フラミンガ事件 7~ムクロジの殻2
ニジェは女衆が集まっている場所に行くと、まずナシャに声を掛けた。
『ナシャ、傷の方はどうだい? まだ痛む?』
「痛いけど、もう大丈夫。」
『どら、見せてごらん。』
ナシャはニジェに背中を向けた。
『治りが早いな。あっという間だ。』
ーーーーーーー
『あれ?皆んな何をしておる?』
『あ、これですか?これはちょっと前にこの奥の林で拾って来たムクロジの実。今の時期しか採れませんのよ。去年も落ちていたはずなんですが、誰もこれがムクロジとは気づきませんでしたわ。で、たわわに落ちているのでこの間の晴れた日に女衆で採りに行って。麻袋にこんなに。10袋も詰め込んでまいりましたわ。』
ナシャの横に座っていた母親がそう答えた。
「その皮を剥いているんだよ。だからあの日もあたしが水汲みに行かされた!まッいつもだけどさッ。」
ナシャがすかさず笑って答えた。
『剥いてどうするんだい?』
『この皮の中の黒い実。擦ると泡立ってとても綺麗になるのですよ。汚れた髪や体を洗うのに。洗濯物にも。』
「ママに傷のところ洗ってもらった。すごく滲みたけど。」
『ここにおっては、何もすることがないので女衆皆んなで剥いておるのです。この時期にしか採れないので、一年分は蓄えて置かなきゃと思いまして。けど日が暮れたのでそろそろ片付けねばね。』
『やってみていい?』
ニジェがその黒い実を手の平で擦るとブクブクと泡立った。
ゴシゴシと顔を擦ると顔中泡だらけになった。
ザバと水で洗い流した。
『あ~!さっぱり!キュッキュッだ!』
『ねッ』
『ふ~!気持ちいい!』
『で、片付けた後、この殻はどうしてる?何かに使える?』
『こんな物、何にも使えませんわよ。捨ててます。』
『どこに?今日も捨てた?』
『あら、ニジェ様。お咎めに?』
『ん?』
『そこの川に、、汚れちゃいますわね。申し訳ございません。』
『いや、自然に還るだろ?』
『ですけど私達も考えまして、、、そこに捨てましても、、』
ナシャの母親は川の方を指差して話を続けた。
『浅くて途中で先の河原に溜まってゴミとなってしまいますので、川の真ん中まで行って流れが速い高い葦の向こう側にこっそり捨てました。』
『まだ沢山あるの?』
『ここのところ、雨が続いておりましたので作業が出来なくて、今日とこの間の晴れた日だけですわ。ですから、まだタワワに袋に。』
『明日もやる?』
『雨さえ降らなければ。女衆にとっては大事な天の授かり物ですから。沢山作っておかなければなりませんのよ。』
『殻は?』
『もう暗いから明日にしますわ。』
『捨てるのは、向こう岸なら構わないよ。』
ニジェは女衆の片付けの手伝いをしながら男衆の帰りを待った。




