奴隷の行方 16~ファルとマンサ婚儀の準備
カザマンス川の上流。ジョラの村の流域の両側は鬱蒼とした濃緑の密林。
林の中には大人が両腕を広げても抱えきれないうねった幹。座布団の様な大きな葉は、密林の湿地を保つかの様に更なる影を作り出していた。頭上には1センチ大の艶やかな白い実が、150個ほどを一房とし、鳥に突かれては、ユラユラと揺れていた。重さに耐えきれない房は地上に落ち、その体を虫の餌として恵んでいた。
ファルはその実をせっせと収穫し、シオンとマセラに教わった通りにカジュの酒造りに勤しんでいた。それには理由があった。マンサとの婚儀を済ませていなかったジョラの王が皆に振る舞う為の物であった。
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「ファル様。マンサ様。この度はご結婚の儀。誠におめでとうございます。」
まだ婚儀の支度中、いち早く駆け付けたのはムル爺であった。
王の婚儀の準備は代々民の役目であったが、ファルとマンサは自分達は民ありきの王と考え、民を客として向かい入れるという様式に変えたのであった。
『おう、ムル! 足を運んでくれたか!』
「もちろんですとも。あの時、わたしの杖。象牙の滴に映ったあなた様のお顔は間違いではなかったようでありますな。やはり、なるべくして王になられました。」
『顔?』
「まあ、良いですわ。勘も霊媒師の勤め。ハハッ!」
ハラが来た。
「ファル様。準備はお進みでございますか? して、ニジェ王様よりお届け物が。モリンガの実とムクロジであります。」
「あら!嬉しい!こんなに!」
喜んだのはマンサであった。
「ニジェ様は女心がわかってらっしゃいますわね。即位ではなく婚儀ですからね!これは私へのお届け物ですわ。ねッ。」
マンサはファルにウインクをした。
『好きにせい。』
ムルとハラも笑った。
『おっそうだ。お二方もいらっしゃったんだ。床に直接では申し訳ない。なにか敷物を。確かディオマンシの宝の部屋に敷物があったであろう? 持って参れ。』
その床に敷かれたのは何枚もの鮮やかな布生地であった。
「見事な布!誠に綺麗。美しい。」
ムルは立ち上がると上から眺めた。
「ディオマンシの奴、こんな物までくすねていたとは、、」
ハラはその敷物の周りを一周した。それは色とりどりの馬や葉の絵柄であった。
「ファル様。これは遥か西。大西洋にほど近いルーガという町の物でありますよ。確かぁ、、あっ、パーニュ。パーニュという織物であります。」
ムルが言った。
『ルーガ?パーニュ?』
「はい。セレール族の織物工の民が作っておる物です。」
「大西洋!?全くディオマンシの奴!どこからも貢ぎ物を漁りおって!!」
ハラはふんぞり返って、その布の上に胡坐をかいた。




