フラミンガ紛争 3~祭りの始まり・海の神の到来
ジョラの兵は早朝から赤いブビンガの木を伐り出した。
丸太にした木に座面を掘り出す者もあれば背もたれを取り付ける者あり、器用な者は色を付けライオンの彫り物を。武器庫の中から旗を取り出すと丸太に掲げる者ありと様々であった。
それらを皆で川岸へと運びこんだ。50にも及ぶその丸太は大漁旗を靡かせた祭りのように壮観に配備された。
日が傾き出すと彼らはディオマンシの絢爛豪華な衣装に着替え、身を包んだ。
『あら、惚れ直したわ。あんた素敵よう。』
「へッへ~!」
『お前さん、お強く見えますわよ。』
「エッヘン!」
兵は女房の前で力こぶを見せた。
『あなた、まるで貴族の様ですわ。私の格好がお恥ずかしくなるくらい。』
「お前は顔が貴族だから大丈夫。ハハッ!」
あちこちで、ジョラ特有の褒め殺しが始まった。これは戦闘に行く前の兵に、力を与える言の葉だが、今回は誠事実の褒め言葉であった。
「あとはこの仮面。」
それはカジュで造られた黒い木彫りのおどろおどろしい物だ。目と口の部分だけ三日月型にくり抜かれた楕円。
頭にはトゥーカンの羽。顎にはモロコシの毛が髭の様にぶら下がっている。
『あら、お顔が見えませぬわ。至極残念。』
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『さてと。あとは、ネプチューヌ様のお出ましを待つばかり。』
ファルはそう思いながらも、ニジェに迫る危険が一刻の時も許されないのではないかと思っていた。
夕の太陽が遠く山の頂きに触れた。
ゴゴゴゴゴゴゴ~
木々が震え始めた。大地が揺れ、森に隠れていた鳥たちが一斉に橙の空に舞い上がった。波の音とは思えぬ怒号。空気は波に煽られ突然の風を巻き起こした。
『来た!!来たぞ~!海の神の到来だぁ!!』
泡立った大きなうねりの壁が空までも飲み込む様に迫って来た。
ドルンが叫んだ。
「どでかいムクロジの泡だぁ!!」
『さあ!!行くぞ~!準備はよいかぁ!皆!波に乗れ~!!』
ファルの合図と共に、弓矢を背負った50の兵はブビンガの赤い馬に跨った。
そして背後から迫り来る高波に身をまかせた。
ザザザッザッブ~ン!!
50騎の丸太は波の上を滑りながら這ったかと思うと、今度は勢いそのまま空に舞い上がった。
そして、しばらく空中を浮遊すると再び着水しまた泡の波に乗った。
一度は死や奴隷を覚悟したカザマンスの民。マンディンカの民同様、そのひと時を、その繰り返しを兵は楽しんだ。
『あんた~!かっこいいわよ~!』
『素敵な祭りよ~』
女衆は歓声を上げ、手を振りながら見送った。
ただ、マンサだけは女衆の背中から、ファルの後姿を静かに見送っていた。
『お気をつけあそばせ。』