フラミンガ事件 6~ムクロジの殻1
『どうされました?ファル様。』
『なんだか寝付けなくて。』
『あら?なにかお飲みになりますか?』
『ハラとドルンは大丈夫だろうか?』
『大丈夫ですよ。ハラはお強い。ドルンは賢い。』
『まあな。』
『雪洞の火を消しますよ。』
『ああ、そうしてくれ。マンサ。』
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フラミンガの二日間に渡る犯人捜しは一向に進展しなかった。
『駄目ですな。わかりませんな。』
ガーラは首を捻った。
『この鬱蒼とした葦や林の中に逃げ込まれたらもうお手上げだ。』
『既にこの辺りにはいないでありましょうな。』
『手がかりすら掴めない。』
ニジェはガーラと5人の兵を連れて、ナシャの襲われた場所に来ていた。
『他をあたっている男衆も何も言っては来ない、、』
7人は皆、茫然と船着き場の流れる水面を見つめていた。
『また、太陽が沈むな。』
『ニジェ様。そろそろ戻りますか?』
『ん?なんだ?あれ?』
薄暗くなった黒い水面に葦の間からウゴウゴ、プカプカ、スイスイと泡を立てながら現れた。
それはわずかに残った夕日のオレンジに照らされ雪洞のように、二ジェ達の前を上流から下流へと流れて行った。
『あの女ども、この間もこのゴミを流しておったわい!全く!』
『ん?ゴミ? ガーラなんだいこれは?』
『なんて言いましたっけねぇ、、あっそうそうムクロジ。ムクロジであります。何やら実を擦ると泡がブクブクと立って、身体が洗えるそうであります。フランスが使っていた石鹸みたいなもんでしょう。』
『ほーう。』
『これはその殻であります。』
『頬月のようだ。』
ニジェ達は腰を下ろし、灯篭さながらのムクロジを眺めた。
しかし、早い流れに身を任せていたムクロジはアッという間に、また葦の闇へと消えて行った。
ニジェはスクと立ち上がると、
『ガーラ、それから皆。暗くなってしまうがもう少し何か手がかりを捜して来てくれ。俺は女衆の様子を見に戻る。』
と言って葦の間をジャブジャブと河原の岸へと抜けて行った。