奴隷の行方 17~青い目と青い実
赤い砂埃が吹き上がる。どこまでも続く一本の道。それがルーガだ。
居住区だったエリアは狭く、その道の両側に点在する。粉塵の赤い砂を集めるフランス兵の青い目は、真っ赤に充血した。
この部隊の駐留地マンディンカは、乾燥地帯とはいえ流々たるカザマンス川からの水路が引ける集落。
彼らにとって初めて見るこのルーガの光景は、本当にここに人が住んでいたのかと思わせるほどの別世界であった。
フランス軍カザマンス部隊はここに到着した。
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荷車5台にポルンの木を数十本ずつ。たわわに積んだセレールの部隊は、その前日に、ルーガを後にした。
奴隷狩りで訓練されている彼らの脚力はまさに馬だった。元々パーニュの絵柄に使われた馬はこの地方の象徴。それに憧れ続けて来た彼らにとって、足を競うのはお手の物だ。
その彼らに身を任せたフランス人のバンジャマンとフラニ族のバブエ。それに奴隷商人のサールは、荷車の荷台の上に後ろ向きにドカと座り、凄まじい土煙の轍を目で追った。
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「なあ、お前。このポルン。実をつけたところを見た事があるか?」
まだ若いセレールの男は先頭の荷車を引っ張りながら、隣にいた男に声をかけた。
「いいや。子供の頃から長年住んでおったが、一度も見た事はない。」
「しかも、バブエ殿とサール殿は青い実だと。」
「もしかしたら、あの二人、カジュとやらの酒が、青い色をしているなぞと聞きつけたのではないか?」
「なるほど、さすれば青と。」
「信じ込ませるには、色は重要だ。」
二人の額の汗は足元の乾燥土を湿らせたが、それはほんの一瞬であった。
熱波は彼らの汗をも吸い込もうとしていた。
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「バンジャマン殿。このパーニュの生地。82枚。いかほどでお買い上げいただけましょうか?」
「それは、もぬけの家で見つけた物であろう? 盗人と同じだ。なぜお前に金を払わねばならん?」
「なにをおっしゃいます! これはほれ。2台前の荷車を引っ張っておるヤッサ売りの若者の家から出て来た物。彼の物でありますぞ。」
「しかし偶然の賜物であろう?たまたまの物。」
「いえいえ、彼はあの家の倉庫の地下にパーニュがあることを知っておったのです。いつかこの地に出向いたら取り返そうと。しかしそれが、、あなた達フランス人のせいで思う様に帰れず、、」
「うぐっ。、、、いくら出せば良い。」
「まっ、ざっと4000フランってとこでいかがでしょう?」
「吊り上げおって。」
「いやいや、かなりお安くしたつもり。もう2度と手に出来ない代物。しかも私の取り分なんかございません。すべて、あの若者の物。」
ガタガタ!ゴトゴト!
ガタン!ゴトンゴトン!
5台の荷車はセレールの他部隊が用意した蒸気船の待つ、ルーガ西方の浜へと向かった。
赤土の粉塵がその後を追う様に巻き上がった。
ゴっトン!ガっタン!
※4000フラン=日本円で約45万~50万円




