奴隷の行方 12~バンジャマンの決意
「奴隷狩りに比べたら楽な仕事だ。木を伐り出せばいいだけであろう?」
「そうだ。それをケジャワイの浜まで積み出せばよい。」
サールはセレールの奴隷狩り部隊に声をかけた。
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「バンジャマン殿。バブエにもルーガまで立ち会わせましょうか?それが確かな物か。確かにカジュの木なのか、、間違ってはなりません。」
『そうだな。その方が確かだ。』
「それと、アキーの実ですが、熟しておる状態では輸出されておりません。軍事用としましても、食糧としましても室では同じ青い実。毒として取り扱う物は、奴隷共がその青い実から果汁を絞り出し、液状にして甕に入れフランス行きの船に。食糧用は青いまま船に乗せ中南米に着く頃に完熟し毒が抜けると。」
『バブエが扱っているのは食糧としてだな。元々輸出している物。許可もいらん。青い実のままでもフランス行きの船に乗せられる。何事もこちらの思う通りに事が運ぶな。ハハッ。』
「バブエが言うにはカジュは極端に寒い国でもなければどこでも育つと。」
『しかし、この熱帯の地の原産だ。我が国のなるべく南のワイン農園。マルセイユかボルドー。マルセイユには港もある。全くの好都合。そこの農園で、あの夫婦を奴隷として働かせながらカジュの酒を造らせる。』
「アキーの実は定期的にフランスへ。中継でマルセイユへと。アキーはこの熱帯でしか実がなりませぬからな。カジュの様にはいきません。こちらから青い実を奴隷船に乗せ。」
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サールとの話を終えたバンジャマンは、帰らざる門を抜け、ゴレ島の断崖に立った。
バンジャマンもまた葉巻を口に咥え、母国フランスに思いを果てた。
(奴隷商人。俺の足にはどれだけの奴隷達の体臭が染みついているのか、、鼻を突く泥と糞まみれで
異臭だらけの商い。俺は綺麗さっぱり足を洗う、、、カジュの酒という絶好のチャンスを手にしたのだ。マルセイユで巨大カジュ農園を開拓し、世界中の国々と取引をし大儲けをして残りの人生を豪勢に謳歌してやる。もう二度とこんな国には立ち寄らない。二度とごめんだ。マルセイユの青い空の下、優雅に贅沢に暮らすのだ。)
目の前には、次から次へと打ち寄せる巨大な群青の波と地響きの怒号。吹き荒れる西風の空を旋回するアホウドリの群れのアウアウという鳴き声。
その音と響きは、彼の心の臓器を掻き立てた。膨らんだ希望は、引き返すシャボンの泡のようには簡単に割れるものではなかった。
バンジャマンは燻ぶった葉巻を、口から放すと、紺碧の断崖に投げすてた。




