奴隷の行方 20~強者(つわもの)バブエ
『船は用意致しましたので、今夜ドボンと。陸地ではまた生えてしまいますから。』
「本当にどうしようもない雑木だな。頼んだぞ。バブエ。」
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『サール殿ぉ!船を着けて下さいましぃ!』
バブエはその夜、停泊中の蒸気船に近づいた。
しかし辺りは暗闇ではない。オランダやフランスの蒸気船が往来する煌びやかな明かり。
船上から聞こえる色とりどりの賑やかな言語。それはこの地に住む者にとっては異世界だが、その波の上ではここはアフリカだと主張する様に、100艘余の筏が浮いていた。
それは食糧商人、奴隷商人、港の管理官達の交通手段だ。船の行き来には欠かせない乗り物だ。
「おー!バブエ!うまくいったか!?」
サールは船横に着けたバブエを甲板から見下ろした。
『はい!とりあえずは!それよりも急いで船を!』
「よし!わかった!」
蒸気船を港に着けると、セレールの奴隷狩り部隊は堤に置かれた木箱にロープを回し、甲板に引っ張り上げた。バブエがいる限り人目を気にする事はない。この管理官の指示だ。
「では参るぞ!そのままゴレに向かう!ハハッ!」
セレールの操縦士だけを残し、奴隷狩り部隊はそこで陸に降りた。彼らはゴレ島には入れない輩だからだ。
蒸気船にはサールとバブエ、バンジャマン。それに操縦士だけ。
「どうであった?」
『やはり、モルガン。手を回しておりました。セレールの物は止めろと。』
「予想通りだ。」
「だろうな。」
バンジャマンが割って入った。
「パーニュの原料では駄目なのか?最初からわかっておるなら、そのままゴレに向かえば良かったんだ。わざわざ、、偽造許可証もあるではないか。」
「バンジャマン殿。このポルン。そのままゴレに持ち込めばいつまでもカジュと疑われ、カザマンス軍は探しに掛かるでありましょう。しかし、バブエと2人の管理官が立ち会った。そこで雑木と分かり、話を取り決め海に捨てたとあらば、すでに文字通りの海の藻屑。セレールが持って来た物はどうしようもない代物。カジュではない。それを捨てた。ただそれだけの事となりましょう? それ以上追いようがない。そのお墨付きをもらう為、わざわざ立ち寄ったのでございますよ。」
「まあ、そうだが。あの2人は? ヤッサ売りの。」
「バンジャマン殿。念には念を入れましょう。あの2人はカザマンスの若い兵に顔が割れております。それも時期に追ってまいりましょう。恨みを買った奴らと行動を共にしておっては我々も疑われる。つまり、、それも排除であります。我々はこの件に関しては知らぬ存ぜぬ。ただ港の管理官に頼まれ、ヤッサ売りが持ち込んだ雑木をこの海に捨てただけであります。」
「お前。あの二人を、、」
「まあ、囮と言うか、生贄と言いますか、、しかしこれでこのポルンを捨てるという名目で港から堂々と、外海ゴレに向けて出港できますゆえ。」
サールとバンジャマンを乗せた船は、けたたましい汽笛をボ~ンボ~ンと鳴らし、悠々と外港に出て行った。




