火蓋の上下 44~フラミンガの炎
集会所はドスという音を立て粉塵の如く陥落した。
しかし、その炎は夕からの強い北風に乗り、南へ南へとその勢いを増していった。
『さっきは、ニジェが上げた花火であろうと言ってしまったが、この火の手はどちらが上げたものか、、』
ハラがファルにポツリと言った。
『オレ達は、フランスの後をついて来た。奴らはたった今この村に降り立ったばかりだ。』
『確かに。』
『仕掛けることなど出来ないであろ?』
『では、この爆発は?』
『オレにもわからん。』
『おい、ディオのおっさん!お前は何か知ってるか? 何か見たか?』
ハラがディオマンシに聞いた。
『お、お、おっさん、、。』
『そうだよ。おっさん。答えろよ。』
『、、わしらの前には沢山のフランス兵がいての、皆集会所に入っていきおった。食糧にありつけるとかで。』
『で?』
『入っていきなりじゃった。ボーン!と。』
『他には?』
『飛び出て来た。若い男が。』
『若い男?』
『わしらと同じ肌の色。』
『フランスではないな、、、』
『わしのこのロープを持っていたワリとかいう男に話掛け、どこへやら一緒に逃げて行きおった。』
ファルは山裾から村を眺めた。
『ドルンが言ってた通り、ここに船で下りニジェ達が仕掛けたんだ、、』
『しかし、この火薬のような武器は?』
『それはオレにもわからん。』
燃え広がってゆく炎が、南側のブビンガの森林を徐々に飲み込んでいった。
赤い朱色のブビンガの木は、その炎を更に赤く燃え上がらせた。
そして乾燥地帯に吹き荒れた強い北風が、この地特有の真っ白な砂埃を巻き込み、炎と共に抱き合った。
うねった炎はやがてその色をピンクに染め上げ、舞い踊るように天高く昇っていった。
『見てみろ、ハラ。あの火を。』
『おーぅ!』
『奴らは本当にフラミンガになってしまったようだな。』
『まるで巨大なフラミンガが飛び立っていくようだ。』
『ニジェは神の民になったということか、、』
『ムル爺が居れば、きっと同じことを申していたでありましょう。』
『こんな大爆発でフランスをやっつけるのは、神の手にしか出来んしな。』
『まさしくであります。』
ファルとハラはしばらく、その炎を眺めた。
『オレ達がフランスとディオマンシをここに追いやり、ニジェが下から火を炙った。』
『まるで、火蓋の上下のようでありますな。』
ハラがファルに微笑んで言った。
今度はファルが
『まさしく。』
と答えた。




