奴隷の行方 19~バブエは裏切ったのか?
東の空から太陽が頭を出した。ダカールの橙の熱帯が始まった。
サール達を乗せた蒸気船は、ダカールの港に浮かび、黒煙はその朝の澄んだ空気を濁していた。
ポルンの木の束はすでに木箱に収められ検閲の為、この港に下ろされていた。
『私は一足先に輸出管理の室に参ります。』
バブエはもしもの時の偽造通関証をサールに渡して、荷と一緒に蒸気船から降りた。
「ではこの2人を後から向かわせる。うまくやってくれ。」
「承知しました。手抜かりなく。」
サールがポルンの検閲に向かわせたのは、ヤッサ売りの二人であった。
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「なんだ?お前らは?」
「輸出の許可を頂きに参った者です。」
「何をだ?」
対応に出たのはフランス人管理官2人とバブエであった。
ヤッサ売りは一本の木を見本にと、管理官に見せた。
「これを一体どうするというのだ?」
「えっ~とですね。これはポルンと言いまして、あのパーニュという生地をご存じでおられますか?」
「もちろん。」
「で~あのう、これがその生地のぅ繊維、糸になるものでございまして。」
「それがどうした?」
「はいはい、これをですね。あのぅ、フランスに持ち込めば貴国でパーニュが出来ようかと思いましてぇ。先ほど港の入り江に下ろしました次第であります。あっ、すでに輸出用の木箱に収められております。」
「パーニュといえば、セレールだのう? お前らセレール族の者か?」
「はい。そうでありますが。」
「ほぉう。」
2人のフランス人管理官はニタと笑った。
『どれ?パーニュの原料かい?見せてみろ。』
バブエ管理官はポルンの木を手に取った。
『ハハッ!こりゃ~あ、嘘っぱちだ!こんな木はその辺の至る所に生えておる。パーニュの繊維になぞなるものか!棒にも箸にもかからん代物だ!こんなものフランスにもわんさと生えておる!国外に持ち出したら、ウヨウヨ生え出し往生するだけだ! 』
(おい、なんだ?バブエ。約束が違うぞ!話が違う!裏切りおったか⁈)
「お前ら2人!!言っておくがな!!例えこれが貴重な物だとしてもだ!海外に持ち出す事は禁ずる!カザマンス部隊ののモルガン少尉がな、セレールの申告するもの全てに許可を出すなと言ってなすったんだ!数日後に戻るゆえ止めておけと!」
フランス人管理官が言った。
『しっかしとんでもない代物だ。室に置いておっても数日でニョキニョキと。』
「そりゃ困った。モルガン殿もいつお戻りになられるかわからんし。バブエ、お前なんとかしろ。」
『貴重な物ならいざ知らず、こんな物は今夜にでも海にぶん投げましょう。』
「そうだな。この2人だけの身柄だけでよかろう。」
『左様ですね。しかしどこぞに隔離致しましょう?』
「奴隷借り置き場にぶち込んでおくか。」
『それがよろしいかと。どうせ南米送りでございましょうハハッ!。』
(くっそー!謀ったな!バブエ!)
ヤッサ売り2人の足首には鉄球がガチャリとはめられた。
「焼き印だ。尻をだせ!」
2人はうなだれ、床に膝をついた。




