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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
07:出しちゃいますよ、新衣装!
43/109

いつだって、ワタシらしく

年内の更新は今回までになります。皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。


※ ※ ※


 雲一つない快晴に恵まれた日曜の昼。あきる野から電車を乗り継ぎ二時間弱。ご当地ナンバーワンアイドル・関東代表を決める地区予選は、ここ大田区産業プラザにて大々的に開催されていた。

 ヒトガタカマキリ・オガミを倒して以降、ちはるたちは時間に追われながらも個々のタスクをこなし、大会出場にまで漕ぎ着けた。マイナーな大会とはいえ都内のイベントだ。プラザの大広間には二百人近いヒトが詰めかけ、特設ステージで推しのご当地アイドルに声援を送っている。

「うぅっ……。緊張してきた……おなかいたい」

「ここまで来て今更何よ。覚悟決めて座ってなさい」

 凛とした顔で出番を待つ綾乃とは対象的に、ちはるは冷や汗をかいて震えており、何を言っても治まる気配はない。陸上部でそうしたプレッシャーを一手に引き受ける綾乃と違い、長くカーストの底の底にいたちはるにとって、この規模の人混みは生まれて初めての経験なのだから。


「グリッタ&ズヴィズダちゃーん。まもなく出番となります。ご準備の方をお願いしまーす」

 だからといって現実が配慮してくれるわけもなく。如何に魔法を操り、奇妙なカマキリたちを退治しようとも、運営にとってはイチ参加者に過ぎないのだ。


「あー、もう! あとは野と成れ山となれ! 壇上で思いっきり恥かいてこい!」

「う、わあっ!?」

 味方のはずの綾乃でさえも例外ではない。戸惑う彼女の手を引いて、求めに応じステージに登る。


(どうしよう、どうしよう……。あのステップまだ上手く行ってないし、歌詞のあの辺とかリテークしたいし、ああこの衣装も可愛くなってる? 浮いてない? というかわたし場違いじゃない? ご当地アイドルだ何だって持て囃されてるけど、結局はグリッタちゃん大好き人間なだけだしあああああ)

 駄目な理由は幾らでも思い付く。止めるべきだとわたしが自分(わたし)に追いすがる。今からでも無理だと言うべきだ。そう思い、俯いたちはるの耳に、どこからか優しげな声が響く。


『ちぃちゃん。大丈夫だよ、私がついてる』

 聞き知ったその声に背中を押され、顔を上向けばそこは舞台。二百人近い群衆が一様に自分たちを見、歌い踊るのを今か今かと待っている。


(ほら)

 隣の綾乃からマイクを渡され、ようやく事態が飲み込めて来た。なる程彼女の言う通りだ。押し潰してきそうな緊張は立つその瞬間まで。立ってしまえばどうということはない。

「はーい! わたしたちグリッタ&ズヴィズダちゃん! あきる野の街をヘンな怪物から守るご当地魔法少女でっす! 今日は魔法はひとまず封印。歌とダンスでグリッタちゃんの良さ……アー、あきる野のことを好きになってくれたらなと思います」

 暗記した口上を滞ることなく言い終え、完全に準備は整った。ヒトの目など気にするな。やりたいことをやってやる。綾乃に無言で目配せし、互いの気持ちが一致した。


「それでは、聴いてください。『わたしは好きをあきらめない』」

 舞台袖から流れる和やかなイントロを聴きながら、ちはるは胸に、綾乃はマイクに魔力を宿し、ぐぐと息を吸い込んで。


「『ずっと違うと思ってた。そんなの無理だと思ってた』」

 歌い出しはゆったりと。一言一句を噛みしめるように。

「『わたしはこれが好きなのに。好きだと叫んでいたいのに。普通と違えば叩かれて』」

 全然ご当地の曲じゃない。これでいいの? 三葉たちに尋ねたこともある。けれど彼女たちはGOをくれた。大舞台で自分の好きを叫んで来いよとそう言った。

「『隠しているのがつらくって。誰とも繋がれないのがくるしくて』」

 これは殆ど自分の半生だ。高校二年になってなお、幼稚な趣味が抜けない自分。幼馴染とも距離を置き、孤独に背を向け平気なフリをして。そんなのただの強がりだってわかっていながら。

「『だからわたしはさらけ出すの。堂々と好きだと言いたいの』」

 サビに至って曲調がアガり、声量も右肩上がりに増してゆく。あの気恥ずかしさは既に無い。ただこの気持ちを歌に込めて。


「『わたしは好きをあきらめない。自分に嘘はつきたくない。だってわたしはわたしなんだもの』」

 もう誰の目も気にしない。自分はこれで良いんだって。認めてくれる人がいる。肩を並べてくれる友達がいる。ずっとこの瞬間を夢見ていた。想い続ければ夢は叶うんだ。


「『いつだってワタシらしく。誰よりも自分らしく』」

 感極まった二人の間に、背後からぬっと出てきた『3人目』。"グリッタちゃん"は続く歌詞を勝手に引き継ぎ、喉を開いて声を出す。


(これ、アンタの演出!?)

(ごめん。わたしにも解かんない)

 歌うばかりかそのまま踊り、ニコニコ笑顔でライブを継続。ちはると綾乃はどうするべきかと無言で目配せ。

 だが、観客の側に否定の意志はない。瞬間こそどよめくも、魔法少女らしい演出と即座に理解。驚きを声援に乗せて舞台に届ける。


(なんだかよくわからないけど)

(やってやる!)

 この勢いを殺しちゃいけない。ふたりは無言でその答えに思い至り、詰まりかけた歌詞を引っ張り出す。

「『自分を信じてGO・GO・GO! 夢は自分だけのもの、ヒトの目なんて気にしちゃノンノン!』」

 声を重ねるのが気持ち良い。歌に合わせて踊るのが楽しい。いっぱいの歓声をその身に浴びるこの感覚がたまらない。

 自分に正直で生きていて良かった。右に立つ幼馴染と、左に立つ憧れの人を一瞥し、西ノ宮ちはるは今、幸せの絶頂にあった。


「『わたしは好きをあきらめない! 誰に何を言われたって、わたしはわたし。絶対曲げたりするもんか!』」

 あぁ、この瞬間がずっと続いてくれたなら。ポーズを決めて歌い切り、ちはるはやりきった顔でマイクを一直線に振り上げる。


「ありがとう! ございました!!」

 自分はもう、あの頃みたいな日陰者じゃない。観衆からの賛を一手に浴びながら、西ノ宮ちはるは満ち足りた笑顔でそれに応える。

 ここが人生好転の上り坂。その頂点だと気付くのは、もう少し先の話であるが……。


※ ※ ※


「やぁー。二人とも、地区大会突破おめっとさんでーす! かんぱぁい!!」

「かんぱーーーーい!」

 夕焼けが空の彼方に消える宵。京急蒲田からあきる野に戻ったちはるたちは、桐乃家の客間で大会優勝を祝した宴を催していた。

 他の街のアイドルにはない魔法の力と、底上げされた歌唱力と身体機能。彼女たちが歌い切った時点で後は皆消化試合であった。故郷のことを何一つアピールしていないという批判も見受けられたが、その圧倒的パフォーマンスを前に他の小言は掻き消えた。


『さぁさ。祝いの席だし。みんなで召し上がって。さつまいもの甘露煮ですよー』

「で、さあ。こいつはナニ?」

「う、うーーん……」

 グリッタ&ズヴィズダを優勝に押し上げた第一の要因が彼女だ。以前でちはるが着ていたドレスを身に纏う『グリッタちゃん』そのもの。それが重箱に甘味を携え、菜々緒から皿を借りて皆に振る舞っている。

「なんかね。わたしにもよくわかんなくて。ラブリンドレスを着ていたら、何の前触れもなくパッと現れちゃうんだよー」

「現れる、って……。そんなナニかの必殺技みたいな」

「そう……それそれ! なんて言っていいかわかんないんだけど、たぶんそうだよ必殺技! この子絶対そうだって!」

「どこのセカイに甘露煮携えて現れる必殺技がいんのよ?! そもそもこれ作ったの? 完全にグリッタちゃんそのものじゃない。それが、ナンデ、どうして??」


『まぁまぁアヤちゃん(・・・・・)落ち着いて。はい甘煮』

 渦中の『必殺技』は、動揺する綾乃をなだめすかし、皿に乗せた甘煮を彼女に供し、食べてほしいと促してくる。一度は断るが、あちらがそれでも食い下がるので、仕方無く受け入れる。

「なにこれ。おいしい……?」

『良かったァ。久しぶりに(・・・・・)に作ったから、受け容れられるか心配で』

「えっ……?」

 東雲綾乃はちはるの幼馴染。小さな頃から西ノ宮の家とは面識があり、よく手作りのおやつをご馳走になっていた。

 おばさんがおやつに、とよく出してきたのがさつまいもの甘露煮だった。隠し味のはちみつが味に深みを与え、芋なんてと敬遠する子どもたちにも好評だったという。

「なんで、あんたがそれを」

『さあ。どうしてかしらね』

 曖昧な言葉ではぐらかし、いたずらっぽい笑みを浮かべる『グリッタちゃん』。まさかあなたはと尋ねる前に、彼女の姿はちはると重なり、この次元から消え去った。


「あーあ。りりちゃんも来られれば良かったのにな」

「せやな。ここ何日かガッコも休んどんのやろ? いい加減、お見舞いとか行かななあ」

 祝いの席だというのに、功労者のひとりたる花菱瑠梨の姿はない。電話をしようにも番号がわからず、家の場所も知らされていない。

 あの事件から一週間。ここに立つ誰もが、瑠梨とは一度も顔を合わせていないのだ。

「花菱、瑠梨……ね」

 その名前に唯一怪訝そうな顔をしたのは綾乃だ。ちはるに親しい者たちが次々囚われるその最中、彼女だけは標的にすら上っていない。前回――、末妹トウロの時は捕まえて人質にしたというのに。

 確証はない。けれどこれは本当に偶然か? 答えを知るのは花菱瑠梨ただひとり。そして、彼女は今――。



※ ※ ※



『――君と出会って早ニ年。ようやく願いが叶うわけか』

「ニ年……。そうか、もう」

 黒蟻たちと次女オガミが集めて来た『存在格いのち』をキャンバスに注ぎ込み、固い表面がぶるると振れる。全てはこの瞬間の為に。トウロ・オガミは尖兵にすぎない。『彼女』という強大な存在を産み出すための。


『――彼女さえいれば。私の望む面白いモノが観られる。その言葉に嘘はないね?』

「勿論だ。目を覚まさせてやるよファンタマズル。まほうの力が選んだのは西ノ宮じゃない。このボクだってことを」

 二人目のグリッタちゃんの出現で、協力者ファンタマズルの興味は向こう側に寄ってしまった。違った道を正さねばならない。そうでなければ、散って行ったふたりの賢人たちに申し訳が立たぬ。


「さあ、目を覚ませプレディカドール。グレイブヤード三賢人、その頂点。ボクの忠実なるしもべ」

次回、08.ボクの名前は花菱瑠梨、につづきます。

これはネタバレになりますが、恐らく春先にはかなり大きな進展があるかも。

ある、かも……?

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