表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
05:わたしたち、この街のご当地魔法少女です!
27/109

奪われたなんて、思ってない


※ ※ ※


「オーケー、ここなら他に邪魔は入らない。聞かせてもらいましょうか、なんでこんなことしたのかさ」

 ミイラ取りがミイラとはこのことか。花菱瑠梨は綾乃に連れられ、人気の無い校舎裏に立っていた。

(まずいぞ……。非常にまずい)

 当初の予定ならファンタマズルの書いた筋書きによって綾乃を焚き付け、間者の三葉と宿敵ちはるの関係をズタズタに出来ていた筈。なのにカンペを見破られたばっかりにあれよあれよとボロが出て、今ではすっかり尋問ムーブ。

(畜生どうして……、何故出ない!)

 頼みの綱の三女トウロも、何度鳴らせど話し中。今もなお通話禁止の図書館で本を読み耽っているせいだ。無論昨晩以降会っていない瑠梨にそんなことなど知る由もない。


「何よだんまり? 黙ってりゃ見逃すと思ってるワケ? なわきゃナイでしょちゃんと答えなさい」

「むぐ……ぐ……」

 片や生来のコミュ障で、片や長年陽キャの中で生きてきた女。二の句を継げず戸惑う瑠梨に、綾乃は容赦なく突っかかる。

(逃げなければ……。今のボクじゃ、ヤツには勝てない!)

 けれど、どうやって? 言葉を交わさない限り東雲綾乃は自分のことを離さない。ならば続く答えは一つだけ。瑠梨はごくんと唾を飲み込み、覚悟を決めて綾乃に視線をぶつけると。


「み、みてたんだ。西ノ宮ちはるとその友達。それでキミが意地を張って斜に構えてるとこを」

「はあ?」

「アイツが邪魔だったんだろ。運動部のエースなんて地位を蹴って、友達の為に動いたってのに、肝心の西ノ宮はキミをガン無視してるんだから」

 視たというのは当然嘘だが、中身はファンタマズルがもたらした情報だ。渡されたカンペを元に推測すれば、彼女が何を求めているかくらい想像できる。

「邪魔なんて……そんな……」

「此処にはボクとキミしかいない。おためごかしをする必要なんてないぜ」

 なんとなくスイッチが入って来た。配下の蟷螂共にそうするように。なけなしの威厳を振り絞り、とびきり高圧的に振るまってやる。瑠梨の言葉からどもりが失せ、当惑するターゲットをその手に捉えた。

「言えよ東雲綾乃。キミは桐乃三葉(あのオンナ)が憎いんだろう。親友を奪っていったアイツのことが」

 最初からカンペになんて頼らなければよかった。綾乃の心は既に揺れていて、あとひと押しさえあれば十分だったのだ。たった二言で立場が逆転、今度は綾乃が俯いて言葉に窮する番だ。

「奪われたなんて……。思ってない」

 数十秒ほど逡巡し喉の奥から想いを絞り出す。「奪うもなにもない。あの子が抱えてる『すき』と、あたしのそれは全ッ然違うもの」

 マウントの取り合いは、いつ何時切り替えされるかわからない。自信ありげにこの場を切り抜けんとしていた瑠梨は、この風向きの変化を敏感に感じ取っていた。

 三葉の姉と同じだ。自分も一緒だったんだ。ただ認めるのが怖かった。自分はふつうだと言い聞かせ続けてきた。

「親友なんて。そんな軽いものじゃない。あたしが、あの子に抱いてる想いはさ……」

「何を、言ってんだ……おまえ……?」

 もう瑠梨をどうこうしようなんて気は失せていて。綾乃は両頬をばしんと叩き、凛とした目を彼女に向ける。

「そうだよ。あんたの言う通り。あたしはちはるのことが好き。この歳で皆になびかず、自分は自分だって振る舞ってるあの子が好き。自分のこだわりに正直なあの子が好き。隣に立って支えてやりたいなって思う」

 長台詞を言い終え息を吸い、一拍置いて『ありがとう』と続け。「あんたのお陰で吹っ切れた。アイツには自分で話してくる。面倒かけて悪かったね」

「えっ……。あぁ、うん。そりゃあどうも」なんて言葉を返す頃には、相手は既に背を向けていて。詰られず解放されて助かったと安堵すべきか、総ての努力が水泡に帰したと落胆すべきかわからない。陽キャって奴は、やることなすこと自分のペースで動きすぎる。

「なんなんだよ……。この敗北感」

 企てを潰され、逃げの一手も解釈違いで躱されて。望み通り逃げ切れたが、振り絞った勇気は何の役にも立たず霧散するのみ。

「ちくしょう……。畜生ちくしょうチクショォオオ、東雲綾乃めぇ覚えてろぉおおお!」

 やりどころのない怒りが言葉となって、校舎の壁にこだまする。それを聞き咎める人間は何処にもいない。ただただ悔しさだけが空にとけてゆく。

 これだから陽キャは、これだから陽キャは。そんな言葉を数十数百つぶやきながら、瑠梨はしばらくその場に立ち尽くした。



※ ※ ※



「おっ、ようやく来てくれはったなあ」

「アヤちゃーん。どこにいたの? 探したよお」

 挫いた足首にテーピングを纏わせ、校内を巡ること十分。西ノ宮ちはると桐乃三葉は誰も居ない二年A組の教室で机をくっつけ向かい合っていた。

 デザイン画用紙は以前見たときよりも増えており、紙束を糸で縛って机の端に置かれている。


「き、昨日はごめん。なんかちょっと……イラついてて」

 それだけで、二人の仲がとても親密なのは解る。それに嫉妬し、もやついた想いを抱える自分がおかしいのも分かる。

(ちゃんと、話さなくちゃ)自分だけふつうじゃないのが怖い。秘めた想いを形にするのが恐い。認めてもらえるだろうか? おかしいよって笑われないだろうか。

 いや。否。認めてもらう必要なんかない。自分は自分だと言ってやれ。でなきゃ「ここ」に居る資格は無い。


「あの。あのね。ふたりに、聞いてほしいことがあるの」

 言うんだ。自分の”すき”は二人のそれとは違ってて、故に素直になれなかったんだって。唾を呑み込み、言いたいことを頭の中で咀嚼して。いざ口に出さんとしたその瞬間。

「待ってた! ずぅっと待ってた!! わたしもね! アヤちゃんに言いたかったことがあるの!!」

「は!?」

 こちらの覚悟など何のその。俯き加減で放った言葉を弾き飛ばし、自らの都合を綾乃に押し付ける。

「はいこれ。いない間に内容詰めたから、東雲さんの率直な意見を聞かせてェな」

 そんな二人の間に割って入り、件の桐乃三葉が綾乃にチラシを手渡す。

「意見?」訳も分からず、渡されたチラシに目を通す。一読するのに十秒もかからず、綾乃の顔から血の気が引いた。

「な、ななな……。なによ、これ」

「ナニって。見ての通りの代物やけど?」

「前に言ったでしょ。バケモノしばき倒すだけが魔法少女の仕事じゃないって」

 だから、相応しい仕事を取ってきたと? それが、これか? これが魔法少女のすべきことだと言うのか?

「つまり、あんたら楽しそうに肩寄せ合ってたのって」

「楽しそう? よくわかんないけど、ここ何日かの話なら『そう』だよ?」

 完全に出鼻をくじかれた格好だ。今更自分の癖の話をしたところで、彼女たちはまともに取り合ったりしないだろう。

 というか、綾乃自身も何を言うべきか完全に失念していた。何故って?

「あきる野市の町おこし。ご当地アイドルならぬご当地魔法少女。ちーちゃんと東雲さん、二人にこのド田舎の希望になってほしいんさ」

 こんなことを被せて告げられてしまえば、大抵のことは印象に残らず消えてしまうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ