森にて
ラディとレリーナは、リーオンの背に乗った。青白く燃えさかるたてがみは、触れても全然熱くない。むしろ、ひんやりした空気を感じる。
「気に入らない奴が乗ったら、すっげー高温になるんだぜ」
ジェイがラディの前にちょこんと乗って説明する。
「ジェイは自分で飛ぶんじゃないのか」
「スピードに限界があるって言ったろ。気にする重さもないんだし、いいじゃん」
乗せるのはリーオンであってラディではないから、別に構わないのだが。
「それで、どちらに向かうのだ?」
声や口調、雰囲気からして、リーオンは人間の姿になれば二十代半ばくらいといったところだろうか。クールな美形になりそうだ。
「北。キーニの山の向こうだろうって見当をつけてるんだ」
「キーニの山を越えるということは、ゴルの森周辺か」
「うん、たぶんそうだろうなって」
ラディとレリーナには地名などさっぱりわからないが、さっきジェイが説明していた場所のことだろう。
「では、行くぞ。振り落とされるな」
「わかっ……わわっ」
リーオンの脚が地面を蹴り、宙を駆け出した。のけぞりそうになって、ラディは慌ててたてがみを掴む。炎が掴めるとは思わなかったが、手には不思議な感触があり、どうにか体勢を立て直した。
「すごーい。空を駆けてるわ」
元々少し高い場所にいたが、リーオンはそこからさらに少し上を駆けている。見下ろせば地面はかなり下。二人は自分が高所恐怖症でなくてよかったとつくづく思う。
「おー、やっぱり高いと気持ちいいなー」
「ジェイは飛べるんだから、その気になればもっと高い場所に行けるんだろ?」
「無理すればな。それは、試練が終わってからの話だ」
楽な位置がラディの目線辺り。それより高いとなると、かなりきついのだ。行けなくはないが、気を抜いた途端に空から真っ逆さま、ということもありえる。
「大竜も面倒なことを考えるものだな」
「そうなんだよなー。先祖達は何でこんなことを始めようなんて思ったんだか。けどさ、試練を終えた奴はだいたい、やってよかった、なんて言うんだぜ。そんなものかな」
「これからわかるわよ、ジェイ」
短い会話の間に、リーオンはもうキーニの山に近付いていた。そばに来ればかなり高い山だとわかる。ムーツの丘にいた時もこの山は高いんだろうな、という予想はしていたが、それは丘から山のふもとまで広がる草原が視界に収まり切れないにもかかわらず、山がどんとそびえているように見えていたからだ。その広大な草原を、リーオンは数分程で駆け抜けてしまったのである。
「全てが大きすぎて、遠近法も何もあったもんじゃないな。距離感が掴めないや」
「普通に歩いたら一日かかるって思ったけど、きっと一日じゃ草原の真ん中くらいね」
魔獣の力が必要だということが、これでつくづくわかった。彼らに運んでもらわなければ、人間の足では目的地へ着くまでに数日経ってしまう。
「リーオンって、すごいな」
「この程度のこと、やってのける魔獣などいくらでもいる」
鼻をならして言っているが、ラディの真っ直ぐな言い方にリーオンもまんざらでもない様子だ。
「さむ……」
レリーナが後ろでつぶやく。風を受けているラディもその冷たさに鳥肌がたった。丘の上にいた時は何とも思わなかったが、リーオンが山を越えるために高度をさらに上げたので気温が低い場所を駆けることになるのだ。見れば、山肌に雪がある。今は天気がいいから風が冷たいと言うだけで済むが、崩れたらすぐ雪になるだろう。山の天気は変わりやすいと聞くが、それは異世界の山の上空も同じだろうか。目の前に火が燃えているのに、まるで熱くないのも不思議なものだ。
「人間にはつらいかもな。ラディ、結界はできるか?」
「あんまりきれいじゃないけど、一応」
「格好なんて二の次だ。結界を張れば壁になるから、少しは風を防げるぞ」
「そうか。やってみる」
「私は不要だぞ」
リーオンに言われたので、ラディは自分とレリーナを包むようにして結界を張る。
「わ、全然違うわ」
風が当たらなくなるだけでも、体感温度が一気に変わる。
「レリーナは寒がりだから、余計につらいんじゃないか?」
「うん……衣替えしてなくてよかったわ」
ヴィグランの葬儀に出ていた二人は、ロネールの制服のままだ。そろそろ夏服に替わる時期だが、今はまだ冬服のまま。薄着になっていたら、もっと寒い思いをしていた。
「ゴルの森に入ったら、一旦休憩しようぜ。その時に火をおこして暖まればいい」
「ジェイは寒くないのか?」
ラディのすぐ前に座っているので、結界はジェイ込みで張っている。でも、彼は寒いと一言も口にしていない。
「風が冷たいのは感じるけど、寒いってところまではいかないな」
寒さに震える竜の姿なんて、想像できない。やはり人間とは違うようだ。
「じきゴルの森が見えるぞ」
正面から見て大きな山は、書き割りではないのでやはり奥行きもしっかりある。リーオンもさすがにひとっ飛びでは無理なようだが、彼の言った通りに森が見えてきた。さっきは黄緑色の草原が続いていたが、山を越えると濃い緑が広がっている。
「え……森って、これ全部?」
さっきの草原とどちらが広いだろう。どっちにしても、視界には緑しか映らない。果てを見れば、かすんでいる。
「こんな広い所から、かけらを探すの?」
レリーナが丸い目をさらに丸くして、森を見下ろす。
「そういうこと。かけらの気配がかなり薄くなってきてるから、やっぱりこの周辺だな」 近付く程に、ジェイはかけらの気配を掴めなくなる。今もこれまでよりずっと気配が薄まっているのを感じているので、この辺りで間違いないようだ。
「リーオン、適当な場所に降りてくれ」
ジェイに言われ、リーオンは木々がまばらな所を見付けて降下した。
森と一口に言っても、場所によって木々が密集していたりまばらだったりする。今はまばらな場所なので、日の光が入ってとても明るい。ラディが結界を解いてももう寒くなかった。少し暖かくなったことで一番ほっとしているのは、寒がりのレリーナだ。
ラディは火をおこすとレリーナにあたっているように言い、自分は近くで枯れ枝を拾う。いくら魔法で火を出せても、燃え続けるようにするには燃料が必要だからだ。魔力のみでも燃え続けさせることは可能だが、何があるかわからない場所では魔力を温存しておきたい。今はレリーナもラディの言葉に甘え、すっかり冷たくなってしまった手を火にかざす。
「この森の木って、すごく高いわね。あたし、そんなに色々な森へ入った訳じゃないけど、こんなに背の高い木ばかりの森って初めてだわ」
何が「普通」かは知らないが、レリーナが知る森の木はせいぜい二階か三階建ての屋根と同じくらいの高さだった。今いる森の木は、その倍は軽くいきそうな高さだ。それでいて、幹が細いというのでもない。一本の大木がどっしりかまえているのを見たことがあるが、そんな大木が森を形成しているのだ。
「ま、それなりにデカい奴が棲んでたりするからな」
棲む者全てを説明する必要はないが、それなりの心構えができるよう、ジェイはそれとなく言っておく。
「ジェイもうんと大きくなるの?」
「それなりにな。でも、本来の姿だといられる場所が限られるから、大きさはその都度調整するんだ」
調整を必要とする身体とはどんなものなのだろう。見たいような、怖いからやめておきたいような。
「この森で探すのか。骨だな」
「そうよね。空から見たら、あんなに広いだもん」
あまりに範囲が広すぎると、やる前から気持ちがなえてしまう。思っていたよりかけら探しは難題のようだ。ヴィグランの話を聞いていた時はそんなふうに思わなかったのだが、やはり聞くのと実際にやるのとでは違うということか。わくわく感だけでやれるものではないらしい。
「それもあるが、私が言うのはこの森に棲む者達のことだ」
「何? 何かあるの?」
「自分達の縄張に入って来るなって、追い出される。面倒なのがたくさん棲んでたりするんだよなー」
普通の獣に限らず、魔獣も己の縄張を持つ。そこへ入れば、当然排除しようと動くのだ。かけらを探す間だけと言って、どこまで許してくれるか。
「問題でもあった?」
枯れ枝を集めて来たラディが、話に加わる。枝を少しずつ入れると、火の勢いが強まった。さらに暖かくなる。
「普通に捜す以外にも、問題はあるなぁって話。ラディが魔法を使って、オレがちゃっちゃと範囲を絞ればいい話なんだけどさ」
「……早速何か来るぞ」
リーオンが耳を動かす。
「ええっ? もう自分の縄張から追い出しに来たの?」
「この音、かなりの数なんじゃ……」
ラディ達にもかさかさという音が聞こえるようになった頃には、すっかり周囲を囲まれていた。
☆☆☆
見た目はリス。サイズもそれくらいだ。しかし、かわいさのかけらもない姿をしている。鋭く尖った出っ歯は何をかじるためのものなのだろう。同じく鋭い爪は、木を上る時以外にも活用されるに違いない。金色に光る目は不気味で、角や牙がないことがいっそ不思議だ。身体とほぼ同じサイズの太いしっぽは、やはり攻撃道具の一つだろうか。
そんな魔物が、少なく見積もっても百を超えてラディ達の周りを取り囲んでいた。
「いきなり面倒なのが出て来たなー」
ジェイの口調は、大変だというよりは本当に面倒そうだ。
「俺達、こういう奴って見たことがないんだけど。やっぱり魔物だよな?」
「大した魔力はないけど、分類すれば魔物だな。ここじゃ、クードって呼ばれてる。見ての通り、団体行動で獲物を襲う」
楽しくない解説だ。この場合、当然獲物はラディ達。
「これって縄張に侵入されて、怒ってるんじゃないの?」
「こいつらの縄張など、あってないようなものだ。えさを求めて動き回る。それが誰の縄張だろうと、お構いなしだ」
「で、そこを本当に縄張にしてる奴らによく蹴散らされるんだ」
「うるせぇぞ、そこのチビ! さっきからあれこれと」
滑舌は悪いが、一応しゃべれるらしい。だが、まともな言葉はそれくらいで、あとはひたすらキーキーと騒ぎ立てる。鳴き声のトーンは身体に見合った高さだ。蹴散らされる、と言ったジェイの言葉が気に入らないらしい。
「チビって何だ! これは仮の姿だっての」
「本当に?」
さっきのレリーナとジェイの会話を聞いていないラディは、疑わしそうに尋ねる。今はクードとあまり変わらない大きさだし、むしろしっぽがある分、クードの方が大きく見えてしまう。
「うわ、ラディ。その言葉、傷付く!」
「でも、ジェイが大きくなるって想像しにくいしさ」
「ラディ、お前想像力がなさすぎだぞ」
「そういうくだらないことを言い合っている場合か?」
リーオンが冷静に突っ込む。無視されたような形になって、クード達はさらに怒っていた。一匹が地面を蹴ると、他のクード達も一斉に飛びかかってくる。
「ラディ、レリーナ。遠慮しなくていいぞ」
「ええっ?」
ジェイが風を起こしてクード達を飛ばし、リーオンは尾で振り払う。身体が小さいのでクード達は簡単に飛ばされるが、数が多い。飛ばされてもすぐに次が来る。ラディも風を起こして応戦した。レリーナもできる限りで風を起こすが、どうしても一番弱い。
それに気付いたクード達が、少女に狙いをつけた。
「この……レリーナに近付くな」
ラディの風を起こす力が大きくなる。飛ばされるクードの数が一気に増えた。レリーナが狙われたと気付いたジェイとリーオンも、彼女に飛びかかる魔物を優先に振り払う。
「くそ、キリがないぞ」
いくら振り払っても、すぐに次が来る。一体、いつになったら途切れるのだろう。
「ジェイ、一度この場を離れるか? 別の場所に移っても、また現れるかも知れないが」
「そうだな。一気に吹っ飛ばす方法を考えた方がいいかも。このままじゃ、ラディ達がもたないしな」
ラディは魔物退治のシミュレーションを授業でしているが、こんなに長い時間連続ではやっていない。レリーナにいたっては、まだ的に向けて魔法を当てることがほとんどだったりする。どちらにしても、長時間魔法を使い続けることは無理だ。しかし、どう見てもすぐには終わりそうにない数がまだ周囲にいる。
ジェイ達が一旦退却を考えた時、何かの気配を感じたのか、クードが一斉に同じ方向を見る。
「え……何だ?」
ラディがクードと同じ方を見た。群れが一斉に向きを変えるなんて、マズい展開しか思い浮かばない。
「新手が現れたようだ。こんな雑魚とは比べものにならないようなのがな」
雑魚と呼ばれた相手に苦戦を強いられているのに、ここでレベルの高い存在が現れるなんて冗談じゃない。しかし、文句を言う暇はなかった。
「ゴルの灰色狼か。まぁ、次から次と」
まだ姿も現していないのに、ジェイがその名をつぶやく。その直後に現れたのは、名の通りに灰色の毛並みを持つ狼だった。クードが小さかったせいか、その差で余計に大きく見える気がしたが、実際に巨大な狼だ。普通の馬より大きなリーオンよりもさらに大きい。
「ジェイが言ってたデカい奴って、この狼のことだったの?」
その姿に圧倒され、一瞬恐怖心さえ消えてしまう。こんな大きな生き物がいるから、森の木も大きいのだ。さらには、最初に現れた狼の後ろから、同じような姿の狼が数頭現れる。微妙な毛色の濃淡や大きさの違いはあるものの、どれも巨大には違いない。
そう言えば、狼って群れで行動するんだっけ。……かなり最悪だったりして。
クードも群れだが、狼の群れとは存在のレベルが桁違いだ。実際、現れた狼達を見て、クード達は完全に怯えている。端にいた一匹が方向転換してその場をダッシュすると、他の仲間も一斉に逃げ出した。あれだけいたクードが、数秒後には一匹もいなくなる。
残されたのは、ラディ達。当然、狼達の視線は残された者達に注がれた。
「ここは我々のテリトリーだ。さっさと立ち去れ」
先頭にいた狼が告げる。とりあえず、問答無用で襲ってくるのではないらしい。まだ安心はできないが、少しほっとする。
「そうしたいんだけど、できないんだよな」
ほっとしたのは一瞬だけ。ジェイの答えに、ラディとレリーナが蒼白になる。縄張を侵す者は許さんと言って襲って来たらどうするのだ。今の二人にこんな狼達と対抗できるだけの力はない。リーオンだって一頭だけならまだしも、数頭が一気にかかって来たら苦戦どころではないだろう。命の危険となれば、ラディ達を置いて空へ逃げることもできるが、人間の二人にそんなことはできない。走ったって、すぐに追いつかれる。
「何だと?」
案の定、去れと告げた狼の目が細くなる。一気に剣呑な雰囲気が漂った。いざとなれば、火を出してわずかでも目くらまし的なことをするしかない。猫だましのようなものだが、その間にリーオンに乗ってこの場を去れば……去れれば。ジェイは多少大変だという話をしていたが自力で飛べるのだし、必死で逃げれば何とかなるはず。
「オレは大竜だ。今、試練中。この辺りに捜し物があるから、その間だけ待ってくれよ」
ジェイの口調に真剣みが全く感じられない、と思うのはラディだけだろうか。一歩間違えたら喰われそうな状況なのに、言い方がものすごく軽い。
「こっちは協力者。このメンツでないと何もできないから、追い出すってのは勘弁してもらいたいんだけどさ」
ジェイ、もう少しお願いしますって雰囲気で言った方が……。
まるで友達に「ペン貸して」と言ってるようなレベルの口調。今日はペンケースまるごと忘れたから、使ったらすぐに返せってのは勘弁してもらいたいんだけどさ、みたいな次元だ。しかし、狼の最初の口調からして、ジェイはこの狼達と友達関係ではないはず。
「試練と言えば、何でもありか」
ほら、やっぱり怒ってる。もう少し低姿勢になった方がいいって。
とは思うものの、下手にラディが口出ししてさらにもめるのも困る。
「何でもありってつもりじゃないけどさ。そう時間はかからないと思うんだ。長くてもせいぜい……ま、一日あれば見付かるだろうし。その間だけだよ」
「うろうろされるのは、不快だ」
それはそうだろう。だから、縄張を持つ獣は侵入されたら追い出そうとするのだ。
「そう言うなよ。お前達の住処を荒らすんじゃないんだからさ。えさを横取りする気も全然ないし」
「……」
「んー、じゃあさ、何すれば許してくれる? あ、命を差し出せってのはなしな」
条件を聞いておいて、先にこれはなしというのは許されるのだろうか。どちらかと言えば、立場が弱いのはこちらのはずだが……。それ以前に、ラディ達には相談なしである。もっとも、相談されたところでラディ達には何も言えない。
「今のお前に何ができる。試練を課せられた大竜は魔力がかなり落ちていると聞くぞ」
「そういう余計な情報もしっかり筒抜けか。噂ってたまに真実が混じってるから、厄介なんだよなぁ。確かにオレだけじゃ、できることって限られるけどさ、こっちには協力者の魔法使いもいるんだぜ」
「お前より魔力の弱い魔法使いが、な」
狼の言葉にラディはむっとするが、反論できない。この狼に比べればずっと低レベルで雑魚でしかなかったクードを相手に、ラディはレリーナを守るだけで必死だった。正規の魔法使いともなれば、もう少し素早く的確な対処ができたはず。ジェイと比べるのはともかく、魔力が弱いのは事実だ。
「半人前だしな。今のオレも半人前だから、足してちょうど一人前になるだろ。今回は半人前でも二人の魔法使いがいるから、1.5人前くらいになるぞ」
「……そういう足し算、成立する?」
ジェイの言い分に、味方であるはずのラディが思わず突っ込んだ。絶対、そんな単純なものではない。
「なぁ、頼むよ。そりゃ、縄張をうろつくことにはなるけどさぁ。さっきも言ったけど、住処を荒らすつもりじゃないんだ。だいたい、こんな広い場所を荒らしてやろうとか思ったら、どれだけの力がいるんだよ。それに、狼じゃない奴だって、あっちこっちにたくさんいるだろ? その中の一種くらいに考えてくれよ」
「立ち去る気はない、ということか」
狼の言葉に、ラディとレリーナはびくっとする。その後にくるのは問答無用の攻撃かと、身構えた。結界がどこまで通じるだろう。あの牙の前では、恐らく紙同然。結界ごと急所に噛みつかれて終わりだ。リーオンが現れた時、喰われそうになったら助けてやる、みたいなことをジェイは言っていたが、それはこの狼達に対しても有効なのだろうか。相手にはジェイの魔力が落ちていることがバレている。抵抗できないのをいいことに、あえてもてあそぶような攻撃をされるかも知れない。
死がいきなり間近まで迫っているように思え、ラディの背中に冷や汗が流れた。生きた心地がしないのはレリーナも同じだ。
「本当にこちらの言うことを聞くのであれば、立ち入りを許可してやる」
「ええっ? いいのか?」
思わず口にしたのは、ラディだ。この会話の流れで、まさか許可が下りるなんて考えられない。ジェイのあの交渉の仕方では、絶対に追い返されると思ったのに。完全に拍子抜けと言うか、肩すかし。足の力が抜けそうになった。
「言ってみるもんだよなー」
当のジェイはあっけらかんとしたものだ。確か最初は、ラディ達を呼び寄せて「協力してくれるよな」とどこか不安そうに言っていたが、あれは実は芝居だったのだろうか。今の会話を聞いていたら、そう思えてきた。
「ここで追い返しても、後でまたこっそり来るくらいのことはするだろう」
「この近くにかけらがあるなら、やるぜ。今はまだはっきりしてないけどさ」
「同じ話を何度もするのは面倒だ。さっさと終わらせよう」
「そうだな。もう一度言うけど、あんまり無茶言うのはなしだぜ」
どちらが条件を出しているか、本当にわからなくなってきた。