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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
02:あんたなんて大っ嫌い!
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どうしてあんたは変わらないの?


 昔から、あいつのことが嫌いだった。


 ――ほらほらアヤちゃん。ぐずぐずしてるとおいてくぞー。

 ――待って。待ってよちはるぅ……。


 あたしよりずっと体力があって、魔法の呪文を唱えれば怖いものなし。外で遊べばいっつも服を汚して。何があってもニコニコ笑ってて。

 勝ちたいな、って思ったのはいつ頃だっただろう。呪文や仕草、衣装まで完コピするアイツに、グリッタちゃんのことで上回るのはムリだと解って、それで陸上を始めたんだっけ。


 ――ほら、何してんの。置いてくよちはるー。

 ――ちょっ、アヤ……アヤちゃん……早……早すぎ……っ。


 小学校に上がって半ば過ぎ。足の速さも体力も、背の高さだって追い越した。高い所から観るとよく分かる。ちはるは全然すごくなくて、ただ周りのヒトから浮いてるだけなんだって。

 あたしはちはると距離を置いた。何歳になっても口を開けばグリッタちゃんの話ばかり。アクセや髪、ネイルやコロン。皆が先を行く中でアイツだけが後ろを向いたまま。疎まれて当然だと思うでしょ?

 もう関わりたくない。関わればあたしまでイケてない奴にされるもの。

 そうだけど。そう、なんだけど……。


※ ※ ※


「アヤちゃーん。おぉい、アヤちゃーんってばあ」

 学校に着いてなお、気の触れたコスプレ女の追求が止むことはなく。西ノ宮ちはるは協力者たる東雲綾乃を求め、あの手この手で巻き込みに掛かる。

 ホームルーム前には入口前で横断幕を張り、移動教室の度に声を張り上げ、体育の時間には邪魔と解っていつつもボールとゴールの間に立ち塞がったり。

 流石に装束の上から制服を羽織るくらいの知能は残っていたが、厄介な事に変わりはない。

「あやさあ、ホントに何も無かったワケ?」

「絶対アレ異常だよ。あんたホントナニしたのさ」

 夢幻だと定義付けたのに。あれは嘘だと思おうとしたのに。アイツはどこまでもしつこくて。もう我慢の限界だ。綾乃の額に幾本もの青筋が刻まれる。

「チカ。マユ。後は頼んだ」

「りょーかい。保健室に行ったってことにしとく」

 友人らに会釈をし、綾乃は不意に席を立つ。向かう先は勿論ちはる。無言ですうと近寄って。わめくその口を手のひらで無理矢理止めた。

「むぐ! むぐぐー?!」

「わかった。わーかったからっ。あんた少しこっち来い、こっち」

 後は引き摺り出すだけだ。衆目が自分に集中するのを背で感じながら、綾乃は足早に教室を出て行った。


※ ※ ※


 学友の奇異の目や、すれ違う先生たちの声をかわし、辿り着いたのはこの階右端の用務倉庫。授業開始のチャイムが響き、暫く誰も寄り付かないことを報せている。

 東雲綾乃は人目に付かないこの場所で足を止め、ちはるを中へと放り込む。

「オッケーもういい。んじゃ、一度整理しようか」

「はいな。もぉ何度でも言っちゃうよ」

 この世界は狙われている。あの狼男は尖兵だ。グリッタちゃんになったあなたには、奴らを排除しなきゃいけない宿命がある。

 漫画的誇張と余計な擬音を省けばこんなところか。いや、話自体が漫画みたいなものなのだが。

 シルクハットにイカれたコートを羽織った魔女――。ファンタマズルと言ったか。奴はそう言ってちはるを鼓舞し、頑張ってねと他人事を並べて消えた。あの衣装が何で、どうしてちはるにそんな力があるのかは伝えずに。


「世界の危機だよ! 魔法少女の出番でしょ! アヤちゃんにも手伝ってほしいんだよ!」

「なぜそこであたしの名前が出る……」綾乃はうんざりだと苦い顔をし。「あのイカれ野郎もオオカミもみんな幻。あんたのはただのコスプレ! 真に受けて騒いでんじゃないの!」

「いやいや。全部見といてそのカエシは無理あるよアヤちゃんさん。全部ぜぇーんぶホントのことですうー」

「ぬ、ぐぐ……」

 全部ちはるの妄言なら知ったことかと突き返せたのだが、当事者の側に立った以上それも厳しい。

 一度エンジンのかかったちはるは誰にも止められない。それは幼馴染みである自分が誰よりも解っていること。


(お互い歳重ねて、少しはマトモになったと思ったのに)

 他に誰もいない・乗り込みようのない閉鎖空間。体を繕う必要は無い。この怒りと日々溜め込んだ鬱屈を右拳に集め、手近な壁へと解き放つ。

「わ、わ! どったのアヤちゃん! 手、手! 血出てるよ血ィ!」

「そこはきちんと認識出来るのね……」激情に駆られても、芯が冷えていることに小さく驚き。

「いつまで経ってもぴーちくぱーちく……。あんたいま何歳いくつ? 十六でしょ? そろそろ進路考えるような年頃でしょう? なのに頭の中はずっと五歳児! ちったあ周りを見ろ! それ以外のことも考えろ!」

 当然、そんなちはるにヒトが寄り付く筈もなく。中学高校と彼女はクラスで嘲笑の的となっていた。

 これで心を折られ、引きこもるなどすれば違うのだろうが、ちはるは自らの趣味を否定したりはしなかった。いくら蔑ろにされようと、学校には来るし認識は改めない。

 後はもう『いないもの』と放置するしか手段がない。他の生徒はそれで良いかも知れないが、かつての親友はそうもゆかない。


 ――やっぱりちはるはすごいなあ。あたし、呪文全部なんて言えないもん。

 ――ふっふーん。そうともよそうですよ。それじゃもっかい行くよ。せぇーのっ!


 声を重ね、ずっと一緒にいたのはいつの話だったろう。綾乃の脳裏に親しかった頃の思い出が甦る。

「な、なにさアヤちゃん。みんなだ周りだって、それがそんなに大事なことなの……?」

 だが、もう過去の話だ。大切なのは今。この女がいつまでも前に進まず他と馴染まない。大切なのはその一点。

「はいはいもういい。よぉくわかった」

 言って聞かないなら方法を変える他ない。綾乃は続く言葉を無理やり打ち切り、一人素早く倉庫を抜ける。

「もう何も言わない。言わないから」

 その際、通路脇に置かれた丈の長いブラシを掠め取り、戸を閉めると同時につっかえ棒として押し込んだ。

「ここで、しばらくアタマ冷やしな」

「ちょっ! アヤちゃん、アヤちゃん! 開かない! 開かないよこれぇ!」

 となればどうなる? 口うるさいお花畑女を抱えた簡易牢獄の出来上がり。倉庫に他の通路や窓はない。外部からの干渉ナシにここから出る手段は皆無。

「好きなだけわーきゃー言えばいいわ。後で気が向いたら出してあげるから」

 じゃあね、ごゆっくり。なんて気取った台詞を吐き捨てて、靴音は遠く左の方へ。

「あけて! あけてよ! あーけーてっ、てばーーっ!!」

 必死な叫びも授業中とあらばほぼ無意味。張り上げるキンキン声も、倉庫の中に反射して終い。

「ああ、ようやく片付いた……」

 本当に、そうだって思ってる?

 心中に沸き立つ淀んだ疑念を振り払い、綾乃は友の待つ教室へと戻りゆく。


「あーあ、三限完全にサボっちゃったなあ……」

 チカたちはちゃんと先生に話してくれただろうか。こんなことで成績に響いたらつまらない。

 あいつには如何なる交渉も通用しない。普通には染まれないのだ。昔から散々解っていた筈なのに。分かっていながら交渉に応じたこちらの落ち度か。

 などとぼんやり考えていて、綾乃は妙な違和感に気付く。時刻はまもなく十一時。数学の芳賀は言うことが野暮ったく、聴いていて眠たくなるとクラスの間で評判だ。

 では、あの大きな物音は何故? 芳賀は好かれちゃいないけど、授業をボイコットされる程嫌われてもいない。胸騒ぎを覚えて足音を潜め、薄く開いた引き戸から中を見やる。


「なによ……あれ……!」


 まるで嵐が閉所で荒れ狂ったかのようだ。椅子や机が無秩序に散乱し、上履きや学生鞄が踏み荒らされている。

「まさか、そんな……」

 あんなの夢だと思ってた。ちはるの妄想だと決め付けて終わりたかった。

 けれど現実はそうじゃない。あれは間違いなく実在する。

 教室に居るはずの(自分とちはるを除いた)二十六人は僅かに三人。教室の左端に追いやられており、真中を陣取るのは……ニワトリの頭をした、化物?!

前話くらいからしばらくスローペース。

陽キャの幼馴染と、陰キャの主人公とが重なるまでを描きます。


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