フラミンガ事件 4~葦の川・ハラとドルン
ハラとドルンはジョラの村を出発して二日後。陽が傾きかけた頃に沼に辿り着いた。
『カマラの遺体はないな。』
「もうニジェ達が処分してしまったか、、」
『で、ドルン。奴らの住処は?』
「は?知るわけないじゃん!」
『え?』
「そのまま船に乗ったんだぜ。」
『俺はお前がてっきり知っておるんだとばかり。』
「知らないよ!、、けどあそこで船を造っていたんだから、船着き場までいけば何かわかるかも知れない。」
『わかった。行ってみよう。』
ドルンはあの豪雨だった暗闇の記憶を辿りながら沼地を抜けた。
『ここ?葦だらけの川じゃないか。』
「たぶん」
『この河原に船があったってこと?』
「いや、違う。この川は真ん中だけ飛びぬけて葦が高いだろ。」
『ほんに。』
「あれが一つの川を二つに二分した様に生えてる。それが下っても下っても続いてた。上流もずっとそうだって。上から見たらきっと二つの川に見えるってさ。ニジェが言ってた。船の中で。」
『なんで真ん中だけ?』
「たぶんだけど、こちら側は石の河原の浅瀬だろ?ごつごつ。で向こう岸は少し深くて水辺から川に覆い被さる様にいきなり木が茂ってる。両岸は入り組んでて障害物が多いだろ? 川の真ん中だけは緩やかだから、成長しやすい、、って。それもニジェが言ってた。』
『なるほど。で、船着き場はどこに?』
「ここだと分かったのは、ほら、あそこ。真ん中。ずっと切れ目なく葦が生えてるのに、あそこだけスパと中抜けして人二人分くらいの幅で抜けて向こう岸が見える。そこを抜けると船着き場。」
『え?なぜわざわざ深い向こう岸に?』
「河原に置いてあったんじゃ、いざという時波打ち際から押し出さなければならないだろ。時間もかかる。端から浮かべて置けばすぐに乗って逃げられるし、いざという時出動する事もできる。それに向こう側の方が流れが速いって。ってニジェが言ってた。」
『頭いいな。マンディンカは。』
「けど、猿の額くらいの船着き場だよ。そこだけ根元から葦を引っこ抜いて池みたいになってた。子供が作ったような港?入り江かな? 三艘の船がくっついて並んでた。その被さった木に縛り付けてあってさ。それで、、」
『あっ!ドルン。ちょっと待って。静かに。誰か来る!』
それは橙色の空に金色の星がうっすらと瞬き始めていた夕刻の時であった。
一人の少女がその橙の色を背に、まるで影絵の人形芝居のように頭の土籠をゆらゆらとさせながら川の畔に向かって歩いてきた。
「ハラ、あの子に聞こうか?ニジェの村を。」
『いや、今行ったら、びっくりして逃げ出してしまうぞ。』
しかしその美しい影絵はすぐさま遮断された。
ハラとドルンが身を伏せた前をザザと横切ったのは、カマラの大きな影であった。




