奴隷の行方 24~蟻地獄・壊滅したカザマンス奴隷連行部隊
ルーガは粉塵の砂嵐に見まわれていた。視界は自分の足元すら容易に見えない。
吹きずさぶ赤い細かな砂はフランス軍カザマンス兵の頬をチクチクと刺し、風と共に流れ去った。
「これでは奴らがおっても、容易には見つけ出せませんな。」
『散らばるんじゃないぞ!一列だ!離れると迷い込むぞ!前の兵だけを見て進め!』
モルガン少尉は50の兵に声を掛けた。
『うっ、ペッぺッ!』
開いた口に粉塵の砂が飛び込んだ。
兵は瞬きを繰り返し前に歩を進めた。
ーーーーーー
「あれ!?あれは何でありましょう?!」
『んん?』
「あの建物の上。何か旗の様な物が。」
先頭の兵はおでこに左腕をあてがい、砂を避けながらその方角に向かった。
ハタハタと靡く物がその兵の目に砂と共に飛び込んで来た。
50の兵はその歩みに引きづられる様に付いて行くしかなかった。
その建物の上には色とりどりの布が万国旗の様に、はためいていていた。
『あれは、パーニュ?もう少し近づいてみよう。』
「確かに、柄のようなものがございますね。」
『しかしここはもう何年も人が住んではおらん。この砂嵐にあんなに色鮮やかに見えておる。以前の物ではないな。なにかセレールの目印か、、奴らがそこにおるのか、、?』
カザマンス兵は一斉に銃を身構え旗のもとに向かった。
『離れるな!ここから一列は解除だ。固まって進軍するぞ!外側の兵で砂を遮断しろ!中の兵で周りを見回せ!』
兵はおしくらまんじゅうの如く、ゆっくりと前に進んだ。
兵達の充血した目にその靡く旗。馬や葉の柄が鮮明に映し出された時であった。
ドッス~ン!!ドだだだだだだだだだだァ!!
足元の土が巨大な蟻地獄の如く、怒号と共に崩れた落ちた。
舞い上った雨雲の様な砂煙は、すぐに砂嵐がかっさらった。
「うわぁぁあ!」
「ぅううう~!」
団子になっていた50の兵は一斉に地滑りの穴に落ちた。
「あぁ~!あわわ~ぁ!あわわ~!」
逃れようとその穴を登ろうにも、粉塵の赤い砂は雪崩の様に底へ底へと兵を引き擦り下ろすのだった。
ボン!バン!ババ~ン!
お尻から落ちたモルガンが頭上を見上げると、その屋根のない建物の縁から黒褐色の男達が銃を向けているのが見えた。
ズドドドド~ン‼パンパンパ~ン!!
モルガンの目に映ったのはそれが最後であった。
穴の中で逃げ惑う彼らに、赤土の砂嵐と返り血の赤い嵐が降り注いだ。
パン!バ~ン!
パ~ン!パパ~ン!!
銃声は砂嵐の音も掻き消し、
50の兵はあっけなく息絶えた。
その横たわった兵の上には、新たに崩れた赤い砂がザザと覆い被さった。
カザマンス奴隷連行部隊は壊滅した。
またもや彼らフランス兵が与えた武器、銃に撃たれたのは己達であった。
そこは、あのパーニュの倉。
穴を掘り一斉射撃を加えたのは、
サールがルーガに連れて来た50の内の30の奴隷狩り部隊。
ここに留まっていたのであった。




