奴隷の行方 6~献上の酒
(マンディンカにおるフランス兵を出し抜いて、どうにかジョラの村に入れんか、、)
サールはカジュの木がどのような木でどんな実をつけるのか想像すら出来なかった。彼は金儲け以上にこの神秘な酒の魅力に憑りつかれ始めていた。
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7月はカジュの実が熟す最盛期を向かえていた。
「ファル様、マンサ様。今年も美味しゅうカジュの酒ができました。御口にお運ばれあれ。」
『おー!これは有難い!民と森に感謝せねばな。しかし、「今年も」と言われても実は、、この酒を口にするのは初めて。』
献上に上がったのはシオンとマセラという初老の夫婦だ。
「そうであられましたか!確かにファル王は15。酒の味はわからぬ歳ですな。」
ジョラの村には未成年という区切りはない。村で採れた物、作られた物は子供年寄分け隔てなく食していたのである。
『では、どれ。』
カジュ酒の入った黒い甕の首根っこを握るとそれを傾けて自分の湯飲みに注いだ。
グビッ。
『ほ~ぅ!うっまぁぁい!喉にジンジンくるわあ! ディオマンシが病みつきになるのもわかるわ!』
『わたくしも頂いてよろしいですか?』
『おうおう、マンサも飲んでみろ!喉から大蛇が飛び出るぞ!』
『は?わたくしは、口にしたことなど何度もありますわよ。大蛇なんか飛び出してきませんわ!ハハッ!』
「ファル様はグリオの御家系。カヌの一族ではカジュ酒を造ることはあっても、人を惑わすこの手の物を口にするのはご法度だったのでありましょう。」
シオンは言った。
『えっ、オレ今飲んじゃったよ。』
「よろしいんじゃないですか。グリオといえど今は王。お召し上がりくださいませ。」
『ところで、甕から湯飲みに移したんでよくわからなかったが、これはどんな色をしておるんだ?』
「色?はて?、、実を潰して甕に入れ、、、あとは蓋をして人目に触れずそのままその中。よく考えたら色は、、わかりませぬな。考えた事もなかった。注ぐ時には透けた色としか。」
『マンサ。ディオマンシの宝箱の中に、ガラスの器があったであろ? 持って参れ。』
ファルはマンサの持って来た器に、カジュ酒を注いだ。
「ううっ!」
シオンが唸った。
「こんな色をしておったとは!たまげた!」
ファルは器の底を持ちグルリと回した。
『湖面から舞い立つ白い鷺。』
4人はしばらく見入った。
『なあ、シオン、マセラ。この物の造り方。オレに教えてもらえぬか?』