理系男子と文系女子
(まずい、急に声かけられて焦って変なこと言ってしまった・・・)
帰路についた礼二は今日あったことを思い出す。
隣の席の文香に突然声をかけられて、焦って嫌味な言い方をして教室を出てきてしまった。
礼二は理系科目だけは得意だった。
先ほどの数学の試験もすぐに解き終わり寝ていたのだがどうやら隣の席の文香にそれを見られていたようだ。
普段あまり女子と話すことのない礼二は突然女子に話しかけられて、驚いて口をついた言葉が、
『何を言っているんだ?あんなの20分で解き終わったからずっと寝てたよ。夏目さん、あれで難しかったと言うのは流石に不勉強すぎると思うから勉強頑張ったほうが良いのでは?それでは。』
である。
(死にたい・・・・。)
そもそも礼二は確かに理系科目は得意だが、文系科目の一切ができず、人のことを言える立場ではない。
(夏目さん、か。来週会ったら謝らないとなー・・・。)
今日は金曜日なので月曜日に再び会えるはずである。
その時に謝ろうと決する礼二であった。
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迎えた月曜日。
いつも早めに来る礼二は文香が来るのを待っていたが、文香は思いの外ぎりぎりに学校にやってきて、多くの人がいる中で話しかけるのが気恥ずかしく、なかなか謝れないでいた。
「それじゃあ先週やったテスト返すぞー。」
今は現代文のテスト返却の時間である。
苦手とは言え今回はめちゃくちゃできた気がする。
いつも以上の手応えを感じながら先生に名前を呼ばれたため、答案用紙を受け取りに行く。
(ふふふ・・・・・今回は・・・・おお!!!)
答案用紙の右上には大きく42点と書かれていた。
赤点を免れた礼二は得意顔で答案用紙を折りたたむ。
ふと隣を見ると、文香は自分の答案用紙を見ながら明らかに失敗したというような顔をしていた。
どうやら赤点だったのだろう、かわいそうに。
先日の数学もちらっと見えた感じほとんど白紙だったのだから、あまり勉強ができないタイプなのだろう。
金曜日のテスト後のお詫びに勉強を少し教えてあげる必要がありそうだ。
そう思いながら文香へ声をかけた。
「夏目さん、どうしたのか?まさか点数が悪かったのではあるまい?」
こちらを見た文香はあからさまに嫌そうな顔をして礼二を見る。
答案用紙と礼二を交互に見ながら、観念したように項垂れる。
「そうよ・・・、今回は結構自信あったのにショック・・・。」
「まあ、そんな日もあるだろう。何、俺は今回はなかなかに良かったから解き方教えてやろうか?」
「別にいいわよ!あんたなんかむかつくし・・・。ちなみに何点だったの?」
「まあまあだな。ほら42点。まあ良くもなく悪くもなくといった感じか?」
嘘である。
現代文42点は高校に入ってからの最高得点である。
「・・・・・。」
可愛そうな物を見るような目で礼二の答案用紙を見る文香。
(ん?様子が変だぞ?)
「中野くんも、そういうタイプってわけね・・・。」
そう言いながら文香は答案用紙を礼二に見せる。
そこには大きく93点と記されていた。
「・・・・な・・・・!?」
「今回は、多分100点行ったと思ったんだけど、やっぱり記述があると難しいわね・・・。」
そう言いながら苦々しいという表情をする文香。
文系科目万年赤点太郎の身からすれば、現代文のテストで見たことのないような点数。
そして先日の言葉が蘇る。
『何を言っているんだ?あんなの20分で解き終わったからずっと寝てたよ。夏目さん、あれで難しかったと言うのは流石に不勉強すぎると思うから勉強頑張ったほうが良いのでは?それでは。』
どっちがだ、と突っ込みを入れたくなるのを抑えて何とか言葉を紡ぐ。
「も、もしかして夏目さんって文系科目得意・・・?」
「まあね。その代わり理系科目がからっきしで・・・。」
これは、もしや、俺の高校生活における救世主かもしれない。
「し、師匠!どうか、俺に文系科目を教えてくれ!この通りだ!」
椅子の上で土下座をすると、慌てて文香がそれを止める。
「ちょ、やめてよ!今授業中でしょ!」
「頼む!俺の人生がかかってるんだ!この通り!」
「もう!分かったから!後で話聞いてあげるからとにかくやめて!」
「ありがとう・・・!本当に・・・ありがとう!」
教室の生徒達の注目を受けるが構わない。
礼二には文系科目をできるようにならなければならない理由があった。