文系女子と理系男子
主人公は二人
試験開始の合図とともに教室の生徒たちは一斉にペンを走らせる。
馬鹿正直に最初の問題から解いていく者もいれば、テスト用紙をざっと見て解けそうな問題から解いていく者も。
そして、当然中にはこのような者もいる。
(・・・・なにこれ・・・・。)
腕を組んで物思いにふけるこの少女は夏目 文香。
目の前の、全くもって理解不能な数式の羅列を前にして成す術なく項垂れる。
昔から数学を始めとする理系科目が大嫌いで逃げてきた結果この様である。
彼女の通う海星高校は、所謂自称進学校で普通科しか存在せず、大学進学率は高いものの、著しく偏差値が高い、というわけではない『それなり』の高校である。
彼女は文系科目は得意だったが、如何せん理系科目が足を引っ張り偏差値が伸びずに『それなり』の学校に進むことになった。
高校2年生となり勉強も難しくなってきてこのままでは大学進学など夢のまた夢である。
試験開始から30分経っていい加減考えるのも疲れてきた文香は、突っ伏したままカンニングと思われない程度に窓の方へと顔を向けた。
文香の席は窓側から二番目であり、隣の席にはとある男子が座っていた。
彼も文香と同じように机に突っ伏して窓の方を向いていた。
(中野も数学苦手なのかなー?)
中野 礼二。
テストの時は出席番号順に並ぶが、2年生で一緒のクラスになった彼と隣の席になったのは、一学期中間テストの今回が初めてである。
黒縁眼鏡で長めの前髪、インテリっぽい顔をしているが、数学が苦手だなんて情けないなどと、完全に自分のことを棚に上げていた。
「試験終わりー。後ろから回収してこーい。」
いつの間にか試験時間の60分が終了していたようでほとんど真っ白な答案用紙を前の人へ渡す。
受け取った女子は裏から透けて見えたのか、答案用紙の代わりにひきつった笑みを返してきた。
テスト期間はこれで終わり。
最終日が数学などとついていない。
沈んだ気持ちのままテストを終え、どうせだったら一番得意な現代文で終わりにして欲しかったと思いながら帰る準備を始める。
隣をみると礼二も帰り支度をしていた。
少し気になった文香は礼二に声をかけてみることにした。
「ねえねえ中野くんも数学苦手なの?ずっと突っ伏してたね。今回本当に難しかったよねー。全然わかんなかったや。」
礼二はちらりと文香の方を一瞥すると、鼻で笑った。
「何を言っているんだ?あんなの20分で解き終わったからずっと寝てたよ。夏目さん、あれで難しかったと言うのは流石に不勉強すぎると思うから勉強頑張ったほうが良いのでは?それでは。」
そう言って颯爽と教室を出ていく礼二。
テストが終わった解放感により騒々しい教室に残される文香。
そして、響き渡る絶叫。
「は、はあああああああ!?なんあのあいつ、むかつく!!!!!」