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奴隷の行方 29~バンジャマンの罪

 「ンバイ、マリマ。子に会いたいか?」

「もちろんですとも!もう数年は会っておりません。私達はグリオの家系。息子にもまだまだ多くの事を教えねばなりません。」

 

 「はっ!グリオであったか! それで楽器と。ならば神のしもべではないか、、、ではぁ、俺の言う通りにやれ。フランスには向かってもらうが、、グリオかぁ、、」

「グリオがなにか、、」

 

 「本当に戻りたいのだな。マンディンカに?」


「と言いますか、ジョラの村へ。」

 「わかった。戻りたいのなら、焼きの刻印を尻に打たせてもらうが、よろしいか?」


「、、、本当に戻れるのであれば。」

 

 「では、そこの部屋。鉄の扉の部屋だ。打ってもらって来い。」


夫婦は鉄の扉を開け奥に入った。


 

 トントン!

『おい!サール!サールは居るか? 中に入るぞ!』

 「おー!バンジャマン殿!いよいよマルセイユにご出発ですなぁ。アキーの実もカジュの木箱に入れておるそうであります。」 

『奴隷の夫婦は?』

 「今、支度をしております。」

『そうか、そうか。これで全て揃ったな。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マルセイユの農園。青々とした木立の中。

 光る木漏れ日を浴びた2頭の毛並み艶やかな馬が、ポクポクとアランの家の前に進んで来た。

乗っていたのはフランス軍警察であった。


2人の警官はアランとバンジャマンの間に割って入ると、そこで馬を降りた。


 「ダカールから来たというのはお前か? 名前は?」

『バンジャマンだ。何の用だ?』

 

 「ここの2人は?奴隷だな?」

『何をおっしゃいます。奴隷ではございません。わざわざ西のアフリカより、この農園に手伝いに来た者であります。』

 「本当にか?」

警官は下から覗きむようにしてバンジャマンの目をうかがった。


「おい!そこの2人!尻を出せ!」


通訳のマルタンは2人に伝えた。


 ペロン


「、、、あるではないか。バンジャマン。焼き印が。ほれ。」

 警官は2人の尻を指差した。


 『ぅううう。』

 (なぜだ?打つなと言ったはずだ。やはり、あの時の2人ではないのか、、)


「奴隷とみなすぞ。すでに我が国は奴隷廃止法が施行されておる。逮捕だ。」


「それと、もう一つ。」

もう一人の警官が言った。

「荷物を見せてくれ。」


そう言うと2人の警官はバンジャマンが乗って来た馬車の方に歩を進めた。


「なんだ?この木は。もさもさと。」

警官は荷台の中をまさぐった。

 「この小さい木箱はなんだ?」


 『それはアキーの実だ!』

「毒物ではないか? 軍事用ではないか?」

 『食糧として持って来たものだ。』

「ほう。食糧。中を開けさせてもらうぞ。」

 『お好きなように。』

 バンジャマンは奴隷の事で捕まるのかと思うと、アキーの事などどうでもよくなってしまっていたが、更なる追い打ちをかけたのは中身であった。


「おや?これはぁ?下がれ!触るな!」

 『?』

「アコカンテラではないか!アコカンテラ・オブロンギフォリア!!」

 『アコカンテラ!?』

バンジャマンも木箱を覗いた。

 

 赤く熟した実だった。しかしアキーではない。樹液に触れただけでも人を死に至らしめるという猛毒の実であった。


「バンジャマン。これは食糧として扱えぬのは分かっておるな。国内には持ち込めない物だ。罪は更に重くなるぞ。」

「それとだな。この2人の奴隷。ダカールに戻す。船賃は、バンジャマン、お前持ちだ。」

2人の警官は言った。

 

 ンバイとマリマが名前を偽ったのは、2人がゴレ島に戻り、ダカールに身柄を輸送する際の手段であった。

ンバイとマリマという奴隷は記帳簿に載っていない。

つまり、奴隷の名が記されていれば、ゴレから取って返して南米に移送できるが、名簿に載っていない者は、一旦ダカールに送られ収容する事になっていたのだ。サールはこの2人をダカールにさえ戻せば、カジュの造り手をジョラに戻す事など容易いと思っていた。

彼はそこまではかっていた。


※アコカンテラ・オブロンギフォリア

心毒性の配糖体を含む有毒な樹液を持っている、東アフリカ原産の植物。

その樹液は触れただけでも、人間の心肺を停止させるという猛毒を含んでいる。

赤や黒の実をつける。

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― 新着の感想 ―
[一言] めちゃ、サール頭良いです。 奴隷は別人では無かったんですね。名前を偽ってたんだ。それもサールの知恵だったんだ。すごいです。 こういう、展開は面白くて大好きです。やっぱりサールは詐欺師の才能が…
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