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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
10:職業、変身ヒロイン・兼……
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Go ahead. Make my day(やれよ、楽しませてくれ)

・Go ahead. Make my day.

やれよ、楽しませてくれ

もしくは

やれよ、お楽しみだぜ


 誰も口に出して言わないけれど。自分から進んで聞きに行きたくはないけれど。ここ何年かずっと、私は時の流れの残酷さに苦しんていた。

 魔法少女グリッタちゃんを名乗って活動を初めて早九年。華やかなりし十代はとうに超え、今年でもう二十五。四捨五入すれば二十代じゃなくアラサー呼ばわりされる微妙な年齢。

 平均年齢三〜四十代のファンのおじさん連中は、今なお私をご当地のアイドルとして褒めそやしてくれる。少々脇腹にお肉がついたって、衣装の胸元が少々きつくなったって、商工会議所の人たちは何も言わず接してくれる。

 けれど、それは『何も言わない』だけなんだ。ストレスと睡眠不足の吹き出物は潰しても潰しても出てくるし、時折特番で他のアイドルらとかち合うと、裏で年増とせせら笑って馬鹿にしてる。そうさ、わかっていますよそんなこと。カネの為にアイドルなんてものにすがるのが、どれだけ見苦しいことだなんてさ。


「ほら、何ウダウダ悩んでんのよ。降伏して跪けっつってるのよ、いい加減理解しなさいよ、おばさん(・・・・)


 だからこそ、この何気ない一言を捨て置けない。あんたみたいな若造に! 押し寄せる年波や労苦をろくに背負ったこともない小娘が! 私のことをよくも、よくも!

「何度でも言ってあげるよ。貰ったチカラを無駄にして、カネ儲けなんて汚ったいことやらかす人間に、このチカラを持つ価値なんて絶対に無いの、おばさん(・・・・)

 あぁ、完全にアタマに来た。自分のことを棚に上げて手前勝手なことを並べ立てやがってさぁ!

 やってやる。うまくいくかはわからないけど、他に打てる手立てはない。何より、あんな奴に負けたくない!

「言ってくれるじゃないさガキんちょ。自分が一番エラいって面してさ。まほうのチカラ持ってるってだけで、ナマ言ってんじゃねぇっつーの。ヒトをおばさん呼ばわりして! ただで済むと思うなよ!!」

 パントマイムは人とヒトがいて初めて成立するパフォーマンスだ。あの子が出来るというのなら私にだって!

「『みら(・・)』、屈んで!」

 強い言葉が。はっきりとした名前が必要だった。囚われた金髪の女の子を、そう呼んで屈ませて。上手く行くかはわからない。けど、やってみなけりゃはじまらない!


『バァン!!』


「え……?」

 可視化されない『なにか』に撃たれ、天使を名乗る黒髪少女が大きく仰け反る。鷲掴みにしていたうちの子は間一髪難を逃れ、奴とは互い違いにアスファルトに突っ伏した。

「何が……起こった……?」

 向こうは状況を理解できず、目を白黒とさせて、着弾した右肩の痺れに苦悶している。私の見立てに間違いはなかった。あいつは万能なんかじゃない!

「言ったでしょ。ただで済むと思うなって」

 天使を名乗る中学生は、自信満々に立つ私を見、ようやく事態を飲み込んだようだった。自分は何に依って逆転されたのか? 答えは見た目通りに至極シンプル。私がやつに向けているのは、先程までバカスカやっていたあの指鉄砲。

「馬鹿な……。なんであんたが!」

「パントマイムは演って、視てもらうことが前提のパフォーマンス。腕輪さえ近くにあれば、誰がやるかは問わないみたいね」

 私がバァンと叫ぶ時、奴の腕輪がキラリと光ったのが見えた。根拠を裏書きするものはないけれど、起こってしまえばそれが事由となる。誰もこの考えに思い至らなかっただけだったのだ。

「撃って良いのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ。有名な私立探偵の言葉よ、知ってるでしょ?」

 向こうが苦心して身体を起こすのを、私は邪魔をせずじっと待った。不意打ちで勝ったって意味はない。刻み込ませるんだ。自分じゃ私に勝てないのだと。


「さあ、クライマックスの幕が上がったわ。西部劇のガンマンみたいに、どっちが早いか、試してみましょう」

 キザったらしく斜に構えるのは、震える手を、この動揺を向こうに悟らせないためだ。ビビったら敗ける。余裕綽々でいろ。つけいる隙を与えるな。

「じょ、上等じゃないさ」良し、乗ってきた。唇をぶるぶると震わせて、眉を時折波打たせ。今の彼女はまず間違いなく冷静じゃない。

「早撃ちでアタシに挑もうなんて命知らずもいいとこね。来なさいよ、速ッ攻で片付けてやるんだから!」

「最初に言っておく」パントマイムは芸事だ。その恩恵に与れるとはいえ、まともに殴りあっちゃ本職には絶対に敵わない。だから、打てる手はみんな打っておく。

「あんたの腕を撃ったのはマグレじゃなく狙ってよ。さっきの一発は最後通告。私の『四八マグナム』は世界一強力な拳銃でね。マトモに喰らえば天国へご招待。命乞いするなら今の内よ。アタマに風穴開けられて、スイカ割りみたいにされたくなかったらね」

 いつか、お昼の映画番組で観た警察官の決め台詞。細部は覚えてないが意味はだいたい合ってるはず。威力の大小を競うつもりはないし、実際私に出来たのはさっきのがせいぜい。

「な、なな、舐めくさりよってからにぃい〜……」

 だが効果はてきめんだ。自分の技をそっくりそのまま返されて、自信たっぷりに利用してやると言われた日にゃ、正気なんて保っていられないでしょう?

「来やがれ年増! おま、お前みたいな奴はこの星に存在しちゃいけないんだ。アタシが、ぐっしゃぐしゃのべっちゃべちゃに変えてやるッ」

「星単位とは大きく出たわね」

 私たちの間に立つ電灯がちか・ちかと弱弱しく点滅を続けている。時刻は間もなく19時を回る頃。夕暮れ時から夜の時間に入る合図だ。打てる手は全部打った。後は運を天に任せるのみ。指鉄砲の形を作り、右太ももの横でじっと構える。

(いま)

(だ!)

 明滅が止まり、電灯にオレンジ色の光が点る。最早言葉はいらない。私たちはそれぞれ右の手を振り上げ、人差し指で作った銃口を突き付けた。

『ばぁん!』

『バァン!』

 同時――、いや向こうの方が一瞬早い。見えない弾が空中で互いに交差して……、私の頬を僅かに掠める。

「痛……」天使、を名乗る黒髪の少女の足元が揺らぐ。額には十円玉大の赤い跡が生じていて、右の手でそれを抑えて苦しがっている。

「痛い! イタイイタイイタイイタイイタイ!!!! この、クソ、がア……ッ!」

 まともに付き合えばきっと彼女が勝っていただろう。だからメンタルを徹底的に削いでやった。読み通り、向こうの銃口は怒りでぶれ、私がいまこうして立っている。

「何がドたまをかち割る一撃だァあ……? アタシはまだ、死んで、ねぇぞォ……」

 最初の一発で、私の攻撃じゃ向こうにさしたるダメージがないのは分かっていた。能力を間借りして『使える』だけで、威力では遠く及ばないらしい。

「そうよ。だって普通に殺しちゃつまんないじゃない?」

 だがむしろ好都合だ。転げた天使を見下ろして、指鉄砲をあの子の額に擦りつけて。

「この世にはニ種類の人間しかいない、だっけ? 確かにそうかも知れないけど、それを決める権利は貴方にはないの」

「そんな馬鹿な。アタシにはチカラがあるんだ。だから」

「もういい。聞き飽きた」多分このまま言っても平行線だろう。罰を与えなくては。二度とこんな真似をしないよう、きつく灸を据えなくては。

「おい、ちょっと待て……一体何を」

「決まってんでしょ。あなたのいう断罪、しっかりはっきり執行させてもらうの。独善的に他者を殺し、そのことを屁とも思わない大悪党。そんな奴がのうのうと生きていられるなんて、許されていいはずが無いよね」

「ま、待て……待って……」

 出逢ってすぐの頃、同じことを言ったってこうは響かなかっただろう。けど今となっては向こうが敗者で私が勝者。敗者の理屈は強者には届かない。

「多分、貴方に殺された人たちも同じように命乞いをしたんじゃないかな。それに何て返した? と言うか聞かなかったでしょ。なのに自分は待ってって。虫が良すぎるんじゃないかなあ」

「それは……その、違……」

 もう、まともに言葉を発することさえ出来やしない。涙を浮かべ、歯の根を震わす彼女を見、ほんの少し良心の呵責に苛まれる。

 だが、これはなぁなぁで済ませるべき話じゃない。乗りかかった船だ。ご所望なら被ってやりますよ。

「じゃあね天使さん。来世があったらまた会いましょ」

「や、め、ろ、ぉおおおおおおおおお!!!!」

『ばあん』、息を深く吸い込んで、大音声でそう言ってやる。天使を名乗る黒髪の美少女は、ごめんなさいを連呼しつつ仰向けに倒れ、大の字を作ったまま動かない。


「まほうのチカラは本人ありき。意識が消えれば無くなる、か……」

 少女のカラダにそれ以上の外傷はない。パントマイムを現実にしていた銀の腕輪は、敗けを認めたその時点で輝きを喪っていて、能力を発動することなど不可能だった。だからこそ、彼女をとことんまで追い詰めることが出来た。

「ご、ごめ……ごめんなさい……」

 今謝っているのは誰に対してか。私? この子? 今まで殺めてきた人たちに向けて? 別に知りたくないけども。

 戦いは終わった。スカートの下から温い小水を漏らしてかたかた震えるこの天使に、もう断罪なんて大それたことは行えないだろう。無防備な右腕からブレスレットを外し、私の腕に付けてみる。

「消えた……か」

 何らかの形で本人認証を行っているのだろうか、腕輪は私の手に渡った瞬間、砂となって崩れ去った。これでもう、二度とあんなパントマイムが発動することはない。


「グリッタちゃん、やったね! 一時はどうなるかと思ったよう」

「まあ、おかげさまで」

 脇に逃し、それまでじっと黙っていたあの子が、私の勝利を確信して駆け寄って来た。今となっては、彼女は正しいことを言っていたんだと思う。付き合わされた私にとっては迷惑極まりないけれど。


「ねえ、ねぇねぇ。『みら』って私の名前? ねぇ名前?」

「あっ、ああ〜……」

 一人だけ屈め、という時に固有名詞が必要だったから、本家本元グリッタちゃんの、近隣惑星に棲むお友達の名前を咄嗟につけたんだった。金髪に童顔、眼鏡や三つ編みはないけれど、言われてみればこのこは『彼女』と似ている。

「そうね。みら。みらでいい?」

「うん! みら。みら、みら! わたしはみら! 西ノ宮みら! これからもよろしくね、グリッタちゃん!」

「はい、はい……」

 今更出てけ、って放り出すわけにもゆかないし、出してもきっと犬みたいに戻って来るのだろう。だったら、見えるところに置いといた方が良い。

 こうして、なし崩し的に『みら』と私の共同生活が始まったのでした。まさか、結婚もしていないのに子持ちになってしまうとは……。



※ ※ ※



『――あは。あはは。とっくのとうに枯れ果ててると思ったけれど、まさかここまでやるとはね』

 陽がどっぷりと落ちた夜の街。失神し動かない清浦天使の前に多くの人だかりが出来る中、ファンタマズルはその様子を雲のベッドに寄りかかりながら眺めていた。

『――西ノ宮ちはる。ペンの使い手。あの時チカラを奪わないで本当に良かった。キミはいつだって私を楽しませてくれる』

 ピンク色のシルクハットに純白の外套を纏ったそれは、天使を見限り背を向けて、更に空へと昇ってゆく。

『――決めた。今私が保有する"術者"とキミ、どちらが凄いか見極めたくなった! 西ノ宮ちはる、キミのチカラ、もっともっと見せてもらうんだよん!』


・次回、11.じゃあさ、今は一緒にいようか?

に続きます。


本章で登場して新キャラちゃん。四週前から出ていたくせに、今の今まで名前が出て来なかったのは完全にこちらの構成ミスです。

この場を借りて深くお詫び申し上げます。

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