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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
06:キモチの錯綜
31/109

あんたらさ、真面目に捜す気ある?!

今回まではまんがタイムきららみたいな感じのお話です。

こんかいまでは。



※ ※ ※



「みなさーーん。今年の夏はあっついよー。日陰に逃げて、水分摂ってえー」

「おやおや。今年の見廻りさんは可愛こちゃんだこと」

「えへへーっ。それほどでもぉ……ありまぁす!」


「ね、ねっちゅう……その……あの……」

「ほらほらシノさん、もっと背中張って、大きな声出さな。ちーちゃんを見習ぃい。初対面のおばあさんにやって全然物怖じしとらんでぇ」

「あ、あいつ基準で物事を測るんじゃあないわよ! だいたいね、あたしのは……その、見えるのよ……」

「えー。何を隠すことあるん。陸上で鍛えた立派な腹筋やん。何に恥じることもあらへんて」

「ちょっ!? 触るなッ、見せるなーッ!!」

 自分は、ここに何をしに来たのだろう。炎天下の秋川駅往来で、買い与えられた麦わら帽子のつばを抓みながら。花菱瑠梨は姦しい三人組に虚無と諦念に満ちた目を向ける。

「あのさ……」

「うん? どったのりりちゃん。やっぱりまだきつい? 日陰入る?」

「それはもういい。いいんだけど」

 巷で噂の通り魔を倒し、自分たちの知名度アップに利用する。ほんの一時間くらい前までそんな話をしていたはずなのだが。していることといえば、街頭で熱中症予防を訴え、市の商工会議所が用意した団扇を配るだけ。

「捜すんじゃないの? 見つけるんでしょ? 見つけなきゃいけないんでしょ?!」

 だから恥を忍んでここにいるのに。お前たちは探す気があるのか? 街を覆う脅威を背を向けて、それでも魔法少女と言えるのか? 母譲りの癇癪が顔を出し、無駄に大声を張り上げる。

「あはは。やだなありりちゃん。わたしたちだってちゃんと探してるよう」

「捜索のキホンは地道な聞き込み。街のことはそこに住むひとらに訊くんが一番や。せやろ?」

 無論、苛立ちの理由などちはるたちには届かないし響かない。当たり散らしたところで理解されず痴態を曝すだけ。

「だいたいさ。あんたにはカンケーない話っしょ。何アツくなってんの。そこまでする理由でもあんの?」

「そそ、それは……」

 自分がその親玉で、見つけ出して手元に置きたい。四面楚歌極まるこの状況でそう告げたらどうなるか。いちいち言葉にするまでもない。

「まーまー。どうでもいいじゃん、そんなこと」

 どうでもいいと流されるのは少々癪だが、助け舟には違いない。西ノ宮ちはるは綾乃の追求を平とかわし、瑠梨の手を取ると。

「聞き込みは足が命。だいぶ調子戻ってきたみたいだし、瑠梨ちゃんも一緒にやろーよ? ね? ね!」

「えっ、ぼっ、ボクも?!」

 街頭で、恥ずかしい格好をしたこいつらと共に? 冗談じゃない! 言って即座に踵を返すも、左肩を起点に後ろへ半回転。戻ったところでちはるに手を引かれ、強引に往来真中に引っ張り出された。


「はーいみなさんご注ぉ目! こちら、グリッタちゃん・ズヴィズダちゃんに続く、三人目のあきる野ご当地魔法少女でーーす!!」

「やめろ、やめてくれ! ボクは、こういうのが一番! いちばん、苦手なんだよぉおおおおおおお!!!!」



※ ※ ※



「さっきは悪かったよ。ねー機嫌直してよぉ、りりちゃーん」

「つうかさ……良いとか悪いとかそういう問題じゃなくて……」

 四人掛けのテーブルを挟んで手前側。ちはるはむくれた璃梨に謝罪を述べ、残る二人はマイクを握りデュエットに勤しむ。ほんの少し耳をすませば、壁の向こうから聞こえる調べは多種多様。ちはるたちは避暑と詫びを兼ね、近くのカラオケ店へと足を伸ばしていた。


「ふん。やるじゃんあんた。はじめての『あわせ』で完璧についてくるなんてさ」

「カラオケはうちの十八番。気弱で声の出ぇへんお姉のため、何度通ったと思っとるん」

「オッケー、じゃんじゃん行くわよ付いてきなさいっ」

「はいな! その言葉、そっくりそのまま返してまうでえ」

 歌うあちらはあちらで互いの技巧を認め合い、固い握手を交わす。何を歌っているのかはわからないが、少なくともちはるたちにマイクが回ってくることは無さそうだ。

「あのさ……」

「うん? どったのりりちゃん。空調寒い? わたしちょっと暑いの苦手でさー」

「そうじゃない。そうじゃなくて……」

 さっきもこんなやり取りを交わした気がする。などと突っ込んで向こうは反応してくれるだろうか。恐らく意味はないだろう。

「もういい。解った。好きにして」

「えっ! いいの? ほんとにいいの?」

 ここまで計算して動いているのだとしたら、余程上手くやったものだと褒めてやりたい。そんな訳ないなと思いつつ、瑠梨は眼前の屈託なき微笑みを見、心中そう一人ごちる。


「ねーねー。アヤちゃんそろそろ代わってよう。わたし、りりちゃんと一緒に歌いたいんだけど」

「ふぁっ!? いや、いやいやいや、ボクは歌……歌なんて……」

 日曜日でしかも夏場の真昼。両隣の部屋には暇を持て余した他の女子高生グループがおり、出入り口の壁を通しその大音声が伝わってくる。

 いや、そんなことはこの際どうでもいい。歌ってなんだ? カラオケとは一体? 友達に恵まれなかった瑠梨にとって、学校の授業以外で歌を唄うという行為そのものが初体験。

「何事も経験だよりりちゃん。ほらほらGOGO!」

「だから、なんでキミは……そんなに強引なんだよッ」

 ヒトとの距離感をつかめない魔法少女狂いが、イヤだと言って引き下がるはずも無く。

「おっ、やる気? あたしたちに立ち向かおうっての?」

「えぇやん、えぇやん! ここで一発えらいの見せたってや」

 断るかと思っていた向かいの二人は、瑠梨の番と聞いて快くマイクを譲り。いよいよもって逃げ場がない。


「ほら、ほーらっ。はじまるよ瑠梨ちゃん」

「ぎゃっ!? まだ心の準備が」

 言われて周囲を見回せば、そこにあるのは握らされたマイクと、ディスプレイに躍る見たことも聴いたこともない曲。これは誰の選曲だ? ちはるに左腕をホールドされ、先の二人はマラカスを持って待機中。


「いくよ! 声合わせてこー」

「え、えぇえ……」

 瑠梨の風船がしぼむような声を契機とし、未知の曲のイントロが始まる。逃げ場も逃げ口上も通用しない。ならばどうする? 覚悟を決めて乗り切るしかない。瑠梨は大きく息を吸い――。



※ ※ ※



「あー。その、ウン。無茶振りしちゃってすいませんっした」

「あたしもごめん」

「うちも……」

 夕暮れ間近のファミレス四人席。瑠梨を陽の当たらない上座に置いて、三人の少女が深々と頭を下げる。

「いやあの……。遊びナシで謝られても……困るっていうか」

「えっ! 許してくれるの?!」

「それとこれとは話が別」

「ふぁい……」

 曲も知らねば唄ったことさえない瑠梨の『はじめて』は、正に惨憺(さんたん)たる結果に終わった。多少の失敗はぼやかし、笑って見過ごすちはるら三人でさえ言葉を失い、誠意を込めて謝罪するしかなくなっている。

 とはいえ。こうも謝り倒されると瑠梨としても怒るだけでは居られない。腹正しいが責めきれず、如何ともし難いモヤモヤ感が周囲に残り続けている。

「まっ、取り敢えずティラミスどぞー」

「あたしのも。ここのプリンはなかなかイケるのよ。ほらっ」

 謝意の表れか、奢りのデザートを次々に頬張り、口の中に幾つもの甘みが広がって。なんとなく意見を封殺された気がしないでもないが、この感じは悪くない。

「あー。りりちゃんばっかりずるいーっ。わたしも、わたしもー」

「はいはい。あんまりはしゃぐな」

「慌てんでもスイーツは逃げへんよー」

 自分と同じく他との距離感がつかめない阿呆に、気遣いの出来る友人たち。窮地に陥り鈍化する意識の中、花菱瑠梨はふと思う。


(友達がいるって、こんな感じなのかな)

 ひとのパーソナルスペースにずかずかと押し入って、一所に留まらんとする自分をほうぼうに連れ回す。はっきり言って迷惑だ。迷惑に違いはないけれど。

(なんだかちょっと、あったかい)

 母から愛されず、代わる代わるの父からも蔑ろにされて来た彼女にとって、この距離感は如何なカタチに映ったのだろう。


「ねーねー。どう? どう? おいしい? ねえ、美味しい?」

「顔が近い……」

「や。そういうこと聞いてるんじゃなくてさあ。どーおー?」

 同じような境遇のくせして。きっかけが無きゃ自分だって燻ってたくせに。目のたんこぶでしかないちはる(こいつ)が、自分の生活をこうも変えに来ようとは。

「おいしい。おいしかったから……いい加減顔、離して……」

「そっかあ。やっぱりそぉかあ! よぉし、わたしもおんなじの頼もーっ」

 騒々しいし、うっとおしくって、目障りなやつらだけど。それでもこの日常は悪くない。瑠梨のずっとぶすくれたままの顔が、ほんの少しだけ綻んだ。


「あっ、ちょっと良い笑顔」

「まじで? あっ見逃したわー。ごめん花菱さん、もっかい! もっかい笑ってぇ」

「は……? なにそれ知らない。つーかしない! しないから!」

 ああ、こんな日常がずっと続いてくれたなら。無理だとわかっていてもなお、このあたたかさを手放したくない。そう思うこと自体が間違いだとしても。



※ ※ ※



「やー。今日は楽しかったなあ。通り魔、見つからなかったけどさあ」

「ごめんなあ花菱さん。結局うちらの都合で引っ張り回してもうて」

 未だ熱気の残る夕暮れ時。あきる野の街を駅に向け、横並びに進む四人の少女。通り魔を捜すという主目的を見失い、瑠梨の歓迎パーティーはそろそろお開き。目的は果たせなかったが、各々の顔には満足げな笑みが浮かぶ。


「最初のうちはどーかと思ってたこれも、着ているうちに慣れちゃったわね……」

「おっ、アヤちゃん慣れた? コスプレ慣れた? いいねぇいいよォキマってきたあ」

「な……。何言ってんだばかちは。慣れ……、こんなの、慣れてたまるもんですか」

「謙遜しなくてイインダヨ。認めちゃってもイインダヨ〜」

 他愛のない会話。和やかな雰囲気。何もかもがはじめてで、悪くないなと思い始めたその矢先。


「うん……?」

 右端を陣取る三葉が物音に気付き、通り過ぎた路地裏に目を向ける。

 物音、という例えは適切ではないか。重たい何かが落ちてきて、水滴がトントンと絶え間なくリズムを刻む。

「これ、って」

 お願い。間違いであって。そう思い、引けた腰で凝視するその目に、夕闇に照らされた奇妙なシルエット。


「あら。あらあらあらあら」

 夕闇に照らされ、顔こそ見えなかったが、そこに立つ者の姿は認識できた。すらりと伸びたしなやかな腕と、思わず見惚れる美しいくびれ。

 だがしかし、常人の手に草刈り鎌などついていない。鉄臭いにおいが風に乗って鼻腔を刺激し、この不快感に答えを示す。


「これは僥倖! ターゲットが! とぼけた顔してそちらからやって来るなんて!」

 一歩。また一歩と近付く度、黒塗りのシルエットが薄まって、その姿が顕となる。纏いし黄色のチャイナドレスには、返り血の赤黒で描かれた斑模様が付け足され、常人ならざるマリーゴールドの瞳が獲物の姿を射竦める。


「憎き憎き魔法少女共ぉ、待っていたわよ、この時を!」

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