フラミンガ事件 5~ドルンの石・ナシャを抱えて逃げたカマラ〔挿絵有〕
童晶・画
「まずい!襲われる!」
ドルンは人の気配をカマラに察知させようと、足元に転がっていた石をその女の子の頭上の土籠目掛けて投げつけた。
シュ~!
パリンッ!バラバラバラ~!
石は、ものの見事に土籠を砕き割った。
『えっ!なんで!?』
カマラは割れた土籠に怯むどころか、女の子を脇に抱きかかえると川の中へズブズブと走り去っていった。
そして、船着き場へと続く葦の切れた間を向こう岸へとすり抜けて行った。
「どうする?!ハラ!」
『どうするも何も、ここで追ったら俺たちもカマラの一味とみなされ、奴と一緒に殺されるぞ。ニジェは敵かもしれないんだ。』
ハラにはあの沼で矢を向けてきたフラミンガ達の姿が、深く目に媚びりついていた。
「けど、あの子カマラに殺されちゃうかもよ!どうするハラ?」
『ん~、どうしよう、、殺されたんでは、、追ってみる、、みるか?』
「うん!じゃ、急ごう!」
二人はカマラを見失わないうちにとジャブジャブと水音をさせながら、川に入っていった。
川の真ん中まで行くと、葦の切れ目から向こう岸をグルリと見渡した。
ドルンが言う通りの流れの早い船着き場溜まり以外は、葦が密集しカマラを見つけ出す事はできなかった。
『この奥に行かれたんではわからんな。考えていた分、一歩遅かったか、、』
空はほんの少しの橙を残し濃紺色に変わっていった。
「もう太陽が沈んじゃう。これじゃ、もうわからないよ。」
『ここにいては、まずいな、、戻ろう。しばらく、どこかに篭ろう。』
「心配だね。あの子。」
『ああ。』
ハラとドルンは河原の奥の生い茂った暗闇の林に分け入ると、人目につかないであろう場所にしゃがみ込んだ。
ギャアギャア~!
ガおガおガお~
「なんか怖いね。獣の声が凄いね。」
ハラは座ったままドルンの肩を抱き、引き寄せてポンポンと叩いた。
その肩には、まだ頭上の木々に残っていた数日前の雨粒が滴り落ちていた。
『見事な投石だったな。そうそう当たらんぞ。お見事。お見事。』
ドルンは少しニコとした。
『そういえば、船はどこに?なかったな。』
「あれは下りにしか使えない。この流れの急な川じゃ上る事は出来ないから、前のジョラの村にでも置いてきたんじゃないかな?だからもうあそこはただの葦の生えてない場所ってだけだね。」
それからしばらくした闇の時。
辺りに大きな蛍火があちらこちらから湧き出した。
『ナシャ~!ナシャはどこにいるぅ~!ナシャ~!』
『いたら返事をしておくれ~!』
それはフランス軍レノーから頂いた、鯨油で灯したランプの明かりであった。
ドルンが立ち上がった。
「やっぱり、なにかあったみたいだ。きっとあの子を捜してるんだよ。」
『ナシャっていうのか、、』
「出て行って言うかい?今見たこと。奴らに。」
『いや、ここは静観しよう。奴らで見つけ出すかもしれないし。』
「、、、」
『待とう。』
この暗黒の闇の中から、他部族の知らぬ男がヌッと現れる恐怖はハラがよく知っていた。
『今は俺たちが驚かせてはならん。静かに見守ろう。』
ドルンはまたスッと腰を屈めた。




