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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
01:職業:高校生兼、変身ヒロイン!
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くらえひっさつ! スターバースト!

なかなか、魔法少女モノというジャンルに慣れません。


※ ※ ※



「ね、ねぇアンタ。ちはる……よね?」

 決め台詞を淀み無く言い終え、くるんと回って決めポーズを取る魔法少女(?)。あまり、お近づきになりたくないけど、聞いてやらねば済みそうにない。

「ふっ、ふっふーん。それは違うよアヤちゃんや」面白い格好のアブない女は、こっちを向いて満足げな笑みを漏らし、

「我こそはキラキラ星第一皇女! 星の魔法をその身に宿し、皆を明るく煌かす光の使者! キラキラ少女グリッタちゃんだ! そうよ! そーうーなーのーよー」

「それ、さっき聞いた……」間違いない。彼女はちはるだ。つい数時間前、ぼろくそに言ってやって別れたあの子が、コスプレ衣装を纏って立っている。

 というか大事なのはそこじゃない。ちょっと待て。待ってって。

「アンタまさか、戦う気でいる?! あいつと」

「そりゃそうでしょ。他にやることある?」

 いや、だから。なんでそういう発想になるの。寸胴で、運動神経限りなくゼロのあんたが、どうしてあの狼とやり合えるっていうの。

「かかって来い来いバケモノ狼! グリッタちゃんが相手になるぞォー」

 駄目だ。こうなったちはるは、もう誰にも止められない。ならば責めて説明を。そのおかしな格好は何なんだ。運痴のあんたが此処に辿り着けた理由は。わかんないことが多すぎる。


『新たな雌の対象を確認。抵抗意思確認』

 向こうにも、引き下がるという選択肢はないようで。既に鼻息荒く上体を沈ませ、飛び掛かる体勢を造っている。

 やらなきゃ・やられる。それが解っているからこその言動なんだよね。倒せる確信があるからイキがってるんだよね、ちはる?

 そうよね。そうなんだよね!?


「ぎょっ、ぎょいぇえええええええええええええええええぅぅうう!!」

 期待を込めた熱い眼差しは、情けない声で前転回避する幼馴染を見て急激に冷めてゆく。

 何よ、結局何にもなってないじゃない。アンタ、一体何のためにここまで来たの。


※ ※ ※


「やっ、やばいやばやば……目がマジだよぉ、めっちゃ怖いぃいいいいいい」

 何よ、何なんよぉ。こっちは魔法のチカラなんだぞう。その時点で勝ってるんじゃないの!?

 あのワン公、わたしが何かするより早く、キバ剥いて跳びかかって来てくれちゃってェ。

 ああ、もう。どうするのよ。どうすりゃいいんよ。



(あれ……?)

 焼けたお餅みたいにぷくっと膨らんだお腹から、微かに響くうめき声。

 妙にお腹の膨らんだ狼だとは思ってた。赤ずきんの世界から抜け出て来たからだと思ってたけど。もしかしてそうじゃない? あそこにうっすら映る手やら足やらって……。見間違いとかじゃなくそーゆーこと?


 ――逃げるの? 逃げ出しちゃうの?


 ぎょっ。何よ、なんでこんな時にっ。やめてってばグリッタちゃん。無理なものはムリなんだって。耳元で甘く舌っ足らずな声で囁かれても無理駄目無理ーっ。


 ――ちぃちゃん。ちぃちゃん。あなたはだぁれ?


 だあれ、って。わたしはちはる。西ノ宮ちはる。いい歳して魔法少女に憧れて、他の子たちからそっぽを向かれ、幼馴染からは罵倒され、それで、それで。


 ――ちがうでしょ。ちぃちゃん、あなたはだぁれ?


 誰って、それは……。

 いや、待って。グリッタちゃんはわたしに『そんなこと』を求めているんじゃない。

 とすれば何。このイカれた状況で、わたしが考えるべきことは……。


「ちはる、危ないッ」

 わ、と、と。今度は躱せた。OK、観てれば躱せる。それは分かった。

 待てよ。これってさ、わたし結構すごくない?! 来るって解ってたらスッて避けられるんだよ!?

 解ってきた。判ってきちゃいましたよちはるちゃんってば。この状況で、この衣装で、考えることなどただ一つ!

「はっ、はぁーっはっはっは!! 我こそはキラキラ星第一皇女グリッタちゃん! 街を脅かすヤミヤミの軍勢よ、在るべき場所へとお帰りなさーい!!」


 全力で、キャラに、なり切るまで!



※ ※ ※



『優先順位を変更。抵抗意思健在。排除。排除。排除』


 生温い涎を滴らせ、漆黒の毛皮を纏った狼が標的ちはるを睨み、唸り声を上げる。

 向こうの身体能力は並。戦うことも知らない牝羊。ちょこまか跳ねるが、捕らえるのに然程苦労はしないだろう。

 それ故に彼は、上体を起こしたちはるの目に輝く煌めきを見落としていた。そこにあったのは先程までの恐怖ではない。やっつけてやるという明確な、意思!

 爪を立て、牙を剥き、前のめりの体勢から狼男が跳んだ。風を切って瞬時に間を詰め、今なおへっぴり腰な目標の下半身を狙う!

「わ、お、おっ!」

 だがちはるは、それをぎりぎりまで引き付け、両足横飛びで回避。目標を逃した狼は、制動叶わず草むらの中へ突っ込んでゆく。

「よっしゃ、行ける。これならやれる!」

 狼が草木を大袈裟に揺らすその最中、ちはるは腰に提げたトワリングバトンを掴み、その先を草むらに向けて突き立てる。

(えと。えとえと……。この後、なんだっけ……、バトンを向けて、振る!? 違う、投げる!? 違う! じゃあ、じゃあ……)

 落ち着け。落ち着くんだ。ペンから産まれた装束、それを纏って出来たこと。現実離れしたこのジャンプ力。それがみんなほんとなら、『これ』だってきっとうまくいく。

 だが、今ひとつ確信が持てない。自分はただのコスプレで。クラスメイトには相手にもされなくて。これも全部夢なのかもしれなくて。

 もし、とか、たら、れば。接続詞が確信を妨げ、続く言葉をちはるから引き出させない。

『捕獲! 捕獲! 捕獲!』

 だが、思い悩む猶予は無い。狼男はとっくのとうに草むらを脱し、再度突進の体勢を取りつつある。

 今決めなきゃ。でも決まるの? やらなきゃ。けど、効かなかったら? この局面になってなお、ちはるは自分を信じ切れていない。

 目の前が霞み、時の流れが鈍化する。敵は既に走り出した。どうする? どうすればいい? どうすれば……。


「こんの、弱虫ィィィいいいいいいっ!!!!!!!!」

「ほ、へ?」

 鈍化した視界に色が戻り、幼馴染の絶叫が一拍遅れて耳に届く。

 一体、何が? 今まさに追突せんとした狼が、軌道を逸らして自分の真横に突っ伏しているではないか。

 声のする方を向いて、ちはるはようやく事態を把握した。綾乃だ。自分をださいと貶したあの幼馴染が、眼前で腹這いに横たわっている。

「あんた、あたしを助けに来たんでしょ?! アレが何なのかは知らないけどさ、何とかするチカラ持ってるんでしょ? だからここまで来たんでしょ? だったら、怖気付いてないでシャンとしろーっ!!!!」


(そっか。そうだ……)

 自分は、あの子を助けるために此処へ来た。幾ら罵倒されようが、らしくないと蔑まれようが、助けられなきゃ、此処へ来た意味がない。

「シャンとしろ、かあ」助けられる側だというのに、相変わらず手厳しい。

 けど、気合は入った。『もし』も『たら』も、『れば』も『でも』も。そんなの全部知ったことか。失敗するかも? そんなの、失敗してから考える!

 ちはるは再びバトンを手に取り、喉元まで出かかっていた言葉を掴み、引き摺り出す!


「集え! あまねく星のチカラ! 来たれ! 我が錫杖の元へ!」

 バトンの先端が紫紺の輝きを発し、周囲の空気が右寄りに渦を巻く。

 間違いない。本物だ。ちはるは確信に口角を吊り上げ、両の手でバトンの柄を握り、続く言葉を解き放つ。

「シュテルン・グリッタ・スタぁぁぁ、ばぁぁぁすとぉおおおおっ!!!!!!!!!」

 輝きは人間大の光球と成り、言の葉と共に風の勢いを伴って放出。『それ』が危険なモノと認識した狼は、前のめりながら駆け出し、林の中をジグザグに逃げてゆく。

 だが、光弾は林の木々を避け、勢いを殺さずその軌跡を正確に追随。あっという間に距離を詰め、着弾。


『理解不能!理解不能! り、か、い』

 哀れ、職務に忠実な狼の使い魔は、爆発と共に生じた竜巻に呑まれ、この世界から欠片も残さず消え失せた。


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