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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
04:あたしがチェンジ?! そんなのムリムリ!
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こんなの、駄目ぇええええ!!

「ほぉらお姉。ちゃんと挨拶して」

「ごめんみなは。久しぶりに、女の子に会って、キンチョーして……」

「違うやろ。顔を向けるのはうちじゃなくて、向こう!」

 戸の先に逃げた姉を妹が追い、部屋の中での説得が行われ早五分。上下スウェットの背の高い不審者は、妹に依って整容が行われ、毛先柔らかな黒髪ロングストレートになって、ちはるらの前に姿を見せた。


「アー……、はじめまして。三葉の姉の菜々緒です。さっきはその、お見苦しいところをお見せいたしまして、ウン」

 向こうの方が歳上なのに。出て来る言葉は奇妙な敬語。話しはするが目は合わさず。人付き合いに難があるのは一目で見て取れる。

「東雲綾乃です。えっと、あなたがお姉さん?」

「に、西ノ宮ちはると申します。今後ともよろしくどーぞ」

(これからもよろしくするつもりなのかお前は)

 懐疑的に視る綾乃に対し、ちはるはどこか他人行儀。生来の人見知りと魔法少女の依頼人という要素が合体事故を起こし、取るべき対応を決めあぐねているのだろう。


「はいはーい。みなさんよろしゅうね。ほぉらお姉、ちゃんとアタマ下げて」

「ちょっ、それくらい出来る。出来るからっ……」

 妹の求めに嫌がりながらも断れない姉。立場が完全にあべこべだ。これを自慢の姉と宣う気持ちがわからない。綾乃は困り眉で頭を掻くと。

「それで? このおねーさんは何をご所望なの?」

「え? 私、別に、何も……」

「はあ?」

 予想はしていたが、返答一発目から噛み合わないとは恐れ入る。一語ずつ言葉をひそめ、最後には下を向いてこちらを見ない。自分たちはからかうために呼ばれたのか? 否、三葉しかけにんの目に浮かぶ必死さに嘘はない。

「もう、お姉ったらとぼけちゃってえ」などと焦って言葉を遮り。「昨日届いたあの衣装。着てもらう相手が欲しかったんやろ」

「あぁ……。あぁ! ええ、えっ!? 嘘? そんな! ほんとに!?」

 菜々緒の顔がぱぁっと晴れ、よそよそしさが消えた。ちはるらを横に置き、彼女たちの背後の扉へ飛び込んでゆく。

「えっ、何……ドユコト?」

「いい加減説明してよ。あたしたち、ナニの為に呼ばれたワケ?」

「まあまあ。もう少しだけ待ってーな」二人に詰め寄られてもなお、三葉はにこやか笑顔を崩さない。

「ほら、もう戻ってきたで」

 言われ、指差す方を向いてみれば、黒い衣服を小脇に抱える不審者の姿。

「すごいわ、こんなこと……夢みたい……」

 赤渕眼鏡越しの瞳は暗く澱んでおり、"獲物"を前に唇をぶるぶると震わせている。

「わた、私桐乃菜々緒。はじめましてのあなたたちにぶしつけなんだけど、この学ラン! 着てもらえないかしら!」


「はい?」

「はあ?!」

 急に呼び出されて何かと思えば、服を着ろとはどういうわけだ。解りかけて来たことがどんどん分からなくなってゆく。

 ひとまずは、と差し出されたモノを見やる。片やオーソドックスな詰め襟の学ラン。片やワイシャツにブレザーの制服。どちらも男物の衣服であることは明らかだ。

「これを着て……何を?」

「ナニを、ってそりゃあ」

「あぁ! あー! あーっ!!」得意気な菜々緒を遮り、三葉が強引に割って入った。「ほらぁ東雲さんさっき言うたやろ。応援やて応援。これ着て、な。なー?」

「ね。ね? やろうよアヤちゃん! わたしたちが! 求められてるんだよ! 助けてあげなきゃでしょ!」

「うちからもお願いや。この通り、この・とぉおおり!」

 片や親友に詰め寄られ、片や三葉に土下座され、綾乃が断れるはずもなく。疑問は残るが、問い質して答えてくれる空気でもない。

「はいはい。もういい、もういいから」

 後は野となれ山と成れ。綾乃は総てを諦め、詰め襟の学ランを引ったくった。


※ ※ ※



『お前が悪いんだぜ。俺のこと、そんなに誘惑するんだから……』

『く……うっ! お前と言うやつは! お前って……やーつーはーっ!』

 三葉は、自分たちに何を頼んだ?

 体育祭の応援合戦? 共学高が男子の制服を纏い、フラッグを掲げて声を張り上げる光景。成る程、それなら応援に違いまい。

 だが、今行われている『これ』はなんだ? 髪を編み込んで帽子で隠し、ブレザーを纏うちはるを壁に追い込んで、上目で甘い言葉を囁いている。


「ちょっとちょっとちはるちゃーん。顔が笑ってるし、声に必死さが伝わって来ないよーっ」

「イイ! むしろそれで良い! あとは脳内で補完するから!」

 しかも、仕掛け人たちは彼女たちに台本を渡し、演技をせよと言ってくる。乗ったちはるは大人しく壁まで引き下がり、膝を曲げて綾乃の顔を上目で見ている。


「よっし、このままキメちゃえ! きーす! ちーっす!」

「きぃーっす! きぃーっす!」

 何をどうキメたのかさっぱりわからないが、依頼内容はどうやら大詰めに向かっているらしい。桐乃姉妹が囃し立て、ちはるからも拒否はない。


(アヤちゃん)

 向こうには聞こえない程か細い声で、ほんのり頬を高潮させて。ちはるが耳元でそっと囁く。

(わたし、アヤちゃんとなら……いいよ)

「は、は・ア……?!」

 顔が近い。あの子の匂いが直に伝わる。これまで意識して来なかったのに。いや、意識とは何だ? 彼女とは幼馴染であった筈。それ以上でも以下でもない!

 だからって、乗り気なちはるを放っておくのか? その気にさせて焦らすのか? 友達として、幼馴染としてそれでいいのか? 良かあない。ないのだが――。

「こ、ここ、こ……」

 鏡を見ずとも、顔が火照り真っ赤になっているのが解る。今一線を超えてしまったら、二度と幼馴染の間柄には戻れない。

 いや、待てよ。何故こんな話になった? どうして自分たちがキスしなくてはならない?

「こんなの、駄目ぇえええええっ!!」

 綾乃の頭が一気に冷えた。胸の高鳴りは何処かへと消え去り、疑問疑念が脳内を支配する。

「えっ、ちょっとどーしたのアヤちゃん!?」

「あんたもほら、ノセられてないでシャンとしろッ」

 もうあのドキドキはない。呆けた幼馴染にデコピンを打ち込んで沈め、はしゃぐ姉妹の前に立つ。

「何よこれ? 何なのこれ? 何させようとしたわけ? 」

「いや、その……ですね」

「モゴモゴ口ごもってんじゃあないわよ!」煮え切らない返答に、綾乃の語気はますます上がる。「あんた応援って言ったわよね? これが応援?! ンなわけない、絶対無い! 何やらかしてんのよあんたらは!!」

 だまくらかして連れてきて、その上無駄にどきどきさせて。堪忍袋はもう限界。目上だから。依頼者だからと押し殺してきた感情が溢れ出す。

「あたしもちはるもオンナなの! なのにナンデ? どうして男装してイチャつかなきゃなんないの?! あんたアタマどーかしてる! 男はオトコ、女はオンナ。恋愛対象濁らしてんじゃないっつーの!!」


「わかってる」

 綾乃の言葉はどうしようもなく正論で。ちはるも三葉も口を挟めずあわあわするばかり。

 では、今のは誰の言葉だ? 綾乃の目は声のする場所、項垂れた依頼人の方を向く。

「解ってるわよ……。そんなこと……!」

 消え入りそうなその声は、ほんの少し怒気をはらんでいるように聞こえた。それは気のせいなどではない。声のトーンはだんだん上がり、込められた怒りは熱を帯びて。

「無理だって、解ってるから頼んだんじゃない!!!!」

 長い髪を振り乱し、立ち上がるなり回れ右。転びそうになりながら廊下を駆け、再び自室に舞い戻る。

 ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら。


「なによ」

 錠のかかる音を聞き、綾乃の頭がようやく冷えた。翻って自分は何だ? おかしいのは向こうだ。それは違いない。けれど、追い込んだのは彼女自身。ワケも解らず地雷を踏み抜いて、菜々緒を泣かせた張本人。

「なによ。なによ、なによ! なんだってのよ!? ワケわかんない! 全ッ然、わからない!!」

 泣かれて、傷付け、傷ついて。心のモヤモヤが収まらない。綾乃もまた身を翻し、家の外へと駆けてゆく。


「あ、アヤちゃん!」

「待って」

 逃げる親友を追おうとするちはるを、残された三葉が呼び止める。

「ちーちゃんごめん。少し、少しだけ。話しさせて、もらえへん?」

「でも、アヤちゃんが」

「いま言うても火に油や」三葉は無駄だと首を横に振り。「こうなったんはみんなうちのせい。ほんまに悪気は無かったんや。お姉に元気になってほしくて……」

 親友の行方も気になるが、こちらも放っては置けなそう。ちはるは二択に迷い、眼前で曇り顔を晒す三葉を取った。

「東雲さんの言うことも尤もだがね。けど、お姉は普通じゃないんよ。だから――」


※ ※ ※


「あぁ……。駄目駄目駄目。何やってるの菜々緒。あんなの夢だってわかってたじゃない」

 閉め切った部屋の中、掛布を被ってベッド上にうずくまる女の姿あり。枕に顔を埋め、溢れ出る声を必死に押し殺している。

「どうして……。どうして私は『ふつう』じゃいられないの」

 面と向かって言われたせいか。今まで我慢できていたあれそれに堪えられない。

 普通ならこんな思いはしないのに。普通なら妹に迷惑をかけたりしないのに。普通なら、普通なら。普通なら!

 責めるべきは自分自身。他を責めようがどうにもならない。そんな世界に生きる自分が。So What(だから)? と無視する此の世界が。憎らしくってしょうがない。


『キミは、セカイがニクイのかい?』

「え……?」

 泣き腫らす菜々緒の耳元に、聞き慣れない片言の日本語が伝う。顔を上げて周囲を見やれば、自身の背後にピンクの外套。

『ジャアサ、ぶっ潰しちゃえばイインダヨ』

 外套の中から半透明の腕が現れ、有無を言わさず菜々緒の頭を鷲掴む。その根本からポンプ運動を用い、彼女に『何か』を植え付ける。

『安心シテ。私はキミの味方ダ。存分にブッつぶすがいい』

 植え付けられた『それ』が帽子状に生長し、垂れ下がった膜が菜々緒を取り込んでゆく。そこに彼女の意思は介在しない。菜々緒は悲鳴を上げることすら出来ず、暗幕の中で人間ではないなにかに『作り変えられて』ゆく。


『さあ、存分に暴れタマエ。キミと私。双方Win-Winだ』

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