フラミンガ事件 11~欠けたスコップ
『マタ。お前はアキーという木を知っておるか? 高さ15メートルにも成る木だ。ほれ、ヒヒの尻の様な赤い実のなる奴だ。』
『アキー? あの毒矢に使われる、、赤い実。』
『おう、そうじゃそうじゃ。白人共が奴隷船に乗せて南米のハマイカに持ち込んでいるアキーだ。今はな、そのハマイカでスペイン軍とイギリス軍が戦争をしておる。使っておるのじゃろう。ハハッ!』
『お前!まさか!』
『そう、そのまさかだ。アコカンテラでも良かったんだが、あれは触れただけでも体内に入り即死する猛毒だ。丁度アクラが体調が悪くなったと言ってたから、治療と称してモリンガの中にな。アキーの樹液を、ジワジワと。』
ニジェは黙り込んで強く拳を握りしめた。
『おい、皆んな。深い穴を掘れ! まさか我がフラミンガにこんな奴が現れるとは思ってもみなかった!牢獄なぞ造る必要はないと思っていたが、、、突貫だ。這いあがれぬくらいの穴を掘れ!そこに放り込め!縄は繋いだままでよい!今すぐ掘るんだ!』
『我がフラミンガぁ? 寝言を言っておるんじゃない!くだらんガキめがぁ!どこへでもぶち込めばよい!ハハッ!』
ニジェは村から離れた、密林の奥深くに穴を掘ることに決めた。
なぜなら、このガーラの姿を女子供連中に見せたくはなかったのだ。
きっとこの先のフラミンガの行く末を恐れると思ったからだった。
兵は真夜中の黒い林の中、シダを根こそぎ引き抜くと、そこをブビンガでこしらえたスコップでザクザクと掘りだした。
が、草は毟ったものの、木々の根が地中で絡み合っていて、木のスコップは悉くボロボロと欠けていった。
しかも、フラミンガの居住区域は、全て湿地だ。掘れば掘るほど水が湧いてくる。
「これではただの水溜まりだ。掃き出しても掃き出しても水が出て来るだけだな。」
「どうする?このままでは穴は掘れぬな。」
「ニジェ様も浅はかだな。深い穴などこの地に掘れるわけがない。」
「しかし、木の檻では突貫といえど時間がかかり過ぎる。縄に繋がれているとはいえガーラを放って置くのは危険だ。」
「逃げたら逃げたで仕方ないんじゃないの?」
「ん?なんんだお前、きな臭い事を言うな、、?」
「まっ聞いてみましょう?この塩梅を。ニジェに。」
「なんだお前、今なんて言った!呼び捨てか!?」
「では、マタ様に。」
※ハマイカ(スペイン語)=現南米ジャマイカの事です。
※アコカンテラ=正式名称[アコカンテラ・オブロンギフォリア]




