奴隷の行方 15~パーニュの生地[生地の写真添付]
それは廃墟の町ルーガの家々の周りに、垣根の如く生えていた。
人の居なくなった簾の家にポルンの蔦は絡みついていた。
「これに実がなると?」
「そうです。西洋でいう葡萄の様な葉。その細い枝から葉の突き出る所。」
「ここか?」
バンジャマンは指を差した。
「そこに小さな花が咲き、やがてその一つ一つが実となります。」
「ん~。これはまさしく葡萄だな、、」
「しかし紫や緑の実ではありません。房となるのは青い実。」
「青?」
すでにポルンの木を掘り出す作業を始めていたセレールの数人もその話に頷いた。
「お前らも見たことがあるのか?」
「はい。毎年鮮やかな青い実をつけます。」
「食べようとは思わなかったのか?」
「この木は家を強くするために簾に絡ませるのに丁度良く、、子供の頃に実を採って食べましたが、とてもとても食べられた物ではありません。」
「ジョラはこれを酒にしたというわけか。」
「そのようですね。」
バブエは答えた。
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サールは奴隷狩り部隊にポルン掘りを任せ、ヤッサ売りの二人とこの町に目ぼしい物は残っていないか家探しを始めた。
三人は、この地方では珍しい赤い土壁の小屋を見つけた。
「ここはなんであろう?」
「これは織物の保管庫ですよ。俺の親は織物工。良く知っておりますよ。」
「空だな。フランスに分捕られておる。」
「小さな地下室があるはずですよ。お進み下さい。織物には湿気と乾燥。作る過程で保管場所を変えていきます。まさかとは思いますが。」
ヤッサ売りの一人が床板を一枚外した。
土壁の倉庫の地下には3メートル四方の空間があった。
飛ばされてしまった萱葺の屋根からは直接真昼の日が地下に届いていた。
「パーニュじゃないか!」
地下室の壁に作られた棚に、この地方独特の織物生地パーニュが幾重にも畳まれて重ねられていた。
「見事だ!!鮮やかな色!残っておるとは!」
サールとヤッサ売りはその生地を、全て地下から放ると倉庫の床に広げた。
「これは金になる。ここで奴隷狩りをしたフランスの奴らも、まさかこんなオンボロ小屋に地下があるなど思わなかったであろうな。」
「持ち帰りますか?」
「もちろんだ。」
「しかし、バンジャマンがおりますよ。」
「そのままバンジャマンに高値で売りつければよい。そうすれば、ここまでの道中。蒸気船の燃料。ただ同然だ。この大仕事の手間賃は全部チャラだ。」
「サール殿は計算高い。いちいち関心しますわ!ハハッ!」
「俺は商人だぞ。」
サールは葉巻を吸い出した。
※パーニュ(パーニャともいう)
セネガルのルーガ地方の織物工が編むこの地方独特の布。
色鮮やかな葉柄や、馬柄が特徴。
現代でも世界に多く流通しており、日本でも買えますよ。
最近ではパリコレなどの一流デザイナー達の間でももてはやされ、多くのファッションモデル達が身に着けております。
世界で一番おしゃれといわれるアフリカ・コンゴのサプール達にも人気であります。
写真がパーニュの生地




