フラミンガ事件~1
ナシャの捜索は翌朝までも続いてた。
ナシャが消えた川は葦の群生地であり、流れが早い向こう岸でさえ山のように葦が伸びていた。
その向こう岸から、声がした。
『見つけたぞ~! ナシャだ! ナシャがいたぞ~!』
『おっ!いたか!』
ニジェとガーラは膝まで水に浸かりながら、ジャブジャブと向こう岸に渡った。
『どこにいたぁ!?』
それは、誰もが驚く光景であった。
そこに至る間の葦は根元から折られ、倒れたその背中は突き刺さった矢の柄どころか、背丈の高い葦にまで跳ね返るほどの赤い血で染まっていた。
その背中はナシャの背中ではなかった。
カマラの背であった。
カマラは二人に向けられた矢を庇うようにナシャに覆いかぶさって葦の間に倒れていた。
カマラの背中を射抜いた矢は、ナシャの背中を浅く突いて止まっていた。
カマラに抱かれるように倒れていたナシャの顔は、半分水に浸かりながらカマラの口元から流れ出た血で真っ赤に染まっていた。
(なぜ、カマラがここに?)
ニジェはカマラの背中に突き刺さった矢をブスと引き抜くと、うつ伏せになっていたその身体を仰向けにして、横にゴロと転がした。カマラの開いていた眼から見える黒目は微動だにしなかった。
息は絶えていた。
『大丈夫かナシャ!』
ガーラはカマラの下敷きになっていたナシャを両手で揺すった。
すると、ナシャは自分で身体を仰向けに起こし、ワあ!と泣き出した。
『お、生きておる!!』
『良かった!良かった!生きておる!』
ニジェは携帯しているモリンガの種を口に含むと、ガリガリとかみ砕いた。
そして仰向けになったナシャを横にすると、口の中のものをぺッ!と背中の傷口に吐き出し、摩りながら塗り込んだ。
『痛いよ!いっ~たあい!』
『大丈夫。こうすれば、すぐに治る。』
ガーラは足元の水を掬って、ナシャの顔についた血を洗い流した。
ナシャは一命を取り留めたどころか、軽い傷で済んでいた。
『カマラは生きておったということか、、』
『確かにあの日、ジョラがカマラを射抜いたと同時にわしらは奴らに矢を向けた。雨が強く降り少し木々の間で宿っておるうちに、ドルンとかいう小僧が来た。そしてそのまま船に乗り、川を下った。カマラが確実に亡くなったなぞ、誰も見てはおらん。フランス軍を火炙りにして戻って来た時も沼は素通りして来た、、』
『致命ではなかったということか、、、』
『そのようでありますね。』
『では、いったい誰が何の目的で矢を放ったというのか、、ここには俺たち以外誰もおらんはずだが。』
ニジェはフラミンガの民を集め一人一人に問い正した。
しかし、そのような心当たりのある者は誰一人としていなかった。