奴隷の行方 8~奴隷仮置き場
「ジョラの村は秘境の密林。カジュと似た様な木は至る所に茂っています。それが確かなものか我々では判断出来ません。そこでこの夫婦、何か言い掛かりをつけてカザマンスに戻す方法はないかと。」
「この2人は今、ゴレにおるのだぞ。ダカールならいざ知らず、戻すには手遅れだ。」
「でしょうな、、しかしそれではここにいつまでも置いておく意味がないではないですか? 私どもとしても商売あがったりですわ。もう船に乗せてしまいましょうか?」
サールはバンジャマンにカジュには興味のない素振りで言った。
「待て、待て。駄目だ。駄目だ!もうしばらく。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
それからバンジャマンはダカールの港に毎日詰め、埠頭の奴隷仮置き場に赴いた。
石造りで窓のない、狭く暗い部屋は天井にまで異臭が立ち昇っていた。
その中に詰め込まれたカザマンスから来た奴隷。
鼻の奥まで異臭慣れしたバンジャマンはカジュの木を知る者がいないか、淡々と一人一人に聞いて回った。
仮置き場にはカザマンスからのフランス兵は駐留出来ず、港の管理を任されていたのはここに滞在するオランダとフランス軍の連合軍のみ。この連合軍はゴレ島に向かう船が来た時だけ奴隷の尻をあおり、詰め込ませていただけで、後は暇を持て余し露店で遊び惚けていた。
西アフリカ、オランダそれにフランス商人だけがここで品定めに奔走していた。
それぞれの部族語、フランス語オランダ語と異国の言葉が飛び交いはしたが、密集した中での会話と商人同士の思惑、お互いの話している事など聞き取れない。
「お前、カジュという実を知っておるか?」
「はて?知りません。」
「お前は?」
バンジャマンは片言のマンディンカ語で聞いた。現地周辺の民族語を覚えるのは奴隷商人の必須。
しかも、これは通訳を介する事さえ恐れたからであった。
「聞いた事はありますが、あれでございましょ? 酒が出来るとか、、」
「おう!知っておるか!そうじゃそうじゃ!お前、造る事が出来るか?」
「いえ、私はマンディンカ人。噂だけで、、しかしカジュだけでは造れぬと聞きましたが。」
「カジュだけでは造れん?どういう事だ?」
「はい、なにかひと手間?いや二手間加えぬと、、」
(手間?やはりカジュを見つけ出してもワインの様にはいかんのか、、)
「その手間。知らぬな?」
「知りません。ただ、、」
「ただ?」
「なにか毒物だと。」
(毒物? これはいよいよあの夫婦。船に乗せるわけにはいかん。)




