奴隷の行方 7~隠し味アキー
「あの、一房に白い数十の丸い実がなっているのがカジュの実でありますよ~!」
『それは知っておるよ~!』
ファルとシオンはカジュの茂る林に赴いた。
「色が薄いのは駄目でありますよ~!。香りが弱く酒には向きません!色の濃いやつをぅ!」
ファルは久しぶりの木登りを楽しんだ。三房もぎ採ると、カジュの幹を伝いながらスルスルと降りて来た。
「お採り頂いたら、この大きな土皿に移してムギュと。」
『このままかい?果皮や細い小枝も付いておるぞ。』
「良いのです。果皮と枝には酒に適した菌が付いておるのです。そこから苦味も出てきます。ですから、むろん洗わずに。実に付いている白い果粉もそのまま。水も要りません。そのままお潰し下さい。』
ファルは土皿の上でカジュの実をぐちゃぐちゃと潰した。
「そのくらいでよろしいかと。」
『凄い。溢れ出るほどの果汁だ。水がいらぬのがよくわかった。』
「舐めてごらんなさい。」
『お~ぅ!甘い!』
「甘ければ甘いほど酔いの値が高くなります。」
「そう致しましたら、皿から甕に。」
『えっ、またこのまま? 昨日飲んだ物には皮や枝は入っておらんかったが。』
「ハハッ!大丈夫でございますよ。三日後に漉しますから。」
『なるほど。』
「甕の蓋はきっちり閉めては駄目です。家の中に置いておっては、天井にまで暴発しますゆえ、少し蓋をずらして隙間を。」
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三日後。シオンは宮殿にやって来た。
「どうでありましょう?」
『蓋を少し開けているだけで部屋中がカジュの香りになっておる。ハハハッ!』
シオンは甕の蓋を外し、中を覗いた。
「ブクブクと良い泡立ちでございます。ではこれを笊で漉して、別の甕に。」
ジョボジョボジョ~
『白く濁っておるな。あの青ではない。』
「まだまだ、ここからです。」
するとシオンは懐から拳骨大の真っ赤な実を取り出した。
「アキーの実でございます。」
『ん?アキー?あの毒矢に使う猛毒のアキーの事か?』
「左様です。このアキー、青いうちは高い毒を持っておりますが、熟して外側の赤い皮がはじける頃になりますと毒は消えます。ムル爺が言うには、今では食用として奴隷と共に南米にまで運ばれているようであります。」
『しかし、なぜこれを入れる?』
「それはクルミのようなコクが出る上、染み入る様な舌越しや喉越しが得られるのであります。」
『昔から?』
「左様です。私の祖父もこのようにしておりました。」
ファルはアキーの果肉を片手で潰すと、一つまみ甕の中に放り込んだ。
「そう致しましたら、後5日。また蓋を少しばかり開けてジックリと。」
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5日後。
甕の中からは、青く透き通る滝が瀑布し、白い鷺がガラスの器にと舞った。
※酔いの値=アルコール度数(糖度が高い程、アルコール度数は上がります)




