フラミンガ事件 9~内なる敵
『はい。確かに。この目で。』
『これ、このムクロジは初物らしい。去年も実がなって落ちていたらしいが、誰もムクロジとは気づかなかったらしい。 それでな10日ほど前に、たわわに実っていた実がポトリポトリと落ちた。
麻袋10袋にもなったそうだ。』
『はい? それがどうかなさいましたか?』
『で、雨がしばらく続いたろ? 殻を剥く作業が出来なくてこの間の晴れた日にようやく女衆が茣蓙を広げた。』
『はい?』
『そう、あのナシャが襲われた日だ。夕方まで作業がかかったので、ナシャに水汲みを頼んだらしい。それでだ、もう日が暮れる頃この殻を川に捨てたそうだ。今いるこちら側。流れの早い方。』
『女共も考えましたな。』
『でだ。川といっても葦の原。捨てた殻は人目に触れる事はない。』
『確かに。』
『しかし、唯一、人が目にする事が出来るのは、葦を根こそぎ捥いだこの船着き場を通り過ぎる一瞬だけだ。』
『ん?』
『ガーラよく聞け。ムクロジがここを通過したのは、その日。宵迫る直前の夕刻。わずかな時間。あっという間だ。それを過ぎれば真っ暗闇だ。いくら船着き場でも、もう見えん。』
『は?』
『もう一度言う。よく聞け。お前がこのムクロジを見たというのなら、まさにナシャが襲われたその日。その時。日没目前。お前はここに立って、向こう岸を見ておった事になるが。。。』
『うぐ、、、』
『どうした?ガーラ。いたな。』
『あ、いや、私は、、、た、確かに立ってはおりましたが、、いえ、わ、私は、ナシャが襲われたんで、そのぅ、、カマラとやらを追って、、矢を放ちナシャを助けたのでありますが、、』
『ではなぜそう言わん。助けたのならお手柄じゃないか?なぜ今まで黙っておった?』
『う、、』
『しかもだ。そうであれば、何故矢を放った後にナシャを救わなかった?助けなかったのだ?気になったであろう?』
『、、、』
『お前はカマラが現れる事を予測できたのか? そうとは思えん。それは突然の出来事だ。お前は初めからナシャを襲う為、ここで待っておったのであろう?』
ガーラがグニュと顔を歪めた。
『でだ、ナシャを襲ったのにトドメを刺さなかった理由もわかった。そう、今日皆が休息している間に一人でな、殻を捨てた場所からここまで、葦の切れ目はないかと探しておった時だ。その理由が飛び込んで来た。刺さなかったのではなく刺せなかったのだ。』
『ど、どういうことだ、、』
『ホーい!!出て来~い!』
「おやおや!ガーラ殿!お久しぶりでございます!」
林の奥から出て来たのはハラとドルンであった。
『お、お前はあの時の!!』
「はいはい、ドルンであります!今日お散歩に出掛けましたらニジェも一人でお散歩してましたので、お声を掛けさせて頂きました。お一人でしたのでお声を掛け安く。」
『して、わかったのだ。お前がナシャの死を確認しなかった理由が、、いや、確認出来なかった理由が。、、、逃げたのだ。カマラを射た瞬間にこちらに向かって来る水音。水を蹴り上げて向かって来る足音を聞いたのだ。それがこの二人、ハラとドルンだ。』




