奴隷の行方 5~カジュは淡い青・マンディンカから来た奴隷
フランス軍は カザマンスという新天地を切り開いた。
数年の間それに駆り出されたマンディンカの民は、開拓終了と共にお払い箱となり、第一陣、第二陣とダカール港の先、エストレーへとしょっ引かれた。
「あの二人。カジュの酒を造れてもカジュがなければどうしようもありませんぜ。即刻フランスにと言われても、ただの百姓にしかなりませんわ。」
「確かにな、、どうにかしてカジュの木を手に入れねばならん。」
サールの話にバンジャマンは頷いた。
「なんとかせねばな、、」
「まっ、それまではここに置いて私どもが面倒見ますわ。」
「頼む。内密にな。」
「もちろんですとも。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、エストレーの周りはカザマンスからの働き蟻で数珠繋ぎになっていた。
見分が始まったのだ。
サールは収容所の二階でその処理に追われていた。
そして一人一人に片っ端から、カジュの木の話をしてみたが、誰一人知る者がなかった。
「はい、次。」
鎖に両腕を繋がれた若い男が入って来た。
サールは彼の顔を見る事なく聞いた。
「歳は?」
「24」
「おっ良い年の頃だ。お前高く売れるぞ。」
サールは首を上げて目を合わせた。
「カザマンスのどこから来た? 部族は?」
「マンディンカ。」
「ほう、ジョラの隣だな。まっお前も知らぬと思うが一応聞いておく。カジュという木を知っておるか?」
「はい。存じ上げておりますが。」
「おっ、知っておるかぁ!ようやく見つかったわい! で、それはどんな木だ? この辺りにも生えておるか?」
「いいえ、この辺りには無いかと。それはジョラの村にしかございませんので。」
「ジョラだけ?どういう事だ?」
「あの木はマンディンカの東、気高く険しい山々を越えねばなりません。そしてジョラの窪地の先は湿地を跨ぎ更なる山々が続きます。」
「ほ~う。」
「その窪地の乾燥地帯から湿地に至るまで密林の如く生えているそうでありますが、東西に分かれる高い山々が邪魔をして他所の地には種が飛んでいかぬと聞きました。」
「なるほどぉ。でお前、その実を造した酒を口にした事はあるのか?」
「はい、ペロと舐めた程度ですが。」
「おっ、飲んだことがあるのか!美味いのか?」
「はい、舌が抜かれるんではないかと思うくらい。」
「色は?」
「透明なグラスに注ぎましたところ、それは淡い青。中には白い綿の様な筋状のデンプンがユラユラと。グラスの底から眺めてみると、それはまるでイワシ雲が連なって流れる真昼の天のようでありました。」
(なんだ、こ奴? マンディンカの民の身分で、グラスだと、、)
「博識だな。よくそのような物を知っておるな。」
「見た通り聞いた通りを言ったまでです。」
(小奴使えるかもしれん)
「ではお前、もう少しその話を聞きたい、、ひとまず南米行きは無しだ。隣の部屋に椅子がある。掛けて待っておれ。」
若い男はコクリと頷いた。
「おっ、そうだ!お前、名はなんという?」
「サバ。」




