フラミンガ事件 3~二日前のジョラの村
雨季の時期であったカザマンズ地方は、毎日のように雨が降り続いていたが、今日に限っては麗らかだった。
宮殿の庭で畑を耕す二人には、木々に照り返った山吹色の陽射しが燦燦と降り注いでいた。
『あら! ハラとドルンだよ。』
『丁度良いところに来た。手伝わせるか?』
ファルとマンサは滴る汗をそのままに笑った。
「ファル様、何をやっておるんです?」
『見ればわかるだろ? 土いじり。畑を作る。』
「ファル様は既に王の御身分。こんなことは民の私たちがやりますから。」
『好きなんだよ。オレもマンサも。でな、ここの宮殿の裏にディオマンシ達が引いた水路があるだろ? あれをもう少しこちら側に引き込んでだな、、』
「あっ、ファル様。その話はまた次回にして頂いて、、、ちょっとお話が、、」
『なんだ?あらたまって。部屋に入るか?』
「その方がよろしいかと。」
ファルは額の汗を拭って、ハラとドルンを宮殿に招き入れた。
『まッ、座れ。どうしたというのだ?』
「昨夜、こ奴が、、ドルンが物騒な事を言い出しまして。」
『何をだ?』
普段は物静かなドルンは、この時も下を向いていた。
「あの沼のことであります。私達がカマラを陥いれて、ニジェ達に矢を向けられ逃げた時、小奴だけ沼に戻ったでありましょう?」
『ああ、お腹が痛くなって、戻って来なかったな。ハハッ』
「ここからは、お前が話せ。ドルン。」
ドルンは顔を上げた。
「沼に戻った時も、まだ大雨でございました。わたしがニジェを大声で呼びましたところ、足元にはカマラが横たわっておりました。」
『まだ時間も経っておらんかったし、当然だろうな。』
「しかし、そのカマラが少し首を上げたのです。わたしの声に驚いたのか、、カッと目を見開きこちらを睨んだのです。」
『何ぃ!確かか?』
「強い雨とわたしの恐怖心が見させたのかもしれませんが。確かにこの目で。」
『カマラは生きておったという事か?! なぜもっと、早く言わなかった!』
「言えるもんですか! あの後、ひたすら逃げて今度はフランス軍を退却させる為の作戦に入った!カマラどころではなかったではないですか!それに目を開けたのはあの一瞬だけで、、、その後は息絶えたかもしれないし!」
ドルンが珍しく声を荒げた。
『、、確かにな、、悪かったよ。ドルン。』
「ファル様。小奴に謝ることなんかないですよ。」
ハラの兄貴はそう言った。
『しかし、もしカマラがまだ生きていたとしたら、ニジェ達が危ないな。』
「確かに危険です。」
『お前らで様子を見に行ってもらえぬか? ニジェ達に早く伝えた方が良い。例えもし間違いだったとしても、それはそれで良かったで済む。行ったついでに「小さい国同士、友好を結ぼう」とオレが言っていたとニジェに伝えて戻って来れば良い。』
『ほら、これ。食べながらお行き。』
マンサがハラとドルンにベリーをわんさと手渡した。
弓矢を担いだ二人は、すぐにカザマンス川伝いを東へ向け遡った。
これが、ナシャが襲われた二日前、ジョラに久しぶりに陽射しが降った日の事であった。




