フラミンガ紛争 16~檻(おり)
「おう、おう。ニジェ!どうした? 盗みでも働いたか?!」
ディオマンシは大声で笑った。
檻と呼ばれる牢屋は硬いブビンガの生木で格子状に組んであった。湿気を含んだ生木は乾燥木より切り辛いが、切り辛い事こそが、牢獄に向いていた。
5m四方の檻は高さ170cm程度。ニジェやガーラの背丈では頭を傾げなければ立てない高さだ。 床は湿地のぬめる様な土。それゆえ無造作にカジュの枯葉やシダを敷き詰めていた。それは悪臭を防ぐ為でもあった。
屋根も格子に組まれていたがそれもまた大きな枯葉を乗せただけである。雨が降れば一溜りもない。
その檻があったのは宮殿裏の水路の西側。なるべく民の目に触れぬ様、遠ざけた場所だ。
裏手の水路から、檻の下を掠める小さな支流を設け、そこに彼らの糞尿を流した。
支流は流れた先の肥溜めに溜まり、ジョラはそれを作物の肥やしにと考えた。
元々はニジェもジョラの村に来てからは、これと変わらぬ似たような生活をしていたので何ら変わらないと思った。
ただ、ディオマンシとガーラ、マンディンカ兵が一緒だというのが大きな違いだ。
ニジェはハラとドルンに連れられ、押し込まれる様に檻に入った。
ガーラは一度ニジェの方を振り向きその姿をチラと見たがそれきり背を向けて座り込んでしまった。
先に話しかけて来たのはディオマンシの方であった。
「まあ、座れ。お前何をやらかした? なぜここに入れられた?」
『、、、』
「なんだ?答えたくないのか?」
『それを聞いてどうする?』
「聞いてみたかっただけじゃがな。」
『、、、』
「おう、そうじゃ!聞いてみたいと言えばひとつ!」
『、、、』
「お前。ドゴンの子じゃろうて?」
すると、足を抱え込んで座っていたガーラが振り向いた。
「おい!ディオマンシ!お前、なぜそれを知っておる!?」
「は?わしはジョラの王だぞ! バカにするでない! しかも貴様にディオマンシ呼ばわりされる筋合いはないわ!! その物言い、誰じゃお前は!」
「あっ、これはこれは失礼を致しました。私はマンディンカより参りました元バル王の護衛官ガーラと申します。」
ガーラは少しニヤリとして答えた。
「ん?マンディンカの護衛官だと?」
「そうであります。」
「はて? となればぁ、、ドゴン族から小奴を連れだしたのは、、お前か? 」




