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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
10:職業、変身ヒロイン・兼……
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パントマイムは世界を制す

「オーケー、表に出な。アタシがチカラの在り方ってヤツを教えてやる」

「え……?」

「わぁおぅ、喧嘩売られちゃったねグリッタちゃん。これは受けなきゃ駄目だよね?」

「えっ、ええ……?」

 いやいやいやいや。なんでこーなるの!?「ご、ごめんなさい。私その、あしたも仕事だから」

「答えは聞いてない」

 一体何のまじないか。あの子が『ばっ』と手を振ると、音もなく座っていた椅子から弾き飛ばされてしまう。右手で踏ん張り、左手で何だ探るけど、その手では掴めず空を切るだけ。


 状況を整理しよう。私は職場からの帰り道、寄りたくもないカフェで一息をつき、居合わせた美少女と口論になって、帰宅ラッシュの往来で対峙している。

「さあて。アタシのことを全否定した魔法少女さん。聞かせてもらおうじゃんか。アタシの何が悪いのかさァ!」

 向こうの言い分は自らが善が悪かの二元論。ぶっちゃけどうでもいいのだけど、仕事場に連れてきた名無しの女の子がそれに否を叩き付け。私達の喧嘩は回避不可能なところに達してしまった。

「よぉし、やっちゃえグリッタちゃん! 大丈夫だよ、わたしがついてる!」

 焚き付けた向こうさんはサッサと外野に回っててさあ。ヒトを巻き込んどいて自分は早くも安全圏? 幾ら何でもそりゃあないでしょ。

「ね、ねぇ……やめようよこんなこと。私達で争っても意味ないし、周りにヒトだっているんだよ。そろそろ夜になっちゃうし、日を改めてということで」

「何寝ぼけたこと言ってんのさ」

 言うが早いか、彼女の右手は外向きに広げ、襖を開けるようにさっと拓く。また(・・)、だ。私達を除くこの周囲すべての人たちが、弾かれたピンボールみたいに右端左端に『寄せられた』。


「邪魔者はもういない。これでいいでしょ」

「う、嘘ぉ……」

 正義の是非を問うていたのだ、理由を付ければ納得するものだと思っていた。完全に私の見込み違いだ。彼女は分別ある人間じゃない。我を通すのに躊躇いのない、歳相応の女の子!


「じょ、冗談じゃないっつーの!」

 交渉は既に意味を成さない。今私に出来ることは、この不思議ちゃんから大急ぎで距離を取ることのみ。

「グリッタちゃん、逃げちゃうの? 向こうがケンカ売ってきたのに!」

 それを買ったのは私じゃなくてあなたでしょーが。私はもう御免なの。悪党退治も、そういうことする連中見るのも何もかも!


「馬ァ鹿。逃げられるわけない、じゃん!」

 後ろの方で『ぴょん』という声がした。幻聴だろうと振り向けば、既に背後に敵影ナシ。ならどこにと目線を戻すと、先回りしたあの子が不気味な笑みで待ち構えている。

「そっちから喧嘩売った癖に、逃げるなんて大人げなくない? なくなぁい?」

(だんだんと、解ってきたぞ。これってば)

 高校時代のアレは悪い夢だ。自分には関係ないと思い続けてきたし、ここ九年もの間、そういった事態に出くわすことも無かった。ああ、最悪だ。寄りにもよって、こんな極端な思想論者の元に、まほうのチカラが与えられるだなんて!

「だぁかぁらぁ、私は売ってないってぇの!!」

「まだそんなことを言うか! たァたァかァえぇッ!!」

 えっと、これって戦うのが目的だっけ? 手段と目的入れ替わってない?!

 もう勘弁してよぅ。私無力なイッパンジンよ。反対とか別にしませんから。こちとらきょうを生きるので精一杯なんですからさあ。


「あっそう。あくまでも逃げ続ける気……」

 そりゃそうですよ。やりあってこっちになんの得があるっていうのさ。徹底的に背を向けて、通りを真っ直ぐ駆ける中、道の方が(・・・・)通せんぼとばかりに曲がり始めた。

「だったら、逃げられないようにしてやるだけよ」

 ちょ、ちょちょちょ!? ナニソレ反則極まりない! 道というミチをゼンマイのバネみたいにぐるんぐるんと……。まるでスケートボードのステージだ。家屋や商店がくっついたまま、私達をホイル焼きめいて包みこもうとしている。

「ほぉら逃げられるもんなら逃げてみろ。それがイヤならかかっておいで!」

 もうこれ以上先には進めない。進めたとして、同じことの繰り返しだ。覚悟を決める他ない。やらなければ自分が、いや関係のない誰かが犠牲になる。


「グリッタちゃん、やるの? 戦うの?」

「お望み通りやってあげますよ」

 このチカラを『敵』に向かって放つのはいつぶりか。恐れるな。このチカラは人を傷つけるためにあるんじゃない。正しく振るえば救うことだって――。

「ちょ、えっ!?」

「ど、どうしたのグリッタちゃん」

「バトン……、職場に置き忘れちゃった……」

 バケモノとやり合うことなんてウン年も無かったんだ、そりゃあ気が緩みもしますとも。だからって、今日? 切羽詰まったこの瞬間、手元に得物がないなんておかしくない!?

「おおっ、やるか? ようやく覚悟決めたかご当地魔法少女!」

 あぁあ、向こうさんはガチるもんだと誤解してるし。いや、待って。確かに覚悟決めようとしたけれど、今ちょっと気が変わったというか? 準備出来てなくなったっていうか……。

「いざ、尋常に勝負ぅうう!」

 向こうが指鉄砲を構え、『ばん』と言ったその瞬間。ねじ曲がって屋根の項垂れた雑居ビル、その屋上に指二本分の穴が開いた。

(ウソ……でしょ!?)

 驚いてまじまじ見つめる暇も無く、次いで次撃、三撃目が放たれる。鉄筋コンクリを一発で砕くあのパワー、貰ったら確実に無事じゃあいられない。

「見たか腑抜け! これが! アタシのチカラだぁあ!」

 右腕に嵌った銀の腕輪が光る度、私の足下を無色無臭の炸裂弾が削り取ってゆく。ぎりぎり当てて来ないのは向こうの良心ゆえ? いいや、チカラに酔った慢心だ。こっちが手札を切らないせいか、明らか私を下に見ている。

「チカラを持つ者は持たざる者を導く使命を負うの。此の世に蔓延る悪を滅し、正しいセカイを創らなくちゃならないの! 金儲けだのアイドルだのとウツツを抜かして、恥を知りなさいな!」

 そう。向こうは完全に私を見下している。自分のチカラが絶対だって思ってて、他はみんな下郎だってせせら笑って。

 だから、先を行かれたことにも気付けない。そのチカラは万能じゃなく、致命的なアナを抱えていることに!


「ずいぶんと御大層な理想掲げちゃって。若いって良いわよね」

 向こうとの距離は目算で六十メートル。接敵はギリ十秒後。対応される前に片付ける。

「なんですって?」

 ミエミエの煽りに引っ掛かった。使うのはやっぱり指鉄砲。そうだ、それでいい。狙え、私に銃口を向けろ!

「そー、ゆー、のはさァ……。アタシを負かしてから言うモンでしょうがッ」

 向こうが『銃』を構えたその刹那、上体を沈めて猛ダッシュ。得物が手元に無くたって、たかだか女の子ひとり。無力化させるくらいわけはない!

「馬ぁっ鹿じゃないの!? 狙ってくれと、言わんばかりに!」

 そりゃそーよ。さあて存分に狙ってくださいな。私の見立てが正しけりゃ、負けて泣くのはあんたの方よ!

「あァそう、そんじゃ喰らって吹っ飛べ!『ばぁん』!」

 声を上げ、私が吹っ飛ぶシーンを予想していたのか。お生憎さま、完全にこちらの読み通り。『声』は私を穿けず、あの子に動揺の呻きが漏れる。

「なんで? なんでよ……『ばん』、『ばん』、『ばぁん』!」

 芸も極めりゃ世界を獲れるってことかしらね。クラスの男子が子どもの頃にやってた遊びの延長線を、まさかヒトを殺せるレベルにまで昇華させるなんて。

 あれは術者の想像力で無に有を産み出すパントマイムだ。ばんと叫べば銃弾が放たれ、どけと手を振れば人を掃くことだって造作もない。けれどパントマイムは客とパフォーマー、双方が居ないと成り立たない演目だ。何が起こったか分からなければ(・・・・・・・)、そこに『有』は存在しえない。

「お、お前……目を!」

「そうさ、目を閉じた!」五感で想像させなくっちゃねえ、下手な鉄砲もそこに無ければ無意味だっていうことよ。

 でも壁や建物、反応を返さない無機物に効くのは見ての通りだ。私が無傷でいられるのも、わざと煽って銃だけを使わせているだけのこと。さあて敵の本陣へご到着。これ以上あんたのスキにはさせないよ。力任せに押し倒し、右手の腕輪を奪ってくれるう!


「ふぅん、戦い慣れてるのね。あんた」

 小さな身体を無理矢理に押し倒し、明らかにそれっぽい腕輪に手をかけたのに、対するこの子はクールなこの一言のみ。負け惜しみ? なわきゃない。天使(えんじぇる)とやらの興味は私ではなく、その後ろの方に移っていた。

「ならさ、相応の戦いをするだけ、だよねッ!」

「にゅ、にゅうい!?」

 彼女が右手で手招けば、腕輪が光って能力発動。不可侵の何かが後ろで隠れるあの子を引っ張り出してゆく。

「ちょっ!? あんた何すんの」

「アタシの邪魔をするのが悪い」

 集中が切れた隙をつかれ、お腹に刺さる蹴りの一発。たたらを踏んで体勢を立て直す頃には、奴はあの子を左腕で抱いていた。

「形勢逆転ね。これ以上ナマ言うようなら、その罪は全部この子が追うことになるわよ」

「あなた、仮にも正義の味方なんでしょう? それが人質取って動くなって、恥ずかしいとか思わないわけ?」

「ええ、そうよ。アタシは正義の味方」この正論に、向こうは一切の揺らぎなく。「アタシの正義を邪魔するあんたに、その是非をとやかく言われる筋合いは無いわ」

「はあ……?」元からおかしいと思ってはいたけど、支離滅裂にも程がある。

 あの子がそれは違うと声を上げたのも尤もだ。こんな子に『チカラ』を持たせるなんてどうかしている。この子を野放しにしていたら、いずれは……。


『違う! 違う違う違う違う違う! ボクは何も間違っちゃいない!』


 止めなきゃ。何としても、今ここで。あんな存在はもういらない。私みたいな思いをする人間をこれ以上出しちゃ駄目だ。


「くぅ……。うっ、たすけ、て……」

「ほぉら、ほぉら。あんたが迷えば迷うほど、この子は苦しみ続けるよ。あんまりアタシを怒らせないことね。わかった? わかったかって聞いてるの!」

 でも、どうやって? 人質は向こうの手中。グリッタバトンは手元になく、あっちはなんでもアリのパントマイマー。距離を取った時点で勝ち目はない。

 何か、何か無いのか? この状況をひっくり返せるものは……。

「ほら、何ウダウダ悩んでんのよ。降伏して跪けっつってるのよ、いい加減理解しなさいよ、おばさん(・・・・)


 は、あ? コイツ、今なんつった? 聞き違いじゃなけりゃ、今……。

「黙ってないでなにか言いなさいよ。いい歳こいて魔法少女気取りのサムいおばさん」

「あ、あ、ん!?」

 この九年間、吐き出すところもなく、しようがないと溜め込んできた『なにか』が、我慢し続けて限界だった『それ』が、封を破られ解き放たれる。

 おばさん。二十五の私を、おばさん? いい歳して魔法少女するおばさん、ですって!?

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