奴隷の行方 4~ランプの灯る露店
「良いか。情報は少しずつ小出しだ。」
サールはダカールの港に降り立っていた。カザマンスから来た奴隷の品定めと仕入れだ。
彼はその足で露店街に向かうと、店の前でヤッサを注文した。
「腹は空いてはおらぬが一皿くれ。」
露店のあちこちに鯨油のランプが煌々(こうこう)と燈り始めた。
日が暮れて来たその路地は片付けを始めるどころか、港からの帰りのフランス兵を待ち、ランプに油を注いだ。
その店の若い男が、テントの屋根にダラリとぶら下げたランプをも湿らせる程の蒸気を立てながら、熱く煮えたぎったヤッサを、片手で持って来た。そしてその香しい香りの皿を、サールのテーブルの上にコンッと置いた。
「いくらもらった?」
サールは魚を盛ったスプーンを口に入れると、その男に聞いた。
若い男はズボンのポケットから札を出そうとしたが、その厚みでしばし往生した。
「抜けねえや。」
「そんなにか?」
サールは高笑いをした。
「たかだかこれだけの情報でそこまで出すとは!こんなわけのわからん奴らに!カジュとは恐ろしいわ!ハハッ!」
調理をしていたもう一人の若い男もサールをみてニヤリとした。
「よいか、あの二人の奴隷は俺の手の中だ。全てはこの俺が握っている。俺がすべてを知っている。その情報をカザマンスの兵に少しずつ漏らせ。せしめる金を倍に倍にと膨らませながらな。ゴレに打ち寄せる波のように寄せては返し、寄せては返し、、、最後にシャボンの様な泡を吹かせてやる!ハハッ!」
サールはまたしても不適に笑った。
「サール殿、例えが冴えております!うまいことやってみますわ。」
「ただな。カザマンスに駐留しておる部隊はフランスの精鋭だ。一筋縄ではいかんジルベールがいる。あの野生動物の様なカザマンスの民を、片っ端から生け捕りにしておる。なにか事がバレれば、、」
と、サールは自分の首を親指で切り裂く風をして続けた。
「奴隷商人はな。売り手からも買い手からも金をせしめるのが通りだ。バンジャマン、ジルベール双方から金を奪い取る。バンジャマンには、じらしだ。ジルベールには小出しにだ。じわりじわりと金を引き出させる。お前らにもそれなりの報酬は出す。ポケットの中の物、今回は全てお前らにやる。とっておけ。」
「よろしいんですか!!」
「よいよい。これからの事もある。ポケットに捻じ込んでおけ。」
「へいへい、有難き。」
「ではヤッサのお代はいらぬな?」
「もちろんですとも!」
「俺は今からカザマンスから来た奴隷の品定めに行ってくる。奴らはな、この辺りの部族の者と違って獣の様な身体能力を持っておるんじゃ。高く売れる奴隷だ。まっ、人数で一括だからどれこれ選べぬが。ハハッ」
サールはランプの連なる露店の路地を両足で軽くステップしながら、曲がり角を右へと曲がって立ち去った。




