表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
05:わたしたち、この街のご当地魔法少女です!
28/109

やばい。なんか涙出てきた

第五章はここでおしまい。

次回辺りから少しずつ、バトル系の様相を呈してゆきます。



※ ※ ※



「はーい、じゃあこっちに目線くださーい」

「ズヴィズダちゃんちょっと表情カタいなあー。もっと自然にニコーっと」

 あきる野の駅を出て徒歩十五分。中心市街の端に位置するフォトスタジオの一角を借り、カメラマンが幾枚もの写真を撮ってゆく。被写体となるのは街に住まうふたりの女子高生。纏う衣装はコスプレではなく魔法少女装束。


「ほらほらアヤちゃん。カメラマンさんあぁ言ってるよ。もっともぉーっとキラキラすまいる!」

「あ、あんたは良いわよね……。気楽で」

 ああ、なんで自分はこんな場所に立っているのだろう。東雲綾乃ズヴィズダちゃんは恥ずかしさを無理くりな笑顔で噛み殺し、ここ数日の道筋を振り返る。


…………

……


「あたしたちがご当地で! しかも魔法少女!? アンタら一体何言ってンの?!」

「えー。そんなにヘンなことぉ?」

「魔物と戦う必要もないし、地域振興にもなって、お財布にお給金がぎょーさん入るんや。双方Win-Win、えぇことずくめやと思うんやけどなあ」

 桐乃三葉の家があぁも豪邸なのには相応の理由があった。彼女の父・桐乃巌きりのいわおはあきる野市の市議会議員で、地域振興の一翼も担っているというお偉いさん。

 東京都に属しながら周囲を山に囲まれたど田舎。それを売りにしたレジャー計画もそろそろ頭打ち。『新しい何かが必要なのだ』と娘は何度も夕食の席で聞かされて来たのだという。


「設定とか歌詞とかは全部お姉に頼むから。東雲さんたちは軽ぅくポーズ取って台詞喋ってくれたらいいからあ」

「は?! ちょっと待ってよ、歌詞って唄うの?!」

「そーだよ歌うの。あたしたち魔法少女であきる野市のローカルヒロインなんだよ? 歌のひとつやふたつくらい!」

「本気で?! あんたらまじで言ってるの?! ねぇ、本当にやる気なの!?」

 決意に満ちた目で首を縦に振るふたりを見、綾乃は既に後戻り出来ないことを理解する。

 自分は何をしに来た? 彼女たちに対し、自分は『ふつう』じゃないと告げるはずじゃなかったか?

 綾乃の認識が甘かった。彼女たちは輪をかけて『ふつうじゃない』。こんな連中と一緒に居れば、自分が抱える異常なんてちっぽけ極まりない。


「わかった。わかったわよ。やればいいんでしょ……やれば」

「やったァ! さっすがアヤちゃん、はなしが分かるぅ」

「オッケー。ほんじゃ準備しよやー。まずは衣装合わせ。ちーちゃんに頼んでえ、あの姿にちょっとデザイン盛ってえ」

 最早あれよ、あれよである。抱え込んでいた悩みも忘れ、有無も言わさず桐乃の家に連れ込まれ……。



「それじゃあ張り切って参りましょー。いち、にの、ハイ!」

『――あきる野の街にキラ星ふたつ。わたしグリッタ、あたしズヴィズダ。ふたりで護るよこの街をー。魔法のチカラでみんなみんなにっこにこのきらっきらー』

 衣装合わせの次はカラオケショップ。防音機能の貸し切りルームを陣取って、二人で歌声を重ね合う。


「これ……。あのお姉さんが書いたの……?」

「良い歌詞だよね。歌いやすいし、フリとかも全部書いてあるし」

 衣装に足されたフリフリは三葉、歌詞や設定(いずれもあきる野の出身の仲良し魔法少女ということで括られたらしい)は姉の菜々緒が総て仰せつかったという。

「良い! 良いよぉ西ノ宮さん東雲さん! 二人の良さが顔に出てる! っていうか顔が良い! さ、次はその場でくるっとターン、ターンよ!」

 作詞に加えて撮影を任され、ハンディーカメラを回す姉菜々緒は、鼻息荒く少女たちに指示を飛ばす。低予算ゆえの身内登用か? それとも就活難民に職を与える公的事業か? 熱に浮かされたその顔には、なにか別の意図を感じてならないが――。

 というか、その場でミュージック・クリップを撮ることまで想定しているとはどういう訳だ? 綾乃は機敏に、ちはるはやや緩めで可愛らしく。それぞれの良さを活かした振り付けになっていて怖ろしい。



「ああ、なんでこんなことに……」

「うん? どったのアヤちゃん」

 最早、何のためにここに来たのかさえ忘れてしまいそう。東雲綾乃はため息と共に絡みつく疑問や不安を横に置く。


「なんでもない。こうなったらとことんやってやる」

 ぐちゃぐちゃごちゃごちゃの釣瓶打ちで感覚が麻痺してきたのだろうか。正直それは否定しない。

 ここは、とっくに異常の坩堝だったのだ。狂いの度合いを気にしたってしようがない。同じ馬鹿なら踊らにゃ損損。綾乃――、否もうひとりの魔法少女ズヴィズダちゃんは総てを振り切って立ち上がる。


「陸上だろうがご当地少女だろうが、やるからにはてっぺん取るわよ! 覚悟はいい?」

「おうさ! さっすがアヤちゃん!」

「えぇでえぇで。いやぁ面白うなってきたわあ〜」



◆ ◆ ◆



「はーいみなさーん! きょうもグリッタちゃんのために、わざわざ山ん中にまで来てくれてありがとぉー! それじゃあ、いっくよー!!」

 鳴り出した音楽に合わせ、頭の中のイメージをなぞるように、ステップを踏んで唄を歌う。ここ何年か、呼ばれる度に歌った曲だもの。凡ミスなんてあり得ない。

 ずっと昔、コスプレ遊びをしていたもう少し先の方。平らな野外に粗末な陽避けと雑に引かれた十数枚のマット。ご当地とはいえ、これがアイドル魔法少女を迎えるステージとは笑わせる。

 皮肉めいて織り込んだ『わざわざ』という言葉に、商工会議所のおじさんたちがざわついたのを私は見逃さなかった。向こうには睨まれたけど、「そうよ。聞こえるように言ったんだもの」って顔で完全シカト。


『L! O! V! E! ラブリーグリッタちゃん! ハイっ、ハイっ、ハイハイハイッ!!』


 それでも、未だに十人近いオッサンたちが法被を纏って奇声を上げる様には辟易する。少し前までは普通に声を上げるだけだったのが、今じゃサイリウム片手に四本持ちで一糸乱れぬあほ踊りだよ。時代は変わった。

 企画者のおじさんたちも、趣旨と外れた彼らにうんざりするところはあるらしいんだけど、グッズを買ってお金を落としてくれるから文句は言えないらしい。純粋に林業体験する人たちは既に山奥へ。オッサンたちはライブが終われば即解散。住み分け出来てりゃそれで良いんだってさ。


 ツキイチ、ときたま週二回。市のおじさんたちの思いつきに付き合わされて、こうして歌い踊ってカネをもらう。収入に繋がってるから文句は言えないけど、お客もプロモーター側もよくこれでOKするよね。えらくお金かけたから後に退けないんだろうけど。


「グリッタちゃんお疲れさまー」

「いやあ、きょうも良かったよ」

 粗末なバックヤードに戻ったところで、商工会議所のおじさんたちがタオルと飲み物を手にいつもの労い。

(何が今日もじゃ。いっつも同じことしか言わんくせに)

 なんて不満を喉元に留め、『ありがとうございます』と笑顔で応対。少なかろうが月々払いの安定した仕事だ。いつ切られて宙ぶらりんになるともしれないハケンのそれとはわけが違う。



「私って……こんなことがやりたかったんだっけかなあ……」

 帰りのモノレールの道すがら、楽しかったあの頃に想いを馳せる。ミナちゃんにノセられ、アヤちゃんと始めたご当地魔法少女。あの時は楽しくて楽しくてしようがなかったのに。


(あっやばい。涙出てきた……)

 昔はあんなに楽しかったのに。なんで今はこうなっちゃったの。私はなんでこうなのよ。


「あの。大丈夫……ですか?」

「ハンカチ、要ります?」

「ごめんなさい。大丈夫です。大丈夫ですから」

 あぁもう、ぁあもう、あぁもう! 帰り路でめっちゃ恥かいたじゃん。ハンカチ持ってる。持ってますから。やめてよホントに。構わないでって言ってるの。


「オヨ。およよ。いたいた。こっち方向なんだ」


 こんな状態だから、気付けなくてもしょうがないって思うよね? 私が外野なら絶対責めない。

 みっともなく鼻を垂らす私の三席後ろ、あきる野の駅からずっと尾けてきたヒトがいることに。



…………

……


「たーだーいーまー」

 言ったっきりで返ってこない返事を聞き流し、鞄を下して上着を脱ぐ。

 ああ、寒い寒い。暖房、暖房と……。かじかむ手を擦り合わせ、リビングの石油ストーブをスイッチオン。

「あれ……?」押したはいいが温風は無い。何度押そうがエラーメッセージを吐き出すばかり。

 ふざけんな。こっちは仕事帰りで暖を求めているんだよ。キカイのくせに生意気な。この私を暖めてみせんかいコラぁ。

 などと叫び、蹴りを一発入れた時。いつもとは違う音がすることに気付く。これはなんというか……。がらんどう?

「あー。はいはい。おっけー完全に理解した」

 すべての行動の原則は等価交換。温風を送るストーブだって、燃料がなければ動かない。

 そうか。そりゃそうだよね。私だってご飯食べなきゃ動けないもん。ストーブさんにごめんねを言って、玄関の予備タンクに手を伸ばす。

「は……?」そちら側にも重さがない。つまりそれってどういうこと? 考えるまでもない。この家には石油の備蓄がないってこと。

「はあ、あああ?」クルマがないし重いから、ってなあなあにしてたツケが回ってきたか。ポンプで少しずつ入れるうち、まだ大丈夫、まだ行けると鼓舞し続けた結果がこれだよ。

「くそう! 生意気だぞ! キカイのくせしてこんにゃろう!!」

 寒さと怒りに加え、自己の怠惰まで加わって。既に正常な判断など下せない。空のポリタンクをぐいと持ち上げ、入り口目掛けてぶん投げる。


「痛っ」


 投げたタンクが跳ね返り、私の足元に横滑り。いや、痛いって何よ。扉は物を言わないでしょ。グリッタちゃんの魔法じゃないんだから。

「何も言わないで上がりこんだのは謝るけれど、これってちょっと乱暴すぎじゃなぁい?」

 え。何この声。私、独りで帰ってきてたよね? 尾けられた? 悪霊か何かでも連れ込んだ?

「あ、あ。”消えた”まんまになってたね。ごめん・ごめん」

 そんな言葉と呼応して、玄関に観たことのない靴が現れる。私のよりも二回り小さな赤い靴。続いて出ずるは黒タイツで覆われた細く寸胴な二本の脚。子ども……? この声は子ども? いや、なんで子どもが私の部屋に?

「ごめんねグリッタちゃん。用事があって、あきる野からずっと後を尾けていたのです」

 すぅーっと影が玄関に伸び、残りの姿が露わとなる。灰色のワンピースの上から暖かそうなジャケットを羽織り、グリッタちゃんがプリントされた桃色のポシェットを肩かけにした女の子。背丈からして小学生高学年だろうか。中学生でこの丈はないはず。

「足ヨシ、影ヨシ、あたしヨシ。これでもう怖がられなくて済むよね? ね?」

 プラチナブロンドの長い髪と、頭頂に乗っけた金のティアラ。服装さえ正せば英国のお姫様、って言われても違和感のないような愛らしい顔立ち。

「あの。あなたは……一体?」

 けれど、一番驚いたのはそこじゃない。思わず敬語で尋ねたそれに、その子は何と答えたと思う?


「そう。そこなんだよグリッタちゃん。あたしってばさ、一体誰なのかな? かなあ?」

次回、06:キモチの錯綜、につづきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ