咆吼
姿形は色々だが、赤もしくは赤黒い身体をした魔物が現れることが多い。やはり棲む場所に適応するためだろうか。
ラディ達は主に土の魔法で対処していた。たまに軽そうな魔物が現れたら、風で巻き上げて地面に叩き付ける、ということもして。
リジオルはその爪や牙で切り裂いたり噛みついたりすることで、行く手をふさぐ魔物達を排除していった。
「ねぇ、ジェイ。あたし達、普通にこうして歩いてるけど、いきなり山全体から火が出るなんてないわよね?」
「ないと思うけど」
「うわ……ジェイ、その答えは怖すぎるぞ」
ふとレリーナが口にした疑問に対するジェイの答えに、見習い魔法使い達は青ざめる。
「この山、いつもこんな感じだからな。火が出るってのは、要するに噴火しないかってことだろ? 今までそういう話は聞いたことがないからな」
「噴火じゃなくても、こう……間欠泉みたいな感じで火が出るとか」
「あー、そういうのはあるかもな」
ものすごく危険なことなのだが、ジェイの口調は軽い。出るのが温泉レベルならありがたいが、残念ながら吹き出るのは炎だ。
「だから、歩く時はちゃんと土の部分、黒い所を歩けよ。そこから火が出るなら地面を割るってことだから、それなりにエネルギーが必要になる。そうなれば、事前にわかるから逃げろって言えるしな」
「言われてそう簡単に逃げられるのかしら」
レリーナが苦笑する。
「心配するな。ジェイはどうか知らないが、俺様なら火の流れを感じ取れる。その場にいればマズいとわかれば、お前達を乗せてさっさと逃げてやる」
「お、やっぱり力のある奴は頼もしいなー。今のオレには火の流れまでは感じられないし、わかる奴がそばにいるっていいな」
「本当にわからないのか? 大竜なのに」
リジオルが疑わしげな目をジェイに向ける。
「ああ。今のオレはラディとそう変わらない魔法レベルなんだ」
「だが、ジェイの内には強い魔力を感じるぞ」
「え、そうなのか? 本当はできることも、今は出し惜しみしてるとか?」
「ラディ、出し惜しみって何だよぉ」
ジェイが軽く拗ねるような表情になる。人間の姿なら、きっと頬をふくらませていると思える顔だ。
「そりゃ、確かに魔力はあるさ。こんな姿でも、大竜だからな。でも、試練の間は抑えられてる。んー、これってどうも表現が微妙だな。使えないようにされてるんだ。魔力の入った箱を持ってるけど、鍵をかけられてるから何もできないって感じかな」
そう言われると、想像しやすくなった。いくら箱に鍵がかけられて取り出せない状態であっても、その中に入っている魔力を感じ取って魔獣達はジェイに一目置くのだ。何かのきっかけ一つで、その鍵が壊れることを彼らは知っているから。
「それじゃ、あたし達が本当に危険な状態になったら、その鍵を壊して中の魔力を取り出すってイメージなのかしら」
以前、ラディが毒で死にかけたことがある。ジェイが力を送り込んで回復させたが、あの時も鍵を壊してくれた、ということだろうか。しかし、その後のジェイは特にこれといって大きな魔法を使っていない。壊れた鍵はすぐに直ってしまうのか、ジェイ自身が鍵をかけるのか、どちらなのだろう。
「そうだな。あんまり無理に鍵を壊したくないし、頼むから危険な状態にならないでくれよ」
「俺達だって、そんな状態にはなりたくないよ」
しかし、いつ火が噴き出すかわからないこんな山にいたら、最悪の状況に遭遇することもありえそうで怖い。
「新手が来たぞ」
「え……どこだ?」
リジオルの言葉に緊張が走る。だが、進行方向を見ても、振り返っても魔物の姿はない。
「地上じゃない。ラディ、上だ」
リジオルに言われて見上げれば、小さな赤い火の玉がこちらに向かって来ている。今まで地上にいる魔物ばかりを相手にしていたので、頭上は言われるまで完全に無警戒だった。
「火コウモリのようだ。面倒な……数で来たか」
ラディやレリーナには小さな火の玉にしか見えなかったが、どうやらその火の玉の中で赤いコウモリが羽ばたいているらしい。それが三十は下らないだろうという数でこちらへ向かっているのだ。
「ああいうタイプなら、風に巻き込んで地面にたたき落とす方法でもいけるだろ?」
「風魔法に相当の自信があるならな。奴らはあの火の玉に守られている。お前達が結界を張っているのと似たようなものだ。落としたとしても、落ち方によっては火に守られて本体はほとんど無傷ということもあるぞ」
「そんな強そうに見えないのに……あたし達の出す風じゃ無理ってこと?」
「効果はゼロではないだろうが、あまりいい結果は望めそうにないな」
二人の力量を見透かしているリジオルは、いい返事をしてくれない。
「防御力の高い魔物ってことか。水を使えれば、あの火を消して中のコウモリを引っ張り出すこともできるのに」
水を使えば効果は高い。だが、これまでラディ達に気付かなかった魔物にまで存在を知られてしまう。そして、そのまま素通りさせてはくれないだろう。また進むのが厄介になる。
「さーて、どうしよっか。放っておいても、見逃してくれそうにないしなぁ。オレがやっても効果は低いだろうし」
こちらが逃げてシイアの山から出ない限り、ずっとつきまとってくるだろう。さらには数が増えてゆくことも。
「ここへ来るまでに、火を常に出す奴は弱いという話をしていただろう」
「え? あ、自分が弱いから火の鎧をつけて、みたいな話だったよな。……あいつらもそうだってことなのか?」
リジオルの唐突な話にラディは少し戸惑う。あのコウモリ本体は弱いとしても、その鎧を何とかしなければこちらに勝機はない。話の流れでは、ラディやレリーナに火の鎧を消すことはできないようだし、そうなると火に守られたコウモリに手が出せない。
「ああ。魔物そのものは大したレベルじゃない。この環境に助けられて、身に着けた鎧が少しばかり強固になっているというだけだ」
「だからって、水場におびき寄せるってこともできないでしょ」
「まぁな」
残念ながら、この山に水場というものは存在しない。移動する時に遠くの方で見た滝は、水ではなく火が落ちていた。
「リジオルー、何かやるつもりだろ。もったいぶるなって」
ジェイに言われ、リジオルはふっと不敵な笑みを浮かべる。
「火の強さの違いというものを、見せてやる。あの程度の火、うちのチビどもにも出せるからな。火が消し飛んだら、中のコウモリは切るなり落とすなり好きにしろ。半分は奴らごと消し飛ぶかも知れんがな」
言いながら、リジオルが飛んで来るコウモリ達の方へすっと進む。
「ああいう奴が使う火って、迫力あるぞ。よく見とけ」
ジェイに言われるまでもなく、二人はリジオルがどうやってコウモリ達の火を消すつもりなのかに注目していた。
すっと息を吸ったリジオルが一声吠える。ラディ達は後ろに立っていたが、それでも大音響に思わず耳をふさいだ。空気がびりびりと震えるのがはっきりわかる。振動が下腹に響いた。さすがと言おうか、ジェイは何事もなかったかのような顔だ。
吠えた後、リジオルの身体から火が吹き上がった。火柱かと思ったが、違う。火は渦を巻き、上へ向かうにつれて広がっていた。漏斗のような形をした、竜巻の炎バージョンだ。
結界は張っていても、その熱で顔が熱い。たき火にものすごく近付いたとしても、こんなに熱くないだろうと思える程だ。
飛んでいた魔物達は、炎の竜巻を見て回れ右をしようとする。普段なら感じることのない気配に、うまくいけばエサにありつけると思った。ところが、突然現れた火の勢いが自分達にとって危険なものだと悟り、逃げようとしているのだ。
しかし、それより早くリジオルの炎が追いついた。魔物達の悲鳴のような声が聞こえ、半分近くが火の渦に巻き込まれて消える。一瞬で炭になり、ちりぢりになって吹き飛ばされてしまったのだ。
かろうじて直撃は逃れたものの、自分を覆っていた火を消し飛ばされたコウモリは、新たに火の鎧を出す余裕もない。必死になってとにかくこの場から逃げようとする。
「残りの片付けはまかせた。さっさと始末しないと、仲間を引き連れて戻って来るかも知れんぞ」
「あ、ああ……」
あまりの勢いに呆然としていたラディは、リジオルの声で我に返る。
ぱたぱたとよろめくように飛ぶ火の色をしたコウモリに、ラディは風の刃を叩き付けた。残っていたのはわずかな数だったので、全滅までにそう時間はかからない。それに火で守られていない魔物はかなり弱く、思った以上にあっさりだった。
「あれが……火の魔獣の力なのか。すっげぇ」
簡単に魔物を全滅させたこともすごいが、さっきの火の強さ、力の大きさに呆然となってしまった。魔獣というのは何て強大な力を持っているのだろう。教えられ、読んだり聞いたりしてそのことは知っていたはずなのに、こうして目の前で見ると圧倒される。
「リジオル、すごいわ……。あんなに強い火の魔法を見たの、初めて」
「まだ半分の力にも満たないがな」
「あれで半分以下っ? あの力の倍以上って……どんな力なんだよ」
あれ以上と言われても、想像力が追い付かない。魔獣はこんなにも強い力を持つのだ。もちろん、力をどれだけ持っているかは個体によって違うだろうが、生半可な力では人間などとても対抗できない。
それなのに、ラディはこんなにも強い魔獣を呼び出したのだ。何だかとても不思議な気がする。
「な? 迫力あったろ」
ジェイの言葉に、ラディは頷くしかできなかった。
「最初に吠えた時もすごかったわ。リジオルってこうして話をしている時はとても優しい声なのに、まるで別の魔獣みたい。でも、すっごく格好よかったわ」
「……人間という奴は変わっているな」
レリーナの言葉に、リジオルは苦笑を浮かべる。あまりにもまっすぐにほめられ、少し照れているのかも知れない。
「え? そうかしら。どうして? 変わってるって、どこが?」
「ああいう力を見せつければ、ジェイはともかく、普通なら恐れるものだぞ」
大竜はカロックで一番強大な力を持つ種族。だから、リジオルがどれだけ強い力を誇示したとしても、特に驚くことはない。
しかし、別の種族であれば、力の差が大きければ大きい程、恐怖の念を抱くだろう。少なくとも、強い警戒心を抱く。これが同族であればライバル心を燃やす、さらに異性であればその力強さで恋に発展するといったところか。
なのに、目の前にいる「人間」はどの反応も示さない。純粋に感心している。驚いてはいても、恐怖心は感じられなかった。
正直なところ、リジオルは自分が吠えれば二人を怖がらせてしまうかも知れない、と思っていたのだ。恐怖心のあまり、もう十分だから、と契約解除になるのでは。二歩も三歩も後ずさり、怖くて乗れない、なんて言われるのではないかと思っていた。
もちろん、リジオルは二人に恐怖心を植え付けてやろうと思ってやったのではない。この方が手っ取り早く魔物を排除できるからやっただけだ。
半分以下の力と言ったが、本当はせいぜい二割程度。たぶん、ジェイならわかっているだろうが、本当のことを言ってはさらに二人を萎縮させかねないと思ったのだ。いつも真実ばかりを告げる必要はない。
しかし、リジオルの予想は大きく外れた。ラディはひたすら感心し、レリーナははしゃぎ出しそうな様子だ。怖がるどころか、むしろ喜んでいる。リジオルが思わず「変わっている」と言ってしまうのも当然だった。
「恐れる? 何を? だって、味方じゃない。味方がすごい力を使ったら、すごいって思うのは普通でしょ」
レリーナは不思議そうに言う。そう思えるのは普通……なのだろうか。彼女の言葉に、リジオルは頷けない。何が「普通」かわからなくなってきた。
「そうだよな。ターゲットが俺達になったらそれは怖いけど、今はそうじゃないんだし。火の魔獣はこういう力を持っていて、こうやって使うんだってわかって勉強になるし……って、俺達、何か失礼なこと言ってたりする?」
ラディはリジオルの複雑そうな表情に気付いた。こちらとしては正直な気持ちを伝えただけなのだが、少しは恐れ敬え、みたいなことをリジオルが思っていたらラディ達の言葉に気分を害しているかも知れない。
「人間は、特に協力者に選ばれるような奴はこんなもんなんだよ。試練が終わってオレの姿を見ても、この二人ならすごーいって言ってくれると思うぜ」
「……だろうな。今、容易に想像できた」
くっと吹き出しながら、リジオルはジェイの言葉に頷いた。
「え、何だよ、それ」
「ジェイ、試練が終わったらそんなに大きく姿が変わるの?」
「へへ、内緒」
「楽しみにしているんだな」
リジオルも思わせぶりな言い方をする。カロックにいて大竜の存在を知っているなら、その姿も知っているのだろう。
ラディはレリーナと顔を見合わせ、二人して苦笑を浮かべるのだった。
☆☆☆
「何なの、あれ?」
ジェイがかけらの気配を感じ取り、そちらへ向かっていたラディ達はあちこちに赤い石が転がっている場所に来た。
大きさは人間の頭よりやや大きいくらいだろうか。少し楕円で、熱した鉄のように赤い。それがいくつもある。溶岩が固まったものだろうかと思ったが、それにしてはどれもきれいな形だ。溶岩が流れて固まったものなら、もっとふぞろいのはず。しかし、ほとんど大きさも変わらないし、ここは火の山であっても火山ではないからそういうものではないだろう。他に溶岩が流れた形跡も見られない。
「マズいな。ジェイ、さっさと通り過ぎろ」
「その方がよさそうだな。行くぞ」
ジェイが進むスピードを上げた。ラディとレリーナも慌ててその後を追う。だが、赤い楕円の石が転がるエリアはなかなか終わらない。
「ジェイ、この赤い石は何なんだ? マズいって何がだよ」
「あれはサラマンダーの卵だ」
石だと思っていた赤い石は卵。要するに、ここは魔物の産卵場という訳だ。
「サラマンダーって……つまりは火トカゲだよな? それって、この山へ来てから最初に現れた奴じゃないのか?」
内心、お約束のように出て来た、なんてことをラディは思っていた。
「ああ。ただし、ここの奴は他の場所に比べてでっかいんだ。普通は今のオレよりちょっと大きいくらい。ラディが言う、最初に出て来た奴らみたいなサイズ。だけど、こいつらは孵化したてでも、それより大きいんだよな」
レリーナは何も言わないが、顔には「えー、やだなぁ」とはっきり書いてある。
「マズいってことは、親が戻って来るからか」
「いや、親は産んだらそれっきり。放っておくんだ。温める必要がないからな」
元々火のエネルギーをたっぷり持っているから、抱卵しなくていいのだ。この環境の中では、冷えてしまうということはない。
「じゃあ、どうして……」
「もうすぐ孵化するんだ。ほぼ一斉にな」
「そんなのがわかるの? いつ孵化するかっていうのが」
早足で移動しているので、レリーナの息が少し上がっている。
「産んですぐの卵は、地面とほぼ似たような色なんだ。それが孵化直前になるとあんな色になる。何もよりによって今でなくてもなぁ」
「まだよくわからないんだけど、孵化して何がどうマズいんだ? 数が多いから、襲って来た時は大変だろうけど……」
相手は魔物だ。生まれたてであっても、凶暴であることは十分に考えられる。
「ここにある卵の半分は、孵化してもすぐに死ぬ。他の奴のエサになっちまうから」
「うん……魚なんかはそうだって聞くけど」
「それは他の魚に喰われたりして、だろ。ここの奴は近くの仲間に喰われるんだ」
「え……」
ラディもレリーナも、一瞬言葉を失う。
「それって、共食いするってことなの?」
「ああ。孵化してすぐはエサにありつけない。だから、そばにいる奴を喰うんだ。ここに転がってる卵は半分が喰う奴、残りの半分が喰われる奴。生まれた瞬間から弱肉強食ってことだな」
過酷な生存競争の話に何も言えない二人だったが、リジオルがそこに付け加える。
「だが、そこに別の獲物がいれば、そちらを狙う。共食いはあくまでも自分が生き残るためだ。少しでも同族が多く残れるなら、別の獲物で空腹を満たそうとする」
やっと急いでこの場を離れようとする理由がわかった。
単に襲われるだけではない。孵化したサラマンダーがラディ達を見れば、それはエサだと認識して襲って来る。そんな危険地帯なのだ。高温で身体は熱いはずなのに、寒気がした。今までもエサとして襲われることはあったが、まさか生まれたての魔物にまでそう見られてしまうとは。
「それって、対象はあたし達だけよね。リジオルは違うでしょ」
「同族でなければ、生きてる奴は全てエサだ。生まれたばかりでは、知識も理性も力の差もわからんからな」
リジオルが生まれたばかりのサラマンダーに負けるはずない。だが、相手は自分よりも強い奴だということがわからないのだ。動くエサとしか認識していない。
「ラディ、レリーナ。ちょっと走るぞ」
どこかでがらっという音が聞こえ、ジェイがさらに進むスピードを上げた。
「結構、数があるからな。こんなの相手にしてたら大変だ」
地面は平坦ではない。卵以外にも大小様々な石が転がっているし、割れ目は火が噴き出した時に危険だから避けなくてはならない。所々に火だまりもある。そんな場所で走るのは容易ではなかった。
「きゃっ」
転びそうになるレリーナを、かろうじてラディが受け止める。
「あ、ありがとう、ラディ」
「レリーナ、大丈夫?」
「うん……」
小さく頷きながら、ふと視線を横にやったレリーナが凍り付く。
「大変だわ……」
周囲にある石に亀裂が走り、卵の一部が割れるとそこから次々に魔物が顔を出したのだ。
形としては最初に見たトカゲとほとんど変わらないが、手足がやけに太かった。身体が卵と同じ色で赤い。溶岩でできているんじゃないかと思うような色だ。触れるのはおろか、手をかざすだけでも高温をはっきり感じられそうな見た目である。
「見てないで、行くぞ」
ジェイがスピードを上げたのは、最初に孵化したサラマンダーが動いた音を聞いたからだ。がらっという音はどこか石でも崩れたのかと思ったのだが、卵が割れた音だった。それを皮切りに、次々と卵は孵化していく。
サラマンダーの子どもは、最初に自分が今まで入っていた卵の殻を食べ始める。それを先に食べ終えた子どもは、自分のすぐ隣にいる子どもにかぶりつく。
生まれた時間差はほんのわずかなもの。しかし、自分の近くにいる子どもが先に殻を食べ終わってしまえば、その食欲は自分に向けられてしまう。この場では先に生まれ、なおかつ食欲旺盛な者が生き残りやすくなるのだ。
かぶりつかれた方は悲鳴を上げ、懸命に抵抗するが、やがてその動きが止まる。そうなれば、誰かの胃袋を満たすだけの存在だ。
そんな光景があちこちで繰り広げられた。板を割るようなばりばりという音は、卵をかみ砕く音。そこに魔物の悲鳴と肉を噛みちぎる音が加わり、それらの音が耳に入る度にぞっとなる。
そんな修羅のような場を足早に進んでいたラディ達。初めは自分の卵の殻、そして仲間に目が向いていたようだが、卵の殻を食べる前に別の生き物がそばにいることに気付いたサラマンダーが現れた。
それが何であろうと、彼らにとっては食べ物だ。仲間を失わずに済むなら、別の食べ物を食べる方がいい。
ひたすら食べようという本能だけで動き、魔物はこちらへ向かって来る。その様子に気付いた他の魔物も、別のエサがあること知って次々に動き出した。
「見付かったか」
魔物の動きに気付いたラディはレリーナの手を引き、慌ててその場から走り出す。だが、生まれたばかりとは思えない程、サラマンダーの動きは速い。トカゲのようにしか見えないのに、さすが魔物と言うべきか。
「くそっ」
ラディはサラマンダー達の前に土を降らせる。タイミングと場所によっては、サラマンダーの顔が埋まったりした。土が邪魔になり、サラマンダー達の追跡が一時止まる。だが、その土を乗り越え、サラマンダー達は再びラディ達に向かって突進してきた。
ラディは、そしてレリーナも土で応戦するが、次々に卵が孵化する。孵化した魔物は先に動き出している仲間に便乗して走り出すため、追っ手は増えるばかりだ。
「このまま逃げ切るのは無理だ。二人とも、さっさと乗れ」
リジオルに言われ、ラディとレリーナはその背にまたがった。その間、ジェイはサラマンダー達の動きを止めようと、あちこちに土を降らせる。
「行くぞ」
リジオルが地を蹴り、ラディが手を伸ばしてジェイの身体を掴んだ。そのまま魔獣の身体は宙を走る。
下を見れば、獲物に逃げられたサラマンダー達が仲間に飛びつき、強い者が仲間を食い始めていた。別のエサがなくなったのなら、また目の前の仲間が獲物になる。
そんな光景を見て、ラディとレリーナは助かったことに安堵のため息をついたのだった。





