火蓋の上下 43~レノーの十字架
一頻り続いた爆発は治まったが、集会所の周りにバラ撒いた鯨油にも火がついた。
それは瞬く間に裏手にあった林にまで燃え広がり、青い魚の群れは、鯨油と化した鯨に飲み込まれていった。
しかし、これほどの大爆発でも逃げて生き延びる奴はいる。
集会所の外で、レンズ豆を待っていた一番後ろにいた若い二人の兵だ。
背中に火傷を負ったものの近くの林に逃げ込んだ。
爆風で、すでにベレー帽は吹き飛ばされ、顔はカザマンスの部族の褐色と見間違う程を見せていた。
『終わったな。』
『ああ。』
『あれは、カザマンスの武器か?』
『、、、、いや、マンディンカではあんな攻撃をされたことはない。皆、弓矢か槍だった。』
『ジョラか?』
『ジョラは疫病に壊滅状態だった。こんな余力は残しておらんだろ。』
『では俺たちの武器?』
『補給兵が来なかったのも、奴らに武器を奪われたんではないかと。これだけの騒ぎで我が軍の補給部隊が一人も駆けつけぬところをみると。』
『俺たちはあんな武器を使っていたのか、、これほど酷いとは、、』
『殺られた方にしかわからんのだ。俺たちはただ、手榴弾をなげ、引鉄を弾いていただけだからな。』
『西はどっちだ?』
『煙に覆われて月も見えん。ましてやこのジャングルの中、、』
二人のフランス兵の前に林が切れた。
『あれ?ここは!』
『最初に降り立った時の、腐った家畜小屋だ。』
『元、霊媒師の家とか言っておったが。』
『では、この先を山に向かえば。』
『戻れる!』
二人はヨタヨタと、その家の前を通過した。
『おい、なんだこれは?』
『ふん?』
『十字架の墓、、か?』
『なぜ、ここに?』
二人はその墓の前まで歩を進めた。
『我が軍のベレー帽が被せてある。』
『月が隠れていてよくわからんが、文字も彫ってある。』
一人がその文字を人差し指でなぞった。
『ℝ.e.y.n.a.u.d、、、うっ!! レノー!! レノー殿!』
『嘘であろう!ちょっとどけ!』
もう一人の兵も同じ様になぞった。
ℝeynaud
『レノー殿は亡くなったという事か!』
『誰がここに? この村に十字を立てるとは! こんな事をしたら、立てた奴はあいつらに殺されている!』
『どこかに、逃げ込んだ補給兵がいるのか?』
『いや、ここで穴を掘り、木を調達してる時間などあったと思うか? それに我が軍であったら、このベレー帽は証として必ず持ち帰っているはず。』
『では、これは?』
『きっとジョラか、マンディンカが立てた物だ。さすれば、、、あの武器はレノー殿が与えた物。何か事の運びで殺ってしまったか、、それでなければ、奴らがこの墓を築く意味がない。』
『レノー殿はそういうお人でしたからな、、、』
『では、誰がこの文字を?』
『、、、アゾ。アゾがいるじゃないか。』
二人は墓の前で、深々お辞儀をし、そして膝を突き泣き崩れた。




