[カザマンス・SECOND] 【第一幕】フラミンガ事件〜序章
『ナシャがいない?』
『はい。夕に、この裏手の川に水を汲みに行った切り、夜になっても戻らないと。』
『ナシャはいくつだ?』
『10であります。』
『獣かなにかに襲われていては大変だ。すぐに皆に報せ! 皆で捜すぞ!』
もう、とうに日は暮れていた。
あのモリンガの泉の更に奥深くに居を構えていたフラミンガの男達は、寸先も見えない密林の漆黒に散らばった。
『これではわからんな、、』
『ニジェ様、お足元にはくれぐれもお気をつけて。』
『ここには、私たちしか住んでおりません。さすれば、獣の仕業かと。』
『道に迷ったか?』
『いえ、ナシャは毎日涼しくなった夕に、そこに水を汲みに行っていたらしいので、その様な事はないかと。』
ナシャは10になったばかりの少女であったが、毎夕、母親に頼まれ、頭に土籠を乗せて夕飯の支度用にと川の水を汲みに来ていたのである。
『この河原か、、土籠はあったのか?』
『河原の石に、、、砕けて粉々に割れておりました。その水辺の辺りです。』
『何かに驚いたのか? 道に迷っているなら籠は持っているはず。』
『確かに。』
『近くで獣の声はせぬか?』
ニジェとガーラは耳を立てた。
『川の流れる音しか、、』
『しかし、10才の足では遠くには行ってはおらんはず。必ずこの近くにいるはず。皆に見つけ出すまで捜すよう伝えてくれ。』
『かしこまりました。』
寝転がれば大人でさえすっぽりと埋めてしまう膝丈の濡れたシダは、暗闇と共に行く手を阻んだ。
掻き分けても掻き分けても覆いかぶさるそれを、フラミンガの男達は自分たちも迷わぬよう強く踏みしめ、帰り道を作りながら進んだ。
『ナシャ~!ナシャ~!! ナシャはどこにいるぅ! いたら返事してくれ~!』
皆、大声で叫びナシャを呼び続けた。
それは木々に木霊し、密林のスピーカーと化した。
『いない。どこにも。』
『こちらの呼ぶ声にも反応はない。』
『どこに、、』