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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
04:あたしがチェンジ?! そんなのムリムリ!
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「ごめんね。全部、私が悪いの」

「なんだってのよ……アイツ……」

 東雲綾乃は屋敷の正門にもたれかかり、苦々しげな表情を浮かべてうなだれる。

 自分が余計なことを言ったせいで、頼ってくれたひとを傷付けた。いたたまれなくなり飛び出すも、行き場を無くしここに留まっている。

「けど、あっちだって悪いじゃん。おかしいのは向こうでしょ」

 女である自分たちに学生服を着せ、愛の言葉を囁かせ、挙げ句キスまでしろと言う。普通じゃないとは聞いていたが、それにしたってやりすぎだ。

 私は悪くない。騙し討ち同然に取り込んで、邪な依頼を持ち込んだ奴らが悪いのだ。

(でもさ……)ならば、胸にくすぶるこのもやもやは何なのか。なんとなく察しはつく。

 雰囲気に流されて。ちはるに『いいよ』と囁かれ。あの時綾乃はキスを選ぼうとしていた。ここで理性が勝ったのは、菜々緒に向けた言葉を自ら省みたからだ。

「普通じゃない。あんなの、ふつうじゃないのに」

 呑み込まれてる自分は何なのか。悔やんで燻るこのもやもやは何なのだ。違う、違う、違う! 自分は断じて『そちら側』じゃない!

「何……?!」

 そんな風に思った自分が悪いのか。これが自分の願望なのか? 爆ぜる音に振り向けば、先程までいたあの部屋の屋根が吹き飛んでいる。なんでそんなことに? あんなことが出来る存在などただひとつ。

「アイツ……! まさか、ここに?!」

 これまで『奴ら』は大勢を狙い、自分たちはそこに居合わせる形で関わってきた。吹き飛んだ屋根から覗くのはクラゲめいた藍色の異形。あれの狙いは不特定多数ではなく、

「あたし、たち……?」


※ ※ ※


「ウワッ何これ甘ッ?! ミナちゃんこれ何!?」

「『スマックゴールド』ってご当地の飲み物。モールの物産展で売っとって、懐かしなったから……。甘かった?」

「ウン。流石にこれは……。お茶請けのお菓子がいらなくなるやつ」

 事情を説明させてほしい。西ノ宮ちはるは促されて居間に行き、地元の特産品らしい怪しげな緑の小瓶を呑んでいる。

「お姉はさ、なんというかこう……『ふつうじゃない』んよ」自らもスマックの小瓶を呑んで顔をしかめ、向こうから話を切り出した。

「と、言うと?」

「普通さ、女の子はカッコいい男の子とかに恋をするもんやん? や、子じゃなくても、年の差あったり、少し小さなのでも……。まあそんな感じや」

 それが総て、と言われると語弊があるが、ニュアンスはだいたい伝わってくる。だが口を挟ませるつもりはないらしい。どういうこと、と尋ねるより早く再び三葉が話を継いで来た。

「けど、お姉はそうはならにゃあだ。好きなヒトはいつだって女の子で。ごまかすようにBL嗜んでみたら、そっちにもハマっておかしなって。普通にヒトが愛せないんよ。だから……」

 話題が合わず、引き合ったヒトに恋愛感情を向けてみれば、そんなんじゃないと否定され。それが積み重なって二十年。あんな性格が形成される訳である。綾乃の言葉がずしりと響いた訳だ。

「詳細省いて連れてきたのは悪いって思っとる。けど魔法少女なら。ふつうと違うあなたたちなら、お姉にだって光を灯してあげられると……思ったから」

 ひどい買い被りである。魔物をひたすらしばき倒していた人間に、どうしてそんなことが出来るのか。

 怒るだろうか? 魔法少女という雰囲気だけで連れ出して。どんな存在なのか知りもしないで。びくつく三葉を前に、向かい合うちはるはスマックを飲み干し、『あのさ』と一度前置くと。

「ミナちゃんのお姉さん。それの、どこが悪いわけ? 聞いててその辺がよく分かんなくて」

「え、え……?」予想外の返答に、三葉の方がたじろいて。

「何でって、そりゃあ」

「お姉さん何も悪くないじゃん。女の子がオンナノコを好きになって何が悪いの? わたしはアヤちゃんのこと好きだけどさ、それが間違ってるって思ったこと、一度もないよ?」

 ちはるは胸を張ってふふんと鼻を鳴らす。ここでいう『好き』は幼少期の子供が軽率に話すそれで、菜々緒の感じる『それ』とは根本から異なる。

「ち-ちゃんは……、それが普通なん?」

「うん。そーだよ。それがなにか?」

 だが、今日出会ったばかりの三葉にそれが判るわけなどない。自信満々にそう語る彼女の姿は、空を照らす太陽よりも明るく見えたことだろう。

「そっか。そうか……。そうなんや! 別に、お姉だけが間違っとる訳じゃないんやな!」

「そうそ。元気出して。アヤちゃんにはわたしからきつーく言っておくからさ」

 傍から見れば何の解決にも至っていないが、当事者たちがそのことに気付くことはない。悲しむべきはディスコミュニケーションか。綾乃が仲立ちしていれば、両者の誤解はすぐ解けただろうに。

「戻ろう。まずはお姉さん。ごめんなさいって言いに行かなきゃ」

「せやね、せやね! ありがとなちーちゃん。うち、あなたと友達になれて本当に……」

 当人たちが不在のまま、話だけがトントン拍子で進んでゆく。その轟音はこのすれ違いに対する突っ込みか。二人が向かおうとしていた二階が音を立てて吹き飛んだ。

「なっ、なあーっ!?」

 それが『何か』と尋ねる必要はない。一段ずつ階段を下り、こちらへ向かう異様を前に、ふたり揃ってたじろいだ。


『ごめんね、みなは。私が。何もかも全部、私が悪いの』


 まるで暗幕を頭から被ったようなその異形。頭から足までシースルーの薄紫の膜ですっぽりと覆っており、頭頂部からは長く伸びた八本の触手を互い違いにうねらせている。

 だが、二人を真に驚かせたのは中身の方だ。透けて見える暗幕の中には、上下灰色のスウェットを纏った、見覚えのある黒髪の女!

「お姉?! どうなってんの?! ナンデ?!」

「えっ、アレってお姉さん?!」

 あの桐乃菜々緒が。綾乃に貶され、閉じ籠っていた三葉の姉が。シースルーの膜の下で項垂れ立ち尽くしている。何故菜々緒が? 一体いつ? あの姿はまさか ……。否、そんなこと関係あるか!

「何訳わかんないこと言ってんの?! そこから出よう! お姉!」

「ミナちゃん、駄目ッ」

 姉を慮って飛んだ三葉と、それを止めんと走ったちはるは全くの同時であった。襟首を掴んで彼女を留め、急に引かれた顎先を、半透明のしなやかな触手が通り過ぎる。

「ジョーダン……でしょ」

 行き場を失った触手は壁を打ち、一点のヒビもなく穴を穿つ。今ここで引き止めて無かったら、穿たれていたのは三葉の眉間だっただろう。


「ばけもの……。ニワトリやかぼちゃと同じ!」

 これではっきりした。あれは文化祭の仮装なんかじゃない。桐乃菜々緒は悪しき存在に囚われ、街を襲う化物共の同族にされている。

「なら、すべきことはひとつしかないよね! 待っててミナちゃん。ぱぱっとやっつけるから! 」

 言い終わるが早いか、懐からコンパクトを取り出して、自らを映して下のパネルを指でなぞる。

『キラキラチェンジ』の掛け声と共に上鏡に映った桃色ドレスが白のブラウスに切り替わり、リアルのちはるも以下同文。キラキラ少女グリッタちゃんが桐乃の家に姿を現した。

「なんだかよくわかんないけど! そこの化物! グリッタちゃんが相手だぞ! ミナちゃんのお姉さんを離せっ!」

 変身と共にバッグからバトンを取り出し、暗幕を被った菜々緒に突き立てる。いつもの勇んだ掛け声も、今日は少し語彙不足。容赦なくやりあえる魔物じゃないからか。

『ごめんね……。ごめんね……』

 変身したちはるを認識し、暗幕クラゲの触手が彼女目掛けて解き放たれた。目で見て避けられたのは経験ゆえか。横跳びで躱したその先で、食器棚にしまわれていた大皿三枚が砕け散る。

(わたしたちを……見てない?)

 バネめいて体勢を戻す中、ちはるは魔物への違和感に気付く。あの後ろ暗く陰気な声は自戒ばかりで他からの視点がない。

 操られているのか? だとしたら誰に? 戦うべきはそちらじゃないのか? ただでさえ定まらない思考にノイズが走り、ほんの少し動きが鈍る。

「ちーちゃん! 危ないっ!!」

 まさにそこを狙いすましたかのように。いや、ただの偶然だったかも知れないが。窓ガラスの割れる音と共にちはるの背後人影ひとつ。跳んで躱す暇はなく、硬い身体を無理矢理反ってのブリッジ姿勢。

 今の今までちはるの頭があったその場所をリーチの長い刃が通り過ぎた。跳ぶのではなく、上体反らしを選んだのは正解だ。振られた刃は真中を境にくの字に折れ、万力めいて掴んだものを圧し潰す。


「ようやく見つけたわ……。我が主の覇道を阻む者ぉ」

 身体を起こし、両の目で『それ』を視る頃には、向こうは既に飛び退いていた。ヒト二人分の距離を取り、食器棚の隣に立つは、扇情的な黄色のチャイナドレスを身に纏う美女。

「我が名はトウロ。グレイブヤード三賢人が末妹まつまい。主様に仇なす魔の者よ、その首女王様の手土産にしてくれるわ」

 マリーゴールドの奇特な瞳を輝かせ、両の前腕を置換した鎌を打ち鳴らす。翻って背後には菜々緒を取り込んだ暗幕クラゲ。未知の敵が一挙に二人。絵に描いたような最悪の事態、到来だ。

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