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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
06:キモチの錯綜
35/109

私はずっと、貴方のお傍に……

章としてはここで一区切り。

このおはなしがやりたくてこの章を構成しました。

誰も彼もがすれ違ってます。


「畜生、畜生畜生畜生ォ! このメスガキ共! よくも、よくもぉおお!」

 弱り目に祟り目とはこのことか。ストロボライトのフラッシュに目を焼かれた上、綾乃の右回し蹴りで左肩を破壊され、苦悶の声を漏らして左右にぐらついている。

 彼女の両腕に置換されているのは身の丈程もある巨大な大鎌。両の脚で踏ん張り操る分には問題ないが、肝心要の肩を穿たれ、垂れ下がったままとなればお荷物以外の何者でもない。

 哀れグレイブヤードの三女トウロは、あるじを守る術を奪われ、継戦能力を完全に失った。


「終わった? ねぇ終わった?」

 素っ頓狂な声で周りにそう尋ねるのはちはるだ。事前に綾乃が話した通り、三葉が動いたその瞬間、飛び退いて目を塞ぎ、彼女の合図を待っている。

「ええ。もういいわ。あんたもこっち来て」

 乱れた息を整えて、苦しむトウロを見定める。義手を失い、目を覆わんと無駄に右腕を振り回している。あれが自分たちを誘い込む演技だとしたら見事だが、そうする余裕は彼女には無いだろう。


「ちはる、あんたは瑠梨を。仕上げはあたしに任せて」

 不自然に上擦るその声は、無抵抗の獲物を前にした舌なめずりか? 否、だとすれば小刻みに震える握り拳に説明が付かぬ。

(どうして……。どうして今更! こんなことに、心が揺れる……ッ!)

 如何にこっぴどく苦しめられようと、どれだけの人間を殺め、うず高く死体の山を築き上げてきた悪党だとしても、失明しのたうち回るあのカマキリには命がある。そうしなくてはならない理由は幾らでもあるが、殺めた責任は総て彼女にのしかかる。

(何を今更、今までやって来たことでしょ? 今ここでやんないと、もっと沢山のヒトが死ぬのよ? やらない訳にはゆかないでしょ!?)

 そうだ。迷っている場合じゃない。東雲綾乃は歯の根を噛み、渦巻く黒い感情を奥に追いやった。

「骨はあたしが拾ってあげる。あんたはここで今! 確実に……」

 彼女の揺れ動く人間性は、向こうに考える暇を与えるだけでしかなかった。あと一撃で息絶えるほどの消耗。最早抵抗出来まいという思い込み。死にゆく生き物は誰しも最後まで足掻くものだ。

 それは、『与えられたいのち』たるトウロだって例外ではない。


※ ※ ※


 見えるもの総てが白に覆われ、色が失せ、形も分からず、他者との距離をも掴めない。踏みしめる砂利石のごつごつとした感覚が、ぎりぎりトウロを現世に繋ぎ止めている。

「こんな……。こんな・ことが!」

 戦い方さえ学べば容易く超せると思っていたのに。二人がかりだろうが打ち勝てると思っていたのに。自信の総てを打ち砕かれ、トウロの心に悔恨が積み重なってゆく。

 自分ひとりでは奴らに勝てない。向こうが二人ならこちらもふたり。姉たちの力を借りねばならぬ。だが絵の中(グレイブヤード)に住まう彼女たちを解き放つには、今までよりも多くの存在格が必要だ。こんなところでむざむざ死ぬわけにはゆかない。

(なら、どうする? どうすれば……)

 ホワイトアウトした視界の真ん前に、少し前に視たあるじの顔が浮かぶ。自らの不甲斐なさを叱責し、赦した上で発した言葉。あの時彼女は何と言っていた?


『――過ぎたものを悔いたってしょうがない。この状況を利用しろ。使えるものは何でも使え』


 瑠梨は自らを囮に連中をここまでおびき寄せて見せた。危険を省みることなく、自分が勝つと確信した上で。報いなくては。あるじの信頼にこれ以上泥を塗ることは許されない。

 使えるものは何でも使え。この局面をひっくり返すにはどうするか。あるじ共々生き残るためには何をすべきか? 採れる手段は唯一つ。三女トウロは目以外の器官を研ぎ澄まし、ある一点に向かい跳んだ。


※ ※ ※


「クソっ、何なんだよ今のヒカリ……!」

 人質として外野に置かれた璃梨に、この奇奇怪怪なる状況を把握する手段は無い。

 どちらが優勢で、どちらが不利なのか。わからないまま発せられたこの閃光。咄嗟に目を瞑り、失明だけは回避できたが、眩しさにぐらつくのはトウロと同じ。目を瞬かせながら悪態をつき、大手を振って周囲を探る。

「りーりーちゃーーん!! どーーこーー?!」

 遠方より迫るその声は、明らかにトウロのものではない。西ノ宮ちはるが勝ったのか? だとすれば彼女はどうなった? あの一瞬で、向こうでは何が起こったのだ?

「もう大丈夫だよー! グリッタちゃんとズヴィズタちゃんで、あのカマキリは――」

 片付けた、とでも言いたかったのか? だがその声は最後まで言葉を紡げず途切れてしまう。

 光に慣れて目を見開いた先に映るのは、転んで強かに額をぶつけるちはると、それを追い越し、眼前に現れた黒い影。

「ハハ、アハハ! 油断したねメスガキ共ォ!!」

 重力の枷から解き放たれ、璃梨の身体がふわりと浮いた。これはトウロか? 磨り潰さぬよう加減をし、あるじの身体を抱かえて飛んでいる。

「『動くな』。言うことが聞けなきゃ、こいつを上下真っ二つにしてやる」

 この場に璃梨とトウロの関係を知る者はいない。先を越されたちはるからすれば、命惜しさに人質に手を出したようにしか見えないだろう。

 だが事実は違う。彼女はただ、あるじを守り逃がしたいだけ。女王の言いつけ通り、打てる手を総て使って最善手を導き出しただけなのだ。

 ちはるたちの目的は璃梨の救出。奪回すべき相手を楯にされては動けまい。成功を確信するトウロだが、それ故彼女は続く展開がどうなるかまで理解が及んでいなかった。


「かえして」

 怒の感情が言の葉に宿り、纏う衣装が朱に輝く。それまでの戦いは『遊び』の延長線だった。自分が傷付き倒れても、遊びの結果ならしょうがないと彼女は思うだろう。

「返して」

 だがそれを第三者に求めたとなれば話は別だ。遊びの範疇を超えた悪意は、なんとしても取り除かなくてはならない。

「返して!!!!」

 朱の光は衣装を伝いバトンに伝播。衣装の解れは朱の光があて布となって修復され、詠唱を経るでもなく魔力が集束されてゆく。

「グリッタ・ステラブレイク!」

 カマキリに穂先を突きつけ、溜まった魔力を解き放つ。だがその直線上に居るのは楯にされた瑠梨。喰らえば四肢が弾け飛ぶだろう。

 しかしちはるは一切勢いを緩めはしなかった。彼女を同類と認識したからか? 否、知る機会など今の今までどこにもない。

 そうする必要が(・・・・・・・)ないからだ(・・・・・)。放たれた五つの光弾は直前で軌道を変え、瑠梨の躰をすり抜ける。


「馬鹿……な……!」

 光のうち一つがトウロの左下腹に着弾。身体が急に浮き上がり、ぎりぎりのバランスで掴んでいた瑠梨を取りこぼす。

 左に傾いた身体に次撃が命中。右下腹を打ち、トウロの身体が更に浮き上がる。最早人質を気にする必要はない。三、四、五と連続で貰い、カマキリ女は瑠梨から見て百メートルほど上方へ打ち上げられた。


「集え、あまねく星の力。来たれ、我が錫杖の元へ」

 これだけ微細なコントロールをしながらも、ちはるは既に大技の準備を整えていた。努めて怜悧な声で呪文を唱え、虹色の輝きをバトンの先に集束させる。

「シュテルン・グリッタ、スターバースト!!」

 上空へかち上げ、無抵抗の相手に最大技を情け容赦なく叩き込む。牽制弾を受けた時点で、いや瑠梨を人質に取ったその時、既に勝敗は決していたのだ。


「じょ、女王さまぁ」

 強大な魔力をその身に受けて、トウロの身体がブロックノイズ状に分解されてゆく。

 死にゆく彼女は運命を受け容れ、川原に投げ出された瑠梨(あるじ)を見下ろす。二転三転の連続で今なお事態を把握出来ず、目を白黒とさせる主人の姿を。

「私は、ずっと、あなたのお傍に……」

 届かないと分かっていながら。聴こえているかどうかも知らぬまま。従者トウロは産みの親たる瑠梨の身を案じ、彼女に向かい手を伸ばす。伸ばした鎌は先に失せ、空を掻いても意味がない。

 チャイナドレスを身に纏うヒトガタカマキリ・トウロは、断末魔に想いを伝えることすら叶わず、夜の闇へと溶けていった。



「おぉおっ、たーまーやーっ! かーぎーやーっ!」

 トウロの中に収まっていた存在格が解き放たれ、虹色の輝きが花火のように弾け飛ぶ。流れる水を一所に留めるためには相応の容れ物が欠かせない。それが無ければ吸われたいのちは空気中に拡散し、二度と元には戻らない。

 彼女たちはそのことを知っているのだろうか? 知っていたなら、こんな風にはしゃぐことなど出来なかった筈だ。


「りりちゃん! 今度こそ、もう大丈夫だよ! あのこわいカマキリは、わたしとアヤちゃんでやっつけたから!」

 川原に転がる瑠梨を助け起こし、獲物を狩って主人に見せるイエネコのように、自らの手柄を高らかに宣う。ちはるからすれば怯える彼女を気遣ってのことなのだろう。事実、瑠梨はちはるの方を見ようとせず、その小さな身体をかたかたと震わせている。


「うん? どったのりりちゃん。おなかでも痛いん?」

「別に……なんでもない。何でもないから」

 ちはるが、助けた瑠梨に違和感を持ったのはその時だ。最初は怖さが抜けて無いのだと思っていた。次いでこの二転三転する事態を呑み込めていないのだと考える。

 しかし、瑠梨の反応はそのどちらとも一致しない。震える割に声は努めて冷静で、花火・カマキリ・魔法のチカラ。どれに対しても全く動揺していない。

(豪胆なコだなあ)その背に綾乃と三葉の声を浴びながら、ちはるは謎の理由を雑にまとめて結論付けた。大事なのは全員五体満足無事なこと。他を気にする必要はない。

 尤も、矛盾を突き付け問い質したところで話は平行線を辿ったことだろう。

 なぜならば。



(堪えろ……。耐えろ、堪えろ、耐えろ! 声を出すな、顔を向けるな、ありがとうなんて死んでも言うな! 堪えろ……!)

 頑なに見せようとしないその顔は、憎悪と恐怖でぐしゃぐしゃに歪んでいた。配下たるトウロを無慈悲に穿ち塵と変えた連中への尽きぬ怒り。同時に、自分ひとりでは何も出来ない無力感。『夢』を踏みにじり、善人面をした奴らに礼を尽くさねばならないこの状況。

 そのどれもが、孤独に生きてきた今まで経験したことのない感情だ。


(これではっきりした。奴らは敵だ。手を繋ぐだなんて以ての外。いつか必ずこの借りは返す。必ず……!)

 良く言えば道を外れ、乱れたレールを舗装した。悪く言えば友人を得て『ふつう』になるチャンスを棒に振ったとするべきか。瑠梨は激情を噛み殺し、今この瞬間、ちはるたちとの訣別を誓う。

 そうだ。ここで躓いていてはいけない。果たすべき夢の成就まで、何もかもを踏み台にして生き延びる。それがグレイブヤード女王の、あるじとしての弔いだ。



『――アハハ。やるねえ魔法少女ちゃん。伸びる延びるよチューインガムのように』

 河原を離れ遥か上方、空にかかる薄雲に腰を下ろし(・・・・・)、楽しげな声でちはるらを見やる者が一人。

 白のシルクハットにピンクのコート。周囲の闇とは交わらず、どきつい桃色が明らかに他と『浮いている』。

『――正直事故みたいなものだったけど、これはこれで面白い。こっちに舵を切ろうかな』

 帽子の下に浮かぶ顔は如何なるものか。そもそもファンタマズルとは何者か。騒乱は未だ、始まったばかりだ。

次回、07.出しちゃいますよ、新衣装!

につづきます。

そろそろクリスマスシーズンなので、そっち系も兼ねたパワーアップ回になりそうなよかん。

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