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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
14:ヤツの名はガーディアン・ストライカー
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なんとかしてや、☓☓☓☓!

◆ ◆ ◆


『えっ、吹寄さんと? ごめんなさい、他の人にしてもらいたいんですけど』

『あの子、何が楽しくて学校来てるんだろうね。話し掛けてやっても生返事で、会話も全然続かないし』

 物心ついた頃から、理由も分からず他人から距離を置かれることが多かった。父母に聞いても消極的な『頑張って』の一点張りで、先生や目上のひとはそのうちなんとかなる、と曖昧に言葉を返すだけ。

 好感の反対は無関心。皆を真似てファッションを頑張ってみたり、話題づくりの為に人気のドラマを追ってみたりもした。

『あんたさ、とっととこの学校辞めたら? 他のみんなが迷惑してるってわからない?』

 けれど、努力した私に向けられたのは敵意だけ。こちらからは何も言っていないのに、邪魔だうざいと爪弾きにされ、高校二年生半ばには、リアルに自分の席が『なくなった』。


 なんで私だけ? 皆は仲良くできるのに、どうして私だけがこんな目に遭うの? 父母はこんな境遇に産んで(・・・)すまないと謝ったけれど、それが何を意味するのかは教えてくれなかった。


 そんな時私は出逢ったの。この社会から虐げられた主人公が、この世に蔓延る正義ヅラした連中を打ち滅ぼすアウトローの小説と。

 この物語は、私の為に描かれたものだとすぐにわかった。調子に乗る超人たちに徹敵的な制裁を加えるストライカーの姿を見て、私もこうなりたい、もう少し生きていたいと思った。


 けれど、最新刊のあとがきに書かれていたのは『打ち切り』の四文字。やっと色付いたセカイがまた黒に塗り潰された気がした。

 連載継続を願う嘆願書を作り、出版社に送り付けた。まともに取り合ってもらえず返事もない。それならばとインターネット上で有志を募り、署名を集めようとした。サイトを立ち上げ一ヶ月、アクセスカウンターは、私の出入りでしか回らなかった。

 こんなことがあっていいはずが無い。けれど私に打てる手はもうない。絶望に打ちひしがれ、首を括ろうかと思っていたその時、『あいつ』が私の前に現れた。


『――君のその濁りきった感情に光を見た』


 あれが人間じゃないことくらいひと目で解る。ああ、私はすがる物を欲しがるあまり、どこかおかしくなってしまったのだ。

 それでもいい。構うものか。ガーディアン・ストライカーを、私の魂の拠り所をこの世に留め置く事ができるなら、悪魔に魂を売ったって構わない。


『――対価は君の成すべきことそのものだ。期待しているよ、吹寄幽子』

 望むところだ。やってやる。『私』を否定したこの世界に、『私』のチカラで鉄槌を下してあけるんだから。


※ ※ ※


「しゅ、シュテルン・グリッタ、スターバーストぉ!」

 言霊と共にバトンの穂先へチカラを込め、桃色の光弾を解き放つ。対するヘルメット男は手のひらで光をで受け止め、効かないぞと握りつぶす。

「うそ、ぉ」

 決め手を潰され、動揺するちはるに平然と歩み寄り、無言のまま握り拳を彼女の顔に打ち付ける。

「こ、こんちく……しょぉお……!」

 右目に拳を貰ったせいで距離感が掴めない。近づくなとバトンを振るが、黒い影は駄々っ子めいたその動きを軽くすり抜け、ちはるの脇腹に重い次撃を叩き込む。

 九年前、カマキリのトウロと戦った時と同じだ。圧倒的な身体能力を持つ相手では、魔法があろうと何の意味もない。ちはるの身体はくの字に折れ、薄暗い床の上で突っ伏した。

「あは。あひあひあはっ。無駄よ、無駄無駄! 私のガーディアン・ストライカーは最強だもの。あなたみたいなのが何人束になったって敵いやしないわ」

 電子レンジめいた機械を被った塗れ羽色の髪の女は、高揚に声を振らし、たたらを踏むちはるを嘲笑う。

 あれは彼女、吹寄幽子の創造物だ。頭の3Dプリンターで願ったものを現世に創り出すことが出来る。


「グリッタちゃん! 起きて、グリッタちゃん!」

「アカン! 近寄ったら君までやられるて! 逃げやんと!」

『母』のかつてない命の危機に、矢も楯もたまらず飛び出したのはみらだ。三葉の静止に耳を貸さず、呻いてぴくぴくと脈打つちはるを激しく揺する。

「イヤだよ! こんなの絶対認めない。グリッタちゃんは誰よりもすごい魔法少女なんでしょ? こんなピンチどうとでもしてきたんでしょ? 起きて起きて起きてよぉ」

 失神した相手に何を言っても無駄だ。声を嗄らし、目に涙を溜めて訴えようと、ちはるの耳には届かない。


『オ、オォ……』

 だが、この叫びを聞き届けるものがいた。三葉でも部屋奥の女でも、ましてや気絶したちはるでもない。敵であるヘルメット男は、必死にちはるを抱き起こさんとするみらの姿を見、息苦しそうなうめき声を漏らした。

『マツリカ……なんで、死んだ……』

 うめき声が言葉となり、三葉たちの耳にも届いた。マツリカ、とはヒトの名か? ちはるに被さるみらの姿を、他の誰かと重ね合わせているというのか?

「そっか、これ……最新刊や」この展開に声を上げたのは三葉だ。

「カンサイさん、今なんて?」

「ガーディアン・ストライカーの最新刊。一番新しいお話のことや。献本されたのをお姉と読んでて、うちはチラ見だけやったけど、確か……」

 マツリカ。神永茉莉花(かみなが・まつりか)。殺戮の旅の中で出逢い、ストライカーが唯一心を許せる少女。だが彼女は敵に捕縛され、理不尽な形で殺された。

 丁度、作品が打ち切りになるかどうかという岐路に立ち、『作り手たち』がそれを受け容れた頃だったか。もう続けられない、という悲しみが文面に滲み出ていたのをはっきりと覚えている。

『俺だけが生きて……お前が……。どうして、どうしてなんだ……』

 ”本意ではない”のはキャラであるストライカーも同様だ。別れの際の口喧嘩で謝罪も出来ず、殺害した相手はその事実さえ理解していない。人殺し行脚の罰だ。それはある。だがそれを自分ではなく、罪もない相方が背負ったのだ。まともでいられるわけがない。


「こんなの、ひどいよ」

 人となりを聞きかじったみらは、ヘルメット頭ではなく、その創造主の方を睨みつける。

「ひどい? ひどいって何が?」

「あなた、この人のことがスキなんでしょ? だからこの世に居てほしいって思ったんでしょ? なのに……」

 呼ばれて来たのは、想い人と死に別れ、今もなお苦しみ続ける主人公。仮にもファンを名乗る人間が、そんなことをしてもいいのか?

「あのヘルメットさんが可愛そう。会わせてあげてよ。そのまつりかって恋人さんに」

 原作を読んだことはないが、それがどれほど残酷なことかは九歳児にだって解る。感情を込めて『やめて』と訴えるも、対する幽子は――。

「はぁ? 何言っちゃってるのかしらこのお子様は!」

 みらの言葉を正面から笑い飛ばし、気の触れた声で彼女の言葉に切り替えす。

「ストライカーはそういうお方なの。普通のしあわせを切り捨てて、終わりのない殺戮に突き進む姿が尊いの! それをあなた、止めてだの会わせてあげてだの……。興ざめもいいとこだわ」

「きょ、キョーザメ……?」

 ガーディアン・ストライカーはマイノリティの極致が、社会の大多数を占めるマジョリティに反旗を翻すお話だ。作者自身がどこまでメタファーの意思を込めたかは定かではないものの、そこを否定するのはお門違いである。

「ガーディアン・ストライカーは私にとって生きる理由なの。クソみたいな社会に拳を以て抵抗し、自分という存在を見せ付ける。彼は私、私は彼なのよ!」

 とどのつまり、未見のみらとヘビーユーザーの幽子では視点が違うのだ。如何に可哀想だと言葉を並べたところで、狂信者たる彼女には『それがいい』としか返ってこないことだろう。

「駄目だ……このひとのこと、全然わかんない」

「同感やみらちゃん。うちにもさっぱり」

 狂信者にチカラを与えることがこうも恐ろしいことだとは。話し合って解決するとは到底思えない。戦えない二人はおかしな言動を続ける幽子を見、完全に匙を投げた。


「だからこそ、誰かが身体張って止めなきゃ、でしょ……」

 このふざけた所信表明を耳にし、倒れ込んでいたちはるが半身を起こした。同じ魔力で傷を付けられたからなのか、腹部の装飾は他と比べて明らかにほつれ、右目には拳大の痣がくっきりと浮かんでいる。

「グリッタちゃん!? どうして?!」

「痛いの痛いのとんでけ、が効いたんじゃない、かな」

 みら、というより彼女の被るティアラには、念じれば何でもカタチに出来るチカラがある。長らく命のやりとりから離れていたので触れる機会がなかったが、それは怪我の治療にも有効らしい。

「あんたにも、譲れない何かがあるのは良く分かったよ」痕は残るが、両目でちゃんと距離感を掴めるのはありがたい。これならまだ戦える。

「けどさ、それを楯に他の人を脅かしちゃダメだ。そうやって居心地のいいセカイを作っても、きっと最後は楽しくなくなるよ」

 持論――、とまでは行かないが、経験者としての忠告だ。かつて、自らの我を通すため、化け物を量産して襲いかかってきた同級生がいた。順当に仲間を増やし、憎い世間に復讐するチカラを手に入れたのに、対峙したその顔はやり切れない気持ちで澱み狂っていた。

「悪いことは言わない。頭の電子レンジを私に頂戴。こんなチカラとは手を切って、もっかい人生やり直そう?」

 かつての親友か、冬に戦って廃人にした中学生か。恐らくどちらもなのだろう。たとえ面倒で憎たらしい相手でも、あんな風に転げ落ちる様は見ていられない。

「言うわよね。上から目線でいけしゃあしゃあとさあ」

 だが、チカラを手にした幽子には届かない。同じまほうを持つ者に説教されたところで、そんな想いがきちんと伝わるわけが無い。

「だったら、力づくで奪えば?!」垂らしていた腕をぴんと伸ばし、俯くストライカーに指示を飛ばす。「弔う時間はもう終わり! あなたの敵はそこにいるの。斃してよ、私のストライカー!」

『オオ、オォ……? おお……』

 如何に、別人の創作物だろうと、それを現世に呼び出したのは幽子だ。”彼女の”創作物である以上、ストライカーはそれに逆らえない。最早首から上と下で別のイキモノだ。”敵”を認識して構えを取る身体と、今なお先の哀しみを引きずる頭部の動作が一致していない。

『おま、おま、えが。そうか』

 だが彼は、矛盾の根源がちはるにあると理解した。彼女を斃せばこの異様な状態から抜け出せる。創作物の具現化たるストライカーはそう結論付けた。

『まだ、生きていたか!』

 あれだけ殴ってまだ立ち上がるというのなら、滅ぼす他に道はなし。顔と体の意識が繋がった。一瞬で距離を詰め、ちはるの顔に右ジャブを打ち付けようとする。

「う、おわっ!?」

 これを見て躱すことが出来たのは、今までに培った経験と生きたいという渇望故だ。敵の拳と自らの顔にグリッタバトンを滑り込ませ、直撃ルートを上方にずらす。

『くたばれ、俺の前に屍を晒せ!』

 ストライカーは振った右拳を即座に戻し、左のフックを身を反らせたちはるに見舞う。このまま倒れ続けるのはまずい。ちはるは敢えてくの字を作り、ストライカーを両の手で突き飛ばした。


「まあ、やっぱりそうなる……よねっ!」

 良心に訴え、武装解除を目論んだが、それが無意味だということは解っていた。やはりこいつはチカラでねじ伏せるしかない。

「ほんと……勘弁して、よっ!」

 だからと言って決定打がある訳でもなく。バトンを手に距離を取らんとするも、ストライカーは直ぐに踏み込み、格闘戦に持ち込もうとする。相手を倒すのに『溜め』がいるちはるにとって、それは膠着戦の末の敗北を意味する。互角に見えたジリ貧だ。


「どうしたら……どうしたらえぇんや」

 桐乃三葉はその様子を固唾を呑んで見守るしかなかった。今ほど、綾乃やみらのような異能に恵まれなかったことはない。親友がじりじりと死に向かってゆくのをただ観ていることしか出来ないなんて。

(できない。本当に、そうか……)

 無理だと思考停止して、それで終いで納得できるか? 当然『否』だ。今身を挺することが出来ないなら、責めて頭を使って彼女の役に立て。

(あれはまほうの産物。あのヒトのガーディアン・ストライカーから喚び出された存在)

 強くて当たり前だ。彼はタイトルを冠する主人公。ヒロインの死に心が揺れながらも、命のやり取りに不慣れなちはるを一方的に嬲っている。

「主人公……創作物……主人公……。せや! せやった!」

「ど、どうしたのカンサイさん!?」

 普通ならどうしようもない。だが、自分ならこの状況をどうにか出来る。何故って? 編集者を姉に持ち、『カレ』とも連絡を取られる立場にいるからだ。

「待っとってや、ちぃちゃん。うちがなんとかしたるさかいな」

 スマホの連絡先から見知った番号をプッシュ、流れるように通話へと持ち込む。

(お願い。出てや、出てや……)

 カレもまた、連載打ち切りにショックを受けているのだ、意気消沈でヒトと話したくないのは理解できる。だが今、自分の友人は文字通りその身を削り、勝ち目のない戦いをしているのだ。作者にはその作品を預かる責任というものがある。キャラが粗相をしたのなら、それを正すのは――。


『――はい、もしもし。どしたの三葉ちゃん。君から直で連絡なんて』

「"兄者"!? あぁ、よかった繋がった。単刀直入に聞くわ。ストライカーの弱点って何なん?」

『――うん?』

「友達の命が懸かっとるや。これ以上ストライカーに人殺しをさせたらあかん。こんなこと頼めるの、兄者しかおらへんやろ?」

『――はい??』


・桐乃三葉が不可解に発奮した理由や、今回電話口に現れたキャラクターは何者なのか、という理由はこのお話では殆ど語られておりません。

もしもお時間に余裕があるなら、本作と世界観を共有するこちら(https://ncode.syosetu.com/n9654eb/)をどうぞ。だいたいの疑問は読んで解消する……はず。

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