静かなる内戦14~ファル
この出陣から遡ること三年前。
ディオマンシ率いるジョラ族がこの地に移り住む前のこと。
そこは渇いた土地ではあったが北を満々と流れるカザマンス川からの泉が、至る所湧いていた。
その一つ一つの泉を数件が取り囲むように点在してるオアシスのような集落であった。
そこにファルは、父ンバイと母マリマと暮らしていた。一夫多妻で多産の部族にあって三人というのは珍しかった。
この付近の多くはカヌというグリオの家系だ。ディオマンシの命令に屈した唯一残ったグリオ達だ。
穏やかな柔らかい日差しが降り注ぐ朝。表ではコケコケコと鶏が鳴いていた。
マリマはすでに華やかなグリオの衣装で身を包み、井戸の水を汲んでいた。
『ファルぅ!ファルぅ! 支度はできているかい‼ 今日はメンドリッサの婚儀だよ!そろそろ支度をし!』
マリマが土壁をくり抜いただけの小窓からファルの部屋を覗いた。
『あら、おまえさんも一緒だったかい。』
父、ンバイはとうに着替えていたが、まだ裸同然のままのファルに弓の作り方を教えていた。
『よいか、フランス軍はきっと攻めてくる。弓矢の鍛錬は一日たりとも欠かすな。グリオといえど戦わねばならぬ時が来る。自分の身は自分でな。』
『それより先にバラフォンの練習だよ!』マリマが小窓から笑いながら言った。
『はい!』
『わしは母さんと音を合わせてくる。着替えたらお前もバラフォンを持って出てこい』
そういうとンバイは部屋から出て行った。バラフォンとはこの地方特有の木琴のことである。
外からは母マリマのバラフォンの音色と共に父の歌声が聞こえて来た。
【ある日暑い日差し 二人の兄弟が旅を続けた
やがて飢え疲れた弟が一人で行って下さい
腹が減って動けない
兄はその願いを受け入れたように
茂みにに隠れ
自分の腿の肉を切り取り
ひん死の弟に与えた
あなたは自分の肉を切り取ってまで
私を助けて下さった
これからはあなたの従僕として
子孫までずっとそうするでしょう
それが スンジャタ・ケイタ王 それは偉大なる、、】
と唄の途中でピタと音が止まった。




