表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/345

奴隷の行方 26~マルセイユ港

 西アフリカの楽園カナリア諸島沖。真っ青な空にアホウドリが悠々と舞っていた。

海面では海犬と呼ばれるアザラシがユラユラと浮かび、通り過ぎる船を見つめていた。


 奴隷船は7つの島をくぐり抜けていた。


バンジャマンは奴隷船の甲板の板を外すと異臭の残る真っ暗な船底を覗き込んだ。


「2人とも~生きておるか~?!」

 「!!!!!」

 何と言っているかは聞き取れなかったが、声が返って来た。

相手も聞き取れぬのであろう。ただ、口の中から音を発しただけの様であった。

「生きてはおるな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 紺碧の地中海。そこに現れたのは白い石灰質の丘の上、見下ろしているのは、ノートルダム・ド・ギャルド大聖堂だ。16世紀には軍事要塞となった寺院ではあるが、ロマネスク・ビザンチン様式を用いた要塞の中に礼拝堂を置くという前代未聞の建物だ。


 その大聖堂はマルセイユ港の守護神さながらどこからでも目に入る。

入り江を渡るめがね橋。魚を売る漁師。破堤の上に一列に群れるカモメ。急な斜面に折り重なる家々は、港の周りを取り囲む。


埠頭を吹き抜ける南風が心地よい。


バンジャマンは母国フランスの地に、その足をつけた。

 彼は知っていた。

マルセイユはフランスワイン発祥の地。これより2000年前、ギリシャの人々がオリーブと葡萄の木を持ち込んだのだ。まだ原住民と言われていたこの地の人々にその栽培方法を教えた。


 しかし、その栽培の地は南フランスから北へ北へとのぼり、今では一軒のワイン農園しかマルセイユにはない。

バンジャマンはその一軒に狙いをつけた。

ワイン農園同士の交流が少ない事だ。カジュを密かに栽培するには打ってつけだと考えたからだった。


 バンジャマンは港に降り立つと、キャリッジと呼ばれる2人乗りの4輪馬車を用意した。

港には貨物専用の馬車がいくつも並んでいた。手入れのゆき届いた馬の毛並みは地中海の青い照り返しに映えていた。


蒸気タービンが回り始めた。 

 ゴーゴーキュルキュルと港に轟音が鳴り響いた。

この奴隷船には、南米、西アフリカからの荷物が満載だ。


 その中からゆっくりと降りて来たのは、偽の許可証が貼られた木箱であった。

木箱はドスンと破堤に降りた。


 ギギぃ~ゴトン!

船に新たな桟橋が渡された。

それは暗闇の洞窟から地上の太陽に目が追いついていかなかったゆえであろう、2人の奴隷は目をつむり、船兵に抱きかかえられながらその橋の上をギシギシ、ゴンゴンと渡ってきた。


この町に降り立つことのない奴隷。

鉄球が桟橋を叩く音。

それは漁師達の手も止めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] マルセイユ港のノートルダムドギャルド大聖堂とはどんな所かなぁ?と思い調べてみました。 小説の描写と私の頭の中で描いていた物とピッタリでした。 さすがです。 マルセイユ港に降り立った、バンジ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ