだ?酔っぱらいのお小言か?』
酒で気分の良くなっていたファルは、もう一口呑み干した。
『はいはい、爺さん。わかりましたよ。あとでまた。もう少し呑んでから。』
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「ファル様。ちょっとこちらへ。」
『なんだ?こそこそ。怪しい気配の話か? 霊媒でもして来たのか?』
「ファル様にはこの村の王として、はたまたお身内の事して知っておかねばならぬ事がございまして。婚儀の後で申し訳ございませんが、ここからは本当の意味で王となられるお方。少しお話をと思いまして。」
『なにやら、物々しい言い方であるな。』
「実はファル様。あなた様のお父上様、それからお母上様。可能性は低いかも知れませぬが、ひょっとすると生きておられるかも知れませぬぞ。」
『ん?ンバイとマリマがか?どういうことだ? なぜわかる?』
「実はポロロカの祭りの日。わしはディオマンシに餌を届けに参ったのです。そこでわしは奴に聞いてみた。ンバイとマリマをどうしたかと。」
『ほう、、したら?』
「殺しはしなかったと。」
『んん。では、どうしたというのだ?』
「どうしたもこうしたも、カマラやドンゴに連れられてマンディンカに送り返したと。」
『んんん~? マンディンカぁ? 送り返すぅ? どういう意味だ? なぜ、マンディンカの地を「送り返す」というのだ? ムル、おかしいではないか???』
(まずい! 口を滑らせた!)