静かなる内戦15~ファル
『あれ?』
ファルは衣装に袖を通しながら小窓に向かった。
そこには三人の男に取り囲まれたンバイとマリマが立っていた。
『今、何を唄っておった?』
『ジョラの歌でございます。』
『ほう、ジョラの唄と。』
『左様です。』
〔カマラとパプ、それにドンゴだ。〕
『おかしいのう、カヌの一族はもうこの歌を唄わぬとディオマンシ様の前で誓ったのではなかったか?』
カマラが右の頬を上げ、小さく笑いながら言った。
『ディオマンシ様を讃える歌だけ歌っておればよいのだ‼』
ドンゴが続けざまに言った。
『私はこの部族に誇りを持っております。それゆえ真実のジョラを伝えるのが私の役目と思っております。他のカヌの一族がどう言おうと私たちは。』
〔父さん、それ以上言っちゃダメだ〕
ファルは小窓からその様子をうかがいながら、頭の中でつぶやいた。
〔殺される〕
と、ドンゴがンバイのバラフォンを蹴り上げた‼
『こんな物ぉ‼』
『なにをする!これは神器だ!』
『もうお前ら夫婦には必要ないわ‼』
パプが怒鳴った。
『来い‼』
ドンゴがンバイの左手を掴むと
逆の手でマリマの髪をひっぱった。
〔あっ連れてかれる!〕
12歳のファルにはどうするすべもなっかった。
ンバイとマリマはまだ中に我が子がいる事を悟られたくなかったのか、一度もこちらを振り返ることなく行ってしまった。 最後は早朝の長くのびた五人の影だけ残し行ってしまった。
父ンバイと母マリマがこの後、どうなるのか12歳のこの少年にも憶測はついた。
ファルは褐色の拳を握りしめ、父の言葉を噛み締めた。
『戦わねばならぬ時が来る』
ジョラの密林への大移動が始まったのは、これから二か月後のことだった。
300人を遥かに超える大移動であった。
フランス軍が西隣の部族マンディンカに迫って来ていた。




