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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
10:職業、変身ヒロイン・兼……
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スキでいるのが、ツラいんです

そんなわけで、過去(2008年)から現代(2018年)に時系列が動きました。

ここからは、二十代後半になってなお魔法少女を続ける西ノ宮ちはるの姿をおたのしみください。



◆ ◆ ◆


 突然だけど。人生もう何もかも投げ捨てて逃げたいな、って思ったことある? この世のすべての責任を誰かに押し付けて、こんなセカイで生きることなんかヤダって思ったことない?

 私はあるよ。というかほぼ毎日。きょうに至ってはもう三回目。いやぁもうやってらんないったら。


「えぇと。お客様ですと、こちらのプランがお得になるかと。本体料金から50歳以上割引が入りまして、そこからWi-Fiをお付けになるんでしたよね。そうなりますとニ割引がかかりましてェ……ぇえーっとぉ」

「あのねえ、結局幾らになるんだね。お得になる、割引するだのって言われても、これじゃあ何もわからないんだけどなあ」

「もも、も申し訳ございませぇん! ええと、ええっとぉ……」

 実質中卒にあまりおカネの問題を振らないでほしい。というかさ、何さこのオプションの数。なんでここまでしなきゃいけないわけ? なんでこんなに重なってくるわけ?


「本当に今の子は。計算や接客もロクに出来ないのかね」

「すみません……」

 私だってさ、来たくて来たんじゃないんですよ事務員さん。派遣会社の紹介で、『君は愛想も良いし可愛いし』なんてセクハラ紛いの肩書き背負わされて来たわけですよ。

「君、もう明日から来なくていいから」

「はい……」

 でしょうね。私が同じ立場なら絶対言ったよそれ。あぁあ、もうこんな客商売(キャクショ)やらなくて清々した。あーーよかったなあ。



「なんて、強がっちゃみたものの」

 来月までって契約の仕事を半月で打ち切られちゃって、次の仕事のアテもなし。給料、ちゃんと満額出るかなあ……。無理だろうなあ。職場の休憩室でコンビニのサンドイッチを齧りながら、続く未来のことを思って憂う。

 資本主義が幅を利かせるこの世の中に於いて、働かざる者食うべからずは無慈悲かつ絶対の真理だ。扶養してくれる家族がいないとなれば尚更ね。

 母は物心ついて直ぐに死に、育ての親たる父も五年くらい前に逝き、行き場のない私を引き取ってくれた親戚のおばあちゃんも、先月肺炎をこじらせて亡くなった。もう、ズボラな私を養ってくれるひとはいない。


 ホントは派遣なんかじゃなく、ちゃんと地に足のついた職で働きたいよ。けどもこの国は学歴社会。高卒どころか中卒でキチンと雇用してくれる会社を私は知らない。


「ちはるちゃん、お疲れ様」

「あ。イシドリ先輩。どーもっす」

 そんな風に物思いに耽っていたら、隣いいですか、とベリーショートの女子社員が相席を求めてきた。くすんだ赤髪、覇気のない表情。キレイなヒトではあるんだけど、髪型と死んだ目が魅力を根こそぎ奪ってる。

「元気少ないね。なにかあった?」

「聞いてくださいよ先輩、私また計算でトチっちゃって」

「あたしもさ、お客さまが欲しがってたスマホカバー、ひと機種前のやつ持って来ちゃってさー。最近の奴は機種変早くてメンドーだよね」

 時代は移ろい、世代は変わる。昔使っていた携帯電話は今では『ガラケー』だの『フィーチャーフォン』だのと呼ばれており、スマホやiPhoneに押し流され、持っている人間のほうが少なくなった。

「わかります。やっと慣れてきた、ってところで機種替えたら、それまでの常識全然通じないんですよねえ」

 イシドリさんは私よりひと月前に派遣で入って来た先輩だ。言っちゃ何だけど、生気の抜けた目と冴えない風体で他から浮いてるせいか、気兼ねなく愚痴を言い合える仲になっていた。

「先輩。実はその……。私、今日で契約切られちゃいまして……」

「えーっ。ちはるちゃん辞めちゃうの? 折角お友達が出来たと思ったのに」

 仕事場に友達作りに来ている時点で何かおかしくない? という台詞を喉元で飲み込み、先輩の言葉に首肯で返す。

「ショゲちゃ駄目だよちはるちゃん。人間、二十も生きてりゃあしんどいことのひとつや二つあるもんさ。そーゆーときはひたすら呑んでひたすら笑うに限る。少なくともあたしはそうして生きてきた」

「はあ……」

 役に立つのかどーかわからないアドバイスをありがとうございます。気は合うのだけど、イシドリ先輩ってばいっつもテキトーな物言いなんだよなあ。


「そりゃね、私だってそうしたいですよ。でもさ……」

 仕事を終えて帰り路に着くその中で、背中にそば立つものを感じた。腕の産毛がその原因の方向を指し示す。

「あー……。あ〜あ~あ~。なんでこんな日にさあ……。こちとらしこたま怒られて派遣切りされて凹んでるっつぅのにさあ……」

 次いで、聞こえてきたのは死にものぐるいの助けてコール。ここからじゃ薄っすらとだけど、南側の遠方に煙が上がっているのが見えた。

 放っておいてサッサと家に帰りたい。浮世の憂さなんて忘れて、ずっと夢の中に浸っていたい。

 けれどあの叫びを放って置くと、間違いなく寝覚めが悪いだろうな。あの時あぁしなければ・って心の片隅で思ってしまうんだろうな。


 ――ちはる。あんたはそっちに行っちゃ駄目。一度やったら二度と戻れなくなる。


「わかったよ。分かりましたよ。やりゃあいいんでしょやりゃあさあ!!」

 建物と建物の間に隠れ、鞄の奥にしまっておいたパクトを取り出し、スライドさせて変身。ところどころテープで継ぎ接ぎしたバトンを掲げ、最早お決まりと化した台詞を発す。

「グリッタ・フュージョン・ゲーーーートっ!!」

 ああ、なんでこんな衣装を顕現させてしまったのだろう。丸出しの肩と脚が寒くて寒くてしようがない。一月の身も凍る寒さに悴みながら、桃色のゲートの中へと身を投げる。


「誰か……誰か、助けて……」

 飛び込んでコンマ三秒後には燃え盛る炎の中。あぁあ、ガスストーブ点けっぱなしでボウボウ燃えてら。布をストーブに近づけちゃだめだって。それやると本気でヤバイから。

「はい。ハイハイハイ。救け来ましたから。ぱぱっと助けますからねえ」

 暖が欲しいとは思いましたけども、こういう暖かさは求めてませんよ私はさ。うわっ、めっちゃ煙臭っ。空っぽの胃の腑がカラダに良くないモノでいっぱいになっちゃいそう。

「あな、たは」

「もういいから。そういうの」

 逃げ遅れたおばさんを米俵みたいにして担ぎ、バトンを振ってゲートを出す。財布とか通帳探すべきかなあ。そこまでしてあげるギリはないけれど……。ああ、もう。今回だけだぞ。こういうのって大体箪笥だよね? 燃える家具にガサかけて、金目のものを引っ手繰る。

「OKこれで良し。口閉じて。舌噛むよ」

 後はゲートを再び発出させて、安全な場所まで遠ざけるだけ。お外で寒くて痛くてつらくても、もう私のこと呼ばないでよう。会社に話付けてまた仕事探さなきゃいけないんだから。


「うぇーっ。何よこれ、材木伐採の体験イベントぉ?」

 一度ツキから見放されると、その後暫く落ち続けるとは誰かの弁。したくもない変身でテンションだだ下がりの所に、あきる野商工会議所からの『応援要請』。この場合求められるのは若さに任せた力仕事ではなく、広告塔グリッタちゃんとしての知名度だ。

「ふざけんじゃないわよ。そんなのやってられ……」

 なんて、怒り任せに否をぶつけるにはお財布の中が心もとない。相手は新興のテナントではなく老獪なる自治団体だ。契約をきちんと履行さえすれば、ギャラを渋るようなことはない。


「あー……。えっと、モシモシ会長さんですか。はい、私ですグリッタちゃん。お時間の方は……」

 子どもの頃はこの姿になるのが大好きで、友達もいて老若男女に持て囃されていたのに。

 これが老いってやつなのかな。二十歳を過ぎた今となっては、スキでいるのがつらくてつらくてしようがない。



※ ※ ※



 此の世には二種類の人間しか居ない。良き行いをして社会を回す善人と、そんな人間を搾取し、簒奪する死んで当然のくず。アタシ――、清浦天使(きようら・えんじぇる)は齢十四にしてセカイの絶対なる法則に辿り着いた。

 当然、アタシも善人の側の人間だ。抗う力もなく、苦しむ人々をただ観ている事しかできなかった。けれど『今』は違う。善悪というくびきを飛び越え、それらを律するチカラを手に出来たのだ。


「どーもー。おじゃましまーす」

 さてさて、今回『罰』を加える団体は指定暴力団の『仮狩カリカリ組』。麻薬を仕入れて売りさばき、組同士の諍いで周辺住民を苦しめる悪逆無道の連中。死んでイイヤツが服を着て歩いているようなもの。


「何だガキテメっコラァ!」

「お嬢ちゃん、ここはキミみたいな子どもが来ていい場所じゃないよ。早くお帰り」

 現れたのは、刈り込んだ髪に傷だらけの顔の男と、逆にインテリめいて整った顔立ちの眼鏡。どっちも趣味の悪い黒服スーツ。挨拶に敵意と否定で返すの、ちょっと大人気ないんじゃない? アタシが単なる子どもと馬鹿にしているでしょ。

 オーケー、やってやろうじゃないの。右の手で『銃』を作り、あたまの悪そうな方に向ける。

「オウオウオウ、何のマネだ? ぁあ?」

 そりゃあそうよね、わかりっこないよね。じゃあさ、そのまま死んでよ。

『ぱん』

 右腕に嵌めた銀の『ブレスレット』がきらりと光り、ガラの悪い黒服の脳天に十円玉くらいの穴が開いた。どたっと倒れてもう一人が混乱する中、そちらにもアタマに穴のプレゼント。

「ええっと……。これってどこに行けばいいのかな」

 奥に控えるエレベーターには行き先なんて書いて無くて。参ったなあ。これじゃあゴールがわかんないじゃんさ。

「ま。順当に最上階だよね」

 時間はかかるけど、続く未来は変わらない。たとえ『そう』じゃなくたって、そこから順繰りに降りてゆけばいいだけだしね。


 最上階には飾りげのない長廊下がひとつ。対して人員は……。観た感じ四人かな。まだお昼を回った所だもんね。この時間はみんな外回りかな。

「何だお前ッ」

「出島と入中は何をやってる」

 悪党の質問に応える義務はナシ。頭を狙って『ぱん』、『ぱん』と。勿体無いのぉ、綺麗に磨かれた渡り廊下が真っ赤に染まっちゃってるよお。

「このガキ、ウチの組に楯突いてタダで済むと思うなよ!」

「望みは何だ! どうしてこんなことを」

 あぁ、うるさいな。『ぱん』『ぱん』、も一つオマケに『ぱん』。邪魔者はみんな床や壁にキスしたまま動かない。こうなると静かでいいよね。


「さて、と」廊下の最奥に他より大きいドアがある。ここが親玉の巣と見て間違いない。ドアノブを触らず(・・・)、ノブを持つ手を作って右に回す。

『ぎぃー、がちゃん』


「今だ! 撃てぇええええい!!」

 あー、そういや入り口は監視カメラで見られてたっけ。となれば普通対策するよねえ。アタシが扉を開けたその瞬間、待ち構えていたのは三つの銃口と鉛玉のフルコース。

「やったか!?」

 なーんて、少年漫画の負けフラグみたいなこと言っちゃって。なワケないっしょ。正義の味方はアクには絶対屈しないんだよ。


『はーい、無敵バリアー。全ッ然効きませーん』

 手のひらをぐるんとかざして作った円。虹色の光が銃弾総てを押し留め、中折のまま足下にこぼれ落ちてゆく。

 扉の先に居たのは二人の黒服と、机の前でアタシを睨む趣味の悪い紫スーツ。あれが黒幕だよね。分かりやすっ。

「それじゃ、『ばん』『ばん』。ついでに『どん』」

 左右ふたりをさっさと片付け、真ん中の親玉を押し潰す。加減はしたよ? 雑魚はともかく親玉だもの。聞いとかなきゃいけないことがあるじゃない?

「あなたが組長さん? 死ぬ前にさあ、ちょっと善行積んどく気なぁい?」

「ふざけるな。ウチのシマを荒らしやがって、タダで済むと……」

「『どん』。質問には「はい」か『いえす』で答えてくれなきゃ」

 あぁあ、こりゃあ全身の骨ぐちゃっぐちゃだなあ。もう二度と自分の脚で立ち上がれないんだろうなあ。アタシの質問にちゃんと応えてくれれば五体満足でいられただろうに。

「あなたさ、組長だから色々持ってるよね? 日本中に散らばった構成員のリストとか、不当な契約でヒトを縛る権利書とかそーゆーの。全部出して」

 うん? なーに? あぁ、全身複雑骨折で声も出せないか。いーよいーよ、目で示してくれれば自分で出すから。どこにあるの?

「あー、そう。そこの戸棚? おっけーさんきゅー」

 戸棚の前で右手をかざし、『開け』の掛け声と共につまみを回すフリをする。どんな鍵を使おうが、アタシに開けないものはない。

 あらあら。次から次へと悪どい証拠が出るわ出るわ。これで仮狩組は壊滅ね。ひとつひとつ拠点を叩いて、構成員総てを消し去ってやる。


「お、おまえ……何者、なんだ」

 まだ喋れる余裕があるとはさすが組長。でも喋れば喋るほど苦しくなると思うんだよね。もういいよ。必要な情報は手に入ったし。


『どん』

 平にした右手を組長にかざし、振り下ろす。虹色のもやが彼の身体に伸しかかり、潰れたトマトの出来上がり。うわーっ、高そうなカーペットが真っ赤っ赤。これ洗っても落ちないよ。ご愁傷さま。


『――お疲れ様にゃエンジェル。また悪い奴らをおしおきしてきたのかにゃ?』

「そーだよファンタマズル。いやーっ、良い事した後のジュースは格別だなあ」

 事務所から外に出ると、アタシの猫型(・・)マスコットが労いの言葉を掛けてきた。ファンタマズル。この『まほうのブレスレット』をくれたどこかのセカイの妖精さん。

『――エンジェル。キミのチカラの使い方は実に面白い。もっともっと、悪いやつを成敗しておくれにゃ』

「モチのロン。頼まれなくたってやっちゃうよ。さあて、まずはどこから手を付けようかなあ」

 此の世には二種類の人間しか居ない。良き行いをする善人と、その足を引っ張る悪党のどちらか。そしてアタシは悪しきを挫き弱きを護る正義の味方。怯えて待ってろ悪人共。お前らは片っ端からアタシのこの手であの世に送ってやるんだから。

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