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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
14:ヤツの名はガーディアン・ストライカー
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止めよう、私たちで。


※ ※ ※


「ガーディアン・ストライカーって、この本のこと?」

「ここの連中が、今そこに出て来ているってわけ?」

 話を、ひとまず整理しよう。

 この日、東京都内には自らが正義と信じて疑わない超人集団が溢れ出た。

 彼らは信念のためなら殺人も厭わず、西ノ宮ちはると東雲綾乃は力づくでこれを排除。文字通りの大物を片付けて、ようやく終いかと思いきや、彼らの源流は三葉の手にあるこの創作物なのだという。

「ふたりがさっき倒したんは、”栄光の九人”っちゅう強キャラのうちのひとり。もし奴らがここから出て来とるんなら、まだ続きがあるで」

「続きって何よ、続きって」

 気怠そうな声でそう答えたのは綾乃だ。数えで九年振りの戦闘、それが連戦ぶっ通しとなれば面倒臭いとぼやくのも無理はない。

「でもさ、でもさ。本の中から出てきたってことは、誰かが呼び出したってことなんだよね?」

 反対に、戦い慣れしたちはるはあっけらかんとした調子で問う。

「ここ数ヶ月の話は聞いとる。同じモン……なんなら、多分そうなんやろな」

 三葉は何故かここで口籠り、煮え切らない声で首肯する。

「つまり、アレを呼び出したはた迷惑なやつをシバキ倒せば、全部ぜぇんぶ解決なわけだよね、カンサイさん」

 遅れて駆け付けたみらが、ちはるの言葉に乗っかって、渋い顔をする三葉にそう言い放つ。

「せやな。みらちゃんは賢いなあ」

「でしょでしょー?」

 にこやかな顔で褒めてはいるが、その実言葉に力がない。先程からこの違和感は何だ。三葉には何か心当たりがあるのだろうか?

「ねえ、ミナちゃん」

「さあて、こうなったら善は急げや」

 問いかけんとするちはるの言葉を振り切るように、三葉は大仰な声でそれを遮って。「そーゆー七面倒なの探し出してシバいたろやー。ほらほら、行くでぇみんな」


「待った。大事なことが欠けてる」

 こうなれば、無理に詰め寄っても答えてはくれないだろう。綾乃は尋問を諦め、建設的な疑問をぶつける。

「行くって何。本体見つけて叩こうにも、手がかりらしい手がかりはゼロ。道しるべなんてどこにも無いじゃない」

 意図したものか偶然かはさておいて、今までの相手は魔法のチカラを振りかざす相手が『直接』襲って来たからこそ対処出来ていた。しかし今回はそうじゃない。如何に雑魚を片付けようと、それを産み出す黒幕の居場所は雲のようにつかめないままだ。

「それは……」

 三葉が言葉に詰まり、他もそれに倣い、八方塞がりとなったこの状況。沈黙を破ったのはみらの素っ頓狂な声だった。

「ねぇねぇ、グリッタちゃんグリッタちゃん。この鞄、さっきからきらきら光ってるみたいなんだけど」

「かばん……?」

 先程三葉に押し付けた手提げが、いつの間にかみらの手に渡っていたのか。それが何かと興味なさそげに受け取るが――。

「えっ、何これ……なんで桃色?」

 確かにこれは光っているとしか言いようがない。飾り気のないベージュの手提げ鞄が、開け口の隙間から桃色の輝きを明滅させているではないか。

「それにさそれにさ。この光、かざす場所で輝きが違うみたいなんだよねえ」

「違うって?」

 言われるがまま百八十度に鞄を向けてみる。未だ理由は謎ながら、自分から観て後方――、神田駅側では明滅も輝きも激しくなり、前方である上野方面に向ければその逆だ。この光は、何かを自分たちに伝えようとしているのか?

「そもそも、なんで光ってんのさ」

 あくまで光は漏れ出ているだけで、元凶は鞄じゃない。手探りで中のものを取り出せば、輝きを発するのはたったひとつであることに気づく。

「まほうの、ペン……」急な輝き、向ける角度で変わる光量。同じまほうのチカラ。非科学的ではあるが、続く展開が読めてきた。

「まさか、この先に『本体』がいるってこと? 辿ってけば逢えるってわけ?」

「待て待て流石におかしい。そんな都合の良い展開、どう考えたってありえないでしょ」

 積み上げられた事象は間違いなく『そう』だと告げているが、綾乃の言うことも尤もだ。幾ら何でもタイミングが絶妙過ぎる。

「罠だって言いたいの?」ちはるが戸惑いながらも言葉を返す。「もしそうだとして、ナニを引っかけようとしてるわけ?」

「そんなの、潰しに来るあたしたちを一網打尽にするってことでしょ」

「じゃあ、今の今まで私が襲われて無かったのはなんで? アヤちゃんは奴らに手を出した。私は出してない。あいつらにとっては、邪魔をしたか・しないかの違いなんだよ」

 言われてみれば確かにそうだ。障害と解って自分たちを襲うなら、ペンを持ち『創る』ことの出来るちはるが先に狙われないとおかしい。

「だからって。それを上書きする証拠は……」

 いつまでも続くかと思われた押し問答は、予期せぬ闖入者の出現によって遮られた。

 それまで否定に回っていた綾乃は、ひとり”風”が変わったのを感じ、反射的に背を丸め、強く地を蹴り飛び退いた。

 その、コンマ二秒後。今の今まで綾乃が立っていた場所に色付きの風が舞い、ぴんと指を伸ばした手があった。

(なによ、これ)後追いでやってきた殺気を受けて、ようやっと事態が呑み込めてきた。勘を信じて飛び退いていなければ、今頃綾乃の胸から心臓が抜き取られていたことだろう。


『ほほう。我が一撃を躱すか。成る程、ホプキンスを殺せただけのことはある』

 伸ばした手刀をゆっくりと戻し、前のめった身体を正してゆく。

『誇って良いぞ小娘。私は今の一撃を持って、貴様を物言わぬ肉塊に変えるつもりだったのだからな』

 それはまるで、二輪車を駆るライダーのような風貌であった。身体のラインがスッと出た、上から下まで赤のツナギ。腕の外側に走る銀のライン。空気抵抗を軽減する溝の流れたヘルメット。

『私は栄光の九人がひとり、マッハバロン。セカイの秩序を乱す悪鬼共。あのお方の片腕たる我が手で滅びるが良い』

 男はヘルメットのバイザーを上げ、綾乃らに素顔を見せる。四・五十の精悍な顔立ち。手入れの行き届いた長いあごひげ。歴史の教科書、偉人の項にそのまま居そうな紳士顔がそこにあった。


「マッハ……バロン……!」

 桐乃三葉はその仰々しい名乗りに怖気を感じ、一歩後退った。体格や声の調子だけならさっきのホプキンスの方が怖ろしい相手だったと言うのに。

「ミナちゃん。あれ、知ってるヤツ?」

「名前の付いた敵の中じゃ一番やばい奴や。読者の中でも一番人気がある」

「いや、後半の情報必要?」

 偏った情報だが、あれが一筋縄ではゆかない強敵であることは理解できた。東雲綾乃は殺意を向けるこの老紳士と友人たちとを交互に見やり、どうすべきかを思案する。

(かけるしか、ないか……)踊らされている感は抜けないが、打てる手も他にない。何より、自分以外に『あれ』を止めることは不可能だろう。

「ちはる、前言撤回。あんたたちの言うこと信じるよ。奴らの主見付けてさっさと叩いて」

 それまでの露払いは引き受けた。綾乃は敵の前に立ちはだかり、手の甲を相手に向け、『かかってこい』と手招いてみせる。

『先の一撃を躱せたからと天狗になっているな。その挑発、敢えて乗ろう。四肢を千切り、心臓をもいで、顔の皮を剥いでくれるわ』

 殺気の圧が一点に凝縮され、綾乃ひとりに向けられた。このままじゃやられる。綾乃は瞬時に雑居ビルを飛び越え大通りへと飛び出し、マッハバロンもそれに続く。

「ごめん! あとは、任せた!」

 去り際にこの一言を残すのが精一杯だった。ふたつの影は局地的突風を巻き起こし、地平線の彼方へと消えてゆく。

「アヤ……ちゃん! 行っちゃった……」

「ねぇねぇ、どうするのグリッタちゃん? ズヴィズダちゃん追う? 今から追い付ける?」

「ううん」綾乃が躱すまで、他の誰もが感知出来なかった相手だ。ワープで追ったところで加勢にはなるまい。「私たちは、私たちに出来ることをしよう」

 ならばすべきことはただ一つ。罠だろうとなんだろうと、事件解決への道筋はこれしかないのだ。ちはるは三葉とみらを連れ、ペンの指し示す輝きの元へと動き出した。

「せやな。出来ることを……せんとな」

 意味深に口籠り、暗い顔をする三葉に、敢えて事情を尋ねないまま。



※ ※ ※



「ファンタマズル、ファンタマズル! なんなの、これってばいったいナンなの?!」

『――大きな声で何だい。騒がずとも、私はいつも君のそばにいるよ』

 真っ昼間というのに陽の差さない暗がりの中。『その女』は癇癪を起こし、影の中に呼び掛ける。

 彼女の影を媒介に現実に浮き出たファンタマズルは、力強いバリトン・ヴォイスで女の背後に立った。その顔は目深に被った帽子で隠されており、一切の感情を読み取れない。

「これよ、これ! 私の3Dプリンターが! 急にぴかぴか光り出したのよ!」

 女は頭の上に被っていた、電子レンジめいた機械を外し、ファンタマズルの前に見せ付ける。鈍色の大型プリンターはちはるたちのペンと呼応するように大小虹色の明滅を繰り返していた。

『――どうやら、動き出したみたいだね。君の創るセカイを良く思わない連中が』

「はぁ!? ナニソレイミワカンナイ! そもそも、まほうのチカラは誰にも干渉出来ないんじゃなかったの!?」

『――同じチカラを持つ者は別さ。向こうは戦う術を知っていて、君という存在を屈服させようとしている』

 ひどい後出しジャンケンだ。折角軌道に乗りかかっている時だというのに。女は歯の根を軋ませ不快感を顕にし、表情の読めないファンタマズルに詰め寄った。

「なんとかしてよ! 私のユメはまだ道半ばなの。このままじゃガーディアン・ストライカーは一過性のブームで終わっちゃう!」

『――何も、問題はないと思うけどな』黒いモヤは軽くそう切り返し。『返り討ちにしてやればいいんだよ。君の兵隊たちは誰にも負けないんだろ』

 敵が来たなら迎え撃て。簡単なことだ。自分にはそれが出来る。助けてくれのと頼んだのに、自己責任でなんとかしろと返された。理不尽だ。理不尽極まりないが――。

「解った。やるわよ、やりゃあいいんでしょ。同じチカラを持つヤツなんて八つ裂きにしてやるわ!」

 完全にノセられた形になったが、他に打てる手立てがないのは確か。喧嘩を売るなら買うのが礼儀。

『――そうだ。やってくれ。あの子と君の兵隊、どちらが強いか見せてもらおう』

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