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理系男子と文系少女  作者: こんな青春送りたかっ太郎
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理系男子と妹が欲しい少女

「だあれ?お友達?」


「まあそんなところ。」


危ないところだった。

風呂から上がってきた母親に会話を聞かれるところだった。

別に聞かれたからと言ってまずいわけではないのだが、なんとなく聞かれてはいけない気がいた。

特に汗が出たわけではないが気分的に額をぬぐっておく。


「あ、そうだ母さん。もしかしたらその内友達を家に呼ぶかも。」


「あら、珍しいわね。好きにしなさーい。私はもう寝るわね。おやすみ。」


「ああ、おやすみ。」


そう言って寝室へと入っていく。

礼二もやることは終っているのでもう寝ようと自分の部屋へ向かった。


**************************


次の日の図書館。

カリカリとシャーペンを走らせる音だけが聞こえる。

チラと前を見ると文香が一生懸命化学の問題を解いているところだった。

しかしさっきから一向に進んでおらず、『すいへいりーべー・・・なんだっけ、ウルトラシックスみたいな?などと不穏な発言をしている。


「夏目よ、昨日の話だが。」


「ん?昨日?・・・あ!そうよ!忘れてた!妹さんに会わせてくれるんでしょ?名前なんて言うの?」


「柚子だ。」


「柚子ちゃんかー。あー、早く会いたい・・・。」


「そうか。夏目が何を求めているのか俺にはさっぱり分からんがいつでも良いぞ。」


「そうねー・・・。あ、そうだ!今週の土曜日とかは?土日だったら保育所ないから家にいるでしょ?」


「わかった。じゃあ10時ごろに来てくれ。昼飯を出そう。」


「え、なんか悪いよ。」


「いや、正直柚子の相手してくれるだけで助かるから問題ない。」


「そう?じゃあお言葉に甘えて。」


「とは言え夏目が普段食べているようなフレンチフルコースなどはとても準備できないからあまり期待はしないでくれ。」


「あんたの中で私は一体どういうイメージなのよ。」


というわけで土曜日に文香が家に来ることが決まった。

日は流れ、文香が礼二の家にやってくる当日、礼二は朝からそわそわとしていた。

それもそのはず。

今までお世辞にも友達が多かったとはいえず、家に友達を呼ぶなど何年振りか。

まして女子を呼ぶなど人生で初めてではなかろうか。

電話の際、ぽろっとこぼれた言葉からまさかこんなことになるなど思いもしていなかった。

別に下心は無いし、そもそも文香などという高嶺の花が自分になど興味はないだろうと思っていたため、家に誘ったのも冗談のつもりだった。


『は?死ねば?』


くらいバッサリと一刀両断されるつもりだったが当の文香はなぜか了承。

もちろん嫌なわけではない。

それどころか昨日から落ち着かず、今日の朝は土曜日なのに5時に起きた。

母親は仕事に出ているためいない。

柚子には友達が来ると伝えており、今はテレビにご執心のようだ。

現在9:45。

まだ文香が来るまでもう少しある。

さっきまで柚子の相手をしていたため朝ご飯の片付けが終わっていないため、片付けをしてしまおうと思ったその時、ピンポーンと来客を知らせるインターホンが鳴る。


(早くないか!?)


急いで確認すると案の定文香だった。

玄関の扉を開ける。

6月にしてはめずらしく外は晴れており、まるで真夏日のような日差しだ。

天気予報では最高気温28度と言っていた気がする。

日差しに照らされた文香は細身のジーンズに上は涼しそうな紺色のブラウス。

全体が青系統にまとめられており、普段黒ばかり着ているような自分とはおしゃれ度が大違いで軽く絶望する礼二。


「ごめん、楽しみで早く来ちゃた。」


えへへと苦笑いする文香。


(な、なんだこの胸の高鳴りは・・・!)


胸を押さえながら謎の心拍数の上昇に困惑るする礼二。

女子への免疫がないためにこんなことになるとは情けないと気持ちを持ち直し、文香を中へ案内した。


「おじゃましまーす。あ、親さんは?」


「母さんは仕事で夕方までいないよ。」


「そ、そう・・・。お父さんは?」


「ああ、すまない、言ってなかったな。父さんは5年前に死んだんだよ。」


「え・・・・。」


礼二の父親は戦場カメラマンをしており、当時中東の紛争地帯へ取材に行っていた。

しかし、安全に十分気を付けたとはいえやはりそこは紛争地帯。

完璧な安全など保障されるわけもなく、流れ弾によって死んだ。

それが5年前であった。

普段から家をほっぽり投げて外国を飛び回っており、家に帰ることはほとんどなかった。

たとえ家にいたとしても会話が弾むわけもなく、結局ほとんど話すことは無かった。

だから正直父親と言われてもあまり実感が湧かないのが現状だった。


「ご、ごめんなさい、亡くなってるなんて知らなくて・・・。」


「ああ、全く気にしてないぞ。俺自身父親と言われてもイマイチよくわからないからな。」


「そう・・・。」


「おにいちゃん、おきゃくさん?あ!おともだち!?」


さっきまでテレビを見ていたはずの柚子が、テレビに飽きたのか礼二の元までやってきて文香を見つけた。


「ああ、そうだぞ。友達の文香だ。」


「ふみか?ふみかちゃん?」


「そうだ。今日遊んでくれるらしいぞ。良かったな。」


「ほんとうに!?じゃあ、ふみかちゃん、おままごとしよ!おにいちゃんいっつもやってくれないの!」


「え、あ・・・・はぁ。柚子ちゃんこんにちは。いいよ!一緒におままごとしよっか!」


「夏目、すまない。しばらく頼んだ。」


「あれ?『おにいちゃん』は一緒におままごとしないの?」


ニヤニヤと礼二をからかう文香。

『おにいちゃん』と呼ばれる礼二が新鮮なようだ。


「ああ、柚子の相手してると一向に家事が終わらなくてな。夏目のおかげで俺も家のことができる。ありがとう。」


「え、そういうことだったの・・・。もう!ちゃんと説明しなさいよ!柚子ちゃん!こんな人置いといて一緒に遊ぼうね~!」


「うん!じゃあねじゃあね、ゆずはね、お母さんするから、ふみかちゃんはおにいちゃんやって!」


「え~・・・それはちょっと嫌かな~・・・。」


「それはどういう意味だ。」


「そのまんまよ。良いからあんたは家事なりなんなりしてなさいよ。」


「くっ・・・・。」


すごすごと退散し、皿洗いに取り掛かる。


「まだ話してくれてないこと沢山あるんでしょ。話したくなったらいつでも聞くから。」


「えっ?」


聞き間違いかと思って聞き返したら既に文香は柚子と一緒にリビングの方へと行ってしまっていた。

父親のことは今言うべきではなかったかもしれない。

でも、柚子と遊ぶ文香は楽しそうであった。

空気を悪くしてしまった気はするが、それでも今までよりも一歩だけ、ほんの少しだけ、距離が縮まったように思うのは気のせいではないはずだ。

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