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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
13:ゆめの続きを・1
68/109

私はあなたの着せ替え人形じゃない!

三話ほどでまとまる新章開幕。今後へのジャブとして肩の力を抜いてごらんください。

※ ※ ※


『――これは一体どうしたことか、我々は今、歴史が変わる瞬間に立ち会っているのでしょうか? 絶対王者昴星歌唄が、オリコンチャートから軒並み姿を消しておりますッ』

 2018年4月。渋谷の大ビルに埋め込まれた液晶画面では、日本の音楽シーンが刷新されることをセンセーショナルに告げていた。まほうのチカラで他者を洗脳していた昴星歌唄は、魔法少女グリッタちゃんとの決闘で根源たるマイクを奪われ、他者を惹き付ける求心力を失くしてしまったのだ。

『――新曲・あなたナシでは生きられない、が辛うじて10位に引っ掛かってはいますが、他は全てランク圏外。あの輝きは今何処、時代は、彼女を受け容れなくなってしまったのかァーっ!?』


「頑張ってんじゃん。歌唄さん」

 熱っぽく訴えかける司会とは裏腹に、それを見上げて眺めていた西ノ宮ちはるは満足げな笑みを漏らす。あの時彼女に告げた言葉は間違いじゃなかった。彼女の求心力はまほうなんて無くたって変わらない。時間はかかるだろうけど、歌唄は再びてっぺんを取るだろう。


「もー。何黄昏れてんのよちはる」

「グリッタちゃん、ズヴィズダちゃん待ってるよー、早く行こー」

 親友と娘に手を引かれ、丸まった背筋が自然と伸びる。あの戦いから二か月。ひとり肩をすくめ、人の波に呑まれていた西ノ宮ちはるは、少しずつかつての調子を取り戻しつつあった。


※ ※ ※


「いや、あのね……。悪かったとは思ってますよ。思ってますけどォ」

「えっ。なーに? 聴こえなぁい」

 渋谷のメインストリートを少し離れ、複雑に交差した十字路にひっそりと建つ個人店のブティック。藍色のキャスケット帽に長い髪を束ねて隠し、品のいいサングラスをかけた東雲綾乃は、栗色の長い髪を後ろで束ねた垢抜けない幼馴染に、自らの勧めた服を押し付けている。


「悪かったって! 言ってるじゃん! こちとらね、食ってくだけで精一杯なんスよ綾乃さん!」

「カネならあたしが都合するわよ。きょうという今日は我慢ならない。あんたのその根性、叩き直してやるんだからっ」


 発端は、綾乃が多摩の団地に押しかけてきたことだった。


「――おはよっす。トップモデルの東雲綾乃サマが遊びに来たぞー。おーきーろー」

 インターホン越しに出てこいと促され、着の身着のままドアを開ける。律儀にそこで待っていた綾乃の顔が凍り付いたのはその時だ。

「ちは……、ちは……。あんた、何よそのカッコ」

「ナニって、今そのぴんぽんに起こされたですよぉ。準備するヒマなんて無いんだって」

 EかFはあらんかという乳をよれたキャミソールで隠し、否隠し切れず脇の辺りからゆさゆさと揺れており、下はこれまたくたびれたショーツ一枚。多摩・豊ヶ丘団地は竣工から四十年経ち、住人の多くは五十代近い高齢。加えて朝九時代となれば、他の家に顔を出す者などほとんど居ないが、それにしたって無防備すぎる。

「ちはる。家に上げなさい。今すぐ」

「はい?」

 だが、綾乃が危惧したのは目の前で淫らな姿をした友人ではなかった。その先に続くであろう展開を予期し、家主の了解を待たずして押し行ってゆく。

「家主! あんたの衣装棚はどこ?」

「居間の奥の和室ですぅ……」

 未だすうすうと寝息を立てるみらをかわし、友人の祖母と父が祀られた仏壇に暫し手を合わせ、その向かいに衣装箪笥を開け放す。思った通りだ。綾乃は困惑を通り越して呆れ、踵を返してちはるに人差し指を突き付ける。

「ちはる!! 買い物に行くわよ、準備なさい!」

「えっ……やァでも久々のオフだし寝てたいなって」

「つべこべ言うな! 十分で支度なさい!」

「え、ぇ、え……」

 こうなった綾乃はもう誰にも止められない。お互い歳を重ね、落ち着いているものと思っていたのに。むしろ昔は自分が振り回す側だったはずなのに。綾乃の恫喝を受けながら、ちはるは複雑な面持ちで心中そうひとり言ちる。

「ぉおはよー。どったのグリッタちゃん。きょうはまだ寝てていいって」

「状況が変わったの。みら、あなたもおいで。そこのこわーいおねえさんにカミナリ貰いたくなかったらね」


※ ※ ※


「お、重い……!」

「これまで放ったらかしたウン年間の重みよ。覚悟して噛み締めなさい」

 理不尽極まる買い物も峠を越し、昼下がりのカフェテリア。はちきれんばかりに衣類を詰めた紙袋ふたつに目をやり、西ノ宮ちはるはうんざりと溜め息を一つ。

「別にいらないよこんなに……。外に出てくくらい、スーツがあれば別にいいっしょ?」

「アマい。その時点で女子として終わってる。女のコに取ってオシャレは武装なのよ。ナメられたらそこで終わりなの」

「そんなヤンキーのマウント取りみたいな話をされましても……」

 そう諭す綾乃の声は、心なしか楽しそうに聴こえた。こうした世話焼きも長く離れていた寂しさを埋めんが為のやり取りなのだろう。

「アヤちゃんは高給取りだからいいよ。けど私は中卒で派遣社員だもん。食べてくだけで精一杯」

「なら学つけるところから始めなさいよ。バックに商工会議所居るんだし、聞いてみればいいんじゃない」

 言われてみれば確かにそうだ。仕事以外で関わるまいとして来たが、あれも立派な大人たちだ。自分なんかより遥かに社会というものを知っている。

(話して、解決するものかなあ)とはいえ、自主退学から十年近く経った身だ。簡単に片付く問題とは思えない。

「さ。休憩終わり。トップスは揃えたから次はパンツよ。春用コーデ、今日のうちに全部揃えなくちゃ」

「げげ。まだやるのォ?」

 慣れない『ふつう』を持ち込まれ、順応しろと攻め立てられてはたまらない。嫌な顔をしようが、両手で拒否を示そうが、この幼馴染は止まらない。

「ねぇ。ねぇねぇねぇ」

 最早ちはるの力ではどうしようもなくなったその時、外野だったみらが二人の間に割って入った。

「服を買うのもいいけどさ、折角二人揃ったんだから、グリッタちゃんとズヴィズダちゃん。またしないの? 魔法少女活動」

「え……」

 予期せぬワードを直に喰らい、端正な綾乃の顔が急にこわばる。二十代半ばになった今、蒸し返して来る人間がいようとは。

「ふたりは二人であきる野の魔法少女だったんでしょ? 揃ったんなら一緒にやるのがスジじゃないの?」

「いや。あのね。あたしホラ、モデルさんだから。あきる野の守りはちはるに任せてる……的な?」

 子ども相手に恥ずかしいから無理と言う訳にもゆかず、しどろもどろに言葉を返す。

「こうやってお買い物してる時間はあるのに? それってちょっとおかしくなぁい?」

「ぐ……っ!」

 ドが付くほどの正論である。こういう時の子どもは鋭くていけない。積み上げたロジックを崩され、綾乃の笑顔にヒビが入った。

「ははーん。そうだね、そりゃあそうだよねえ」

 この機を逃す西ノ宮ちはるではない。親友が追い詰められたその隙を狙い、不気味な笑みと言葉を持って攻勢を掛けてきた。

「買い物なんかしてるヒマ無いっしょ綾乃さん。最近妙な連中が増えてきて、ぶっちゃけひとりじゃ守り切れないんスよねえ。また一緒にやりましょうよお」

「ちょっ……。あんたはナニ乗っかって来てんのよ」

「乗っかってなんて。ノッかってなーんてーぇ。元は私ら二人のアレだったじゃないですかあー。こうして再開したのもナニカの縁。再結成しちゃいましょーよー」

「あんたそれ正気? マジで言ってるの……?」

「マジも真剣。大マジですって。また一緒にやれるなら、私ぁ何だってする覚悟でございますよー」

 実のところ、ちはるの側にそうした意思はなく、単にこの窮屈極まる買い物を脱し、マウントを取り返せればそれで良かった。そもそも歳が歳だ。他に道のない自分はともかく、職を得て一本立ちした綾乃が首を縦に降る筈がない。故にこうして意地悪く絡んでいた訳なのだが。


「そ。そこまで言うなら……。やってあげても、いいけど?」

「ほ、へ?」

 そうなればいい、とは思っていたが所詮は理想だ。互いにいい歳だし、乗ってくるはずがない。

「ほへ、って何よ。あんたテキトーフカしてた訳?」

「いや。いやいや。二度聞きするでしょ。マジで言ってる?」

「そりゃ、まあ。ちはるが良いなら、別に」

 取りかけたマウントが再び奪われ、ちはるは気の抜けた声と共にずっこける。彼女は今何と言った? やると(・・・)? 魔法少女を、この歳で!?

「いや。いやいやいやいや。引っかけようったってそうは行かないよ。日本モデル界トップの東雲綾乃サマがまさか、そんな」

「なんか話がネジれてない? 元はと言えばあんたから」

「二十代半ばで、ご当地アイドルだよ?! もう少女どころかおばさん呼ばわりされるヨゴレ仕事だっつーのに、そこに、それに……。アヤちゃんが!?」

「話を聞け話を!」

 九年の空白と孤独、もう何も変わらないであろう諦念の中、急に幸せが振って出て。今のちはるは自分でも口に出していることを理解できていない。

「もー。グリッタちゃんうるさい」

 ストッパーが必要だと感じたのか、みらがまくし立てるその口を手のひらで塞ぎ。

「要するに。グリッタちゃんはどうしたいの?」

「どう……って」

 色んな言葉を並べ立てたが、要点はそこから揺らがない。間に第三者を挟み、平静を取り戻したちはるは、俯き加減でぼそぼそと言葉を継ぐ。

「そりゃあさ……一緒にやれたら……良いだろうけど……」

「なら良いじゃん。したいことすればいいんだよ。グリッタちゃんたちって、そういうひとたちなんでしょ。素直になりなよ」

 お子様というやつは、言葉の端々にある行間を読まずずばずばと。大人はそれが出来ないから苦労しているというのに。

「わかった。分かったよ。なります。なりますから」

「やったあ。これでまた一緒だね、二人とも」

 こちらのキモチより、自分の欲を優先させたんじゃあるまいな。手を叩き飛び跳ねる小さな同居人を見、西ノ宮ちはるは目を細め、勢いで承諾したことを後悔する。

「あ。でも待って」ちはると綾乃を交互に見やり、みらは唐突に喜びの声を止めた。「衣装。グリッタちゃんはいいけど、ズヴィズダちゃんに合う(・・)やつはあるの?」

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